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【正義のヒーロー電撃入籍。お相手は共演者の美人女優】
結婚披露記者会見。
会見席である白いテーブルには、華やかな色とりどりの花が飾られてある。
大勢の取材陣とカメラの前。新郎であるスーツ姿の広瀬翔は、かつての共演者である美人女優の新婦と肩を並べ、テーブル席に腰掛けていた。
多くの質問に答えた後、翔は「自分からも、少しだけ宜しいでしょうか」とテーブルマイクを引き寄せた。
「本日は、私たち新郎新婦の為にお集まりくださり、誠にありがとうございます」
無数のフラッシュライトの中、翔は言葉を続けた。
「自分には何人もの大切な人がいます。文字通り命を懸けて、正義の心の大切さを教えてくれた天国の父。そんな父をずっと支え、人を信じることの大切さを教えてくれた天国の母。ずっと自分を応援してくださっている、ファンの皆さん。事務所の社長や、多くの仕事の関係者の方々。そして、ここにいる妻」
カクテルドレスを着た新婦が、頬を桃色に染める。
有名美人女優である新婦は、惜しまれつつも入籍と同時に芸能界を引退。今後はひとりの主婦として、夫の仕事を影ながらサポートしていくとのことだ。
「そして、もうひとり。僕の事をずっとずっと応援してくれていた、ひとりの少年――」
翔が一瞬、瞳を瞑る。感極まったのだろうか、そのまま彼は天を仰いだ。
しかし直ぐに気を取り戻し、言葉を続けた。
「これらの大切な人たち……いわば恩人です。これからは自分が、みなさんへ恩返しをする番です。まだまだ若輩者の自分ですが、妻とふたり手を取り合い精一杯精進しますので、これからも応援の程、どうぞよろしくお願い致します」
新郎が結婚会見の席を立つ。彼は颯爽とテーブルマイクを掴んだ。
それに習うかのように、新婦も続けて立ち上がる。
無数の眩いフラッシュライトの光。遍く銀河の星々のように、新郎新婦を照らし出す。
「いいかい、ピンク?」
「OK、レッド!」
ピンクのドレス姿をした新婦の橋本麻衣が、満面の笑みでウインクする。
「義理と人情、正義の心で恩返し」
新郎の声が会場に響き渡る。かつて新郎新婦が演じた、子供向け特撮ヒーロー番組の決め台詞だ。
背筋を伸ばし決めのポーズ。赤色のスーツ姿の端正な顔立ちの新郎が、両手を大きく振りかざす。その勢いでテーブル席の五色の花が、ふわりと風に揺る。
新郎は、胸を張って叫んだ。
「純烈戦隊セイギリオン!」
◇
「うふふ、広瀬さんったら」
ほうじ茶をすすりながら、お茶の間の望美は頬を緩めた。
(次話へ)
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