それでも、この『世界』で
@saku55
第1話 『ここに何かを埋める』
私は『』だ。
名前も何もない。
呼吸、鼓動、少しの空白と少しの余韻があればそれでいい。
ある日の午後、色鮮やかな西日が私を照らす。
そして気づけば、また『客』なるものが私を訪れる。
不安な顔を浮かべる『客』に私は尋ねる。
この問いも何度目だろうか。
新鮮な空気と埃の匂いを堪能しながら。
「それでも、この『世界』で生きていきますか?」
-----------
私、『庵原香奈』は死んだ。
朝から体調が悪かったが、母の心配も他所に、仕事を休まず、いつも通り最寄駅の改札を通り、上り線のホームに立った。
そこから記憶がない。
そして今、私は謎の人物に見つめられ呆然としている。
透き通った瞳、肩まである長い髪、美しい白い肌。
佳人という言葉はこのような者のためにあるのだと思った。
見惚れていた私はハッと気づき、思いがけなく声が出てしまった。
「あ、あのぅ」
私の声にもその人は微動だにしない。
そもそもここはどこなのか?
会社に行かなければならないのか?
夢なのか?
勝手に決めつけてはいたが、私はそもそも死んだのか?
動揺と不安を見せた私に気づいたのか、少しの沈黙の後に、その人物は口を開いた。
「それでも、この『世界』で生きていきますか?」
思いがけないその問いに混乱が混乱を覆い尽くす。
「あ、あなたは一体何者なのですか?そしてここはどこなのですか?私は死んだのですか?」
質問攻めしてしまった。
初対面の人にこんなこと。それでも。
知りたいのだ。
得体の知れないモノ・コトに触れた時、人はこうなるのだろう。
普段の生活から感じることのできない飽くなき探究心を見せびらかすのだろう。
「……では、一つずつ。私は『』です。ここの『選別者』ということにしておきます。そしてここは『選別会場』で、あなたは『参加者』です」
少しの笑みを浮かべながらその人物は答えた。
何を言ってるのか、わけがわからない。
「まったくわかりません!なにより最後の質問の答えは答えになってないですよ!」
「はて?ダメですか…。ですが、『ルール』は『ルール』ですからねぇ」
「だから!その『ルール』とか、全てがわけがわからない!私は一体……」
私は言葉に詰まった。
その人物が一瞬見せた冷徹な視線に、言葉を失った。
「……すみません」
「いえいえ。誰しもここに来れば、そうなりますから」
「それでは、あなたも私の質問に答えてくださいますか?」
質問?
あ、それでも、この『世界』で生きていくかってことかな。
そんなの即答でしょ。
「答えはNOです!生きていきません!ここがどこかもわからないのに……だから、早く私を元の世界に返してください」
私のその答えに『』は笑みを浮かべた。
「お答えしていただき、ありがとうございます。では、始めさせていただきます」
「な、なにを?」
「なにって……『選別』ですよ」
「あなたがこの『世界』で生きていくかどうか」
「その答えはもう言ったでしょ!元の世界に返してよ!この『世界』では生きていかない!だってこの『世界』は……」
「そうですねぇ。庵原さん。この『世界』は……」
「あなたの仰る『元の世界』ですから」
-----------
『選別ルール』
一、選別者は『』でなければならない。
二、選別会場は『』でなければならない。
三、選別者は教えてはならない。
四、参加者は気づいてはならない。
それでも、この『世界』で @saku55
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