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翌年の春。
蒼月家の居間の液晶テレビの画面に、ふたつのニュースが流れてきた。
ひとつは今をときめく人気若手俳優の父親が、白骨化した遺体となって秋田県の県北山中で発見。その犯人である女性が、警察に身柄を確保されたというものだった。
加害者が被害者を殺害をしたのは、十年以上前。しかし最近になって罪の意識にさいなまれた彼女は、突然自ら出頭した。それが今回の遅い発見に至った経緯であった。
加害者の証言によると、被害者は警察官であった自分の父親の部下だった。
被害者は上司から「実はうちの不良娘がドラッグを……」と内密な相談を受けた。
正義感の強かった被害者は、当時覚せい剤に溺れていた加害者を、警察官としてではなく、あくまで個人として説得しようと試みた。
警察官の娘が覚せい剤で逮捕となると、ふたりは社会的な汚名を受けることとなる。
日頃お世話になっている上司の名誉を守る為。その上司の、大切な娘さんの未来を守る為に。警察沙汰になる前に、悪の道から抜け出させようとしたのだ。
そうやって被害者は、当時加害者が勤務するキャバクラに再三、足を運んだ。
「君のご両親が悲しんでいる、違法ドラッグなんて止めるんだ」
被害者は何度も店の裏に呼び出し、必死の説得を繰り返した。
それを疎ましく感じた加害者女性が、当時交際中だった店員と共謀し被害者を殺害。ふたりで県北の山中に埋めたということだった。
その後、加害者の女性は逃亡。その際、共犯者とでなく自分が殺害した男性と「駆け落ちするから」との嘘の情報を残した。
被害者が行方不明になった理由は、よくある痴情の色恋沙汰。そういう事情なら警察も失踪事件として、まともに取り扱わないだろう。加害者は自分への容疑の目を逸らす為に、そう目論んだのだ。
加害者の父親は当然、部下よりも娘を疑うだろう。しかし父親は行方不明になった部下よりも、実の娘を庇うことを選択した。加害者としても、そう見越しての犯行だった。
その黒い策は、まんまと思惑通りになった。加害者は自分の犯した罪の重さもすっかり忘れて、これまで悠々と遠い場所で暮らしていたのだ。
ところが――。
加害者は昨年の夏頃から突然、毎晩のように悪夢にうなされるようになった。
十年以上前に殺した被害者が、今になって幽霊となり毎晩枕元に現れる。そんな幻覚症状まで現れるようになったのだ。
加害者は眠れない日々が続き、やがて重度のうつ病となり、心神喪失を重く患った。
それで今回、自首をすることを決意したとのことだった。
◇
まほろば堂、昼営業の開店前。
そんなテレビのニュースに望美は、ちゃぶ台の前で正座しながらじっと耳を傾けていた。
台の上には備前焼の急須と湯呑み。素朴な味わいの茶褐色をした地元の特産品だ。中には恒枝茶舗のほうじ茶が注がれてある。
まほろば堂の店頭奥の、蒼月家の居間。最近の望美は自由に敷居を跨げるようになっていたのだ。
「にゃあ」
横では黒猫マホが、ちょこんと藍染めの座布団の上に座っている。
店主の真幌は奥で仮眠中。昨夜も顧客である生霊との面談が長引いたそうだ。
「そっか、広瀬さんのお父様……お亡くなりになっていたのは残念だけど。でも」
正義のヒーローを演じた青年の父親は、やはり正義の男だったのだ。
「それにしても、昨年の夏頃から……って。ねえ、これってもしかしてマホくんの仕業?」
「ふにゃあ」
ぺろぺろと毛繕いをしながら、黒猫は呑気にあくびをした。
そして、もうひとつのニュースとは――。
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