双子のデジャヴ

一水素

双子のデジャヴ

僕たちは双子だ。

一卵性双生児、神様がくれた奇跡。数パーセントに満たない確率から巡り合った奇跡に僕は感謝している。そして何より、僕には神様からもう一つ贈り物があった。


それは既視感、デジャヴ。

物心ついた時から備わっていた予知夢にも近いそれは最初は僕を困らせた。




弟と一緒に小学校に登校している途中、僕たちのクラスメイトが話しかけてきた。他愛もない話をしていると、僕は自然と次にその子が何を話すのかが分かったような気がした。だけどその話はされなかった。


確信に近いものを感じていたので僕の心には相当な違和感のしこりが残った。

その翌日、僕は少し寝坊して弟よりも後に家を出た。さほど遅れてはいなかったので急いで弟の後を追うと、弟は昨日も会ったクラスメイトと話をしていた。


段々と近づくにつれて会話の内容もハッキリとしてくる。そこで聞いた内容は昨日僕が感じた既視感そのままの内容だった。

そこで僕は気づいた、僕の感じた既視感は翌日弟が体験するものなのだと。

 

でも特に悪い気はしなかった。

僕は弟を何よりも大切に思っているし、弟も僕のことを大切にしていた。今まで一度も喧嘩をしたことはないし、これからもする未来が見えない。周りの人たちはそんな僕たちを兄弟の理想形と言い、僕たちは色々な人たちのお手本になっていた。


現に、寝坊して遅れて家を出た僕が追い付くようにあえてゆっくりと歩いてくれているし、僕に気づいた時にはクラスメイトそっちのけで僕のほうまで駆け寄ってきた。そんな弟のためなら少し違和感を感じることぐらい何とも思わない、そう思った。


 

それからも何度か既視感を覚えることがあった。

僕がテストで手応えがない時に、弟も苦手な教科で苦戦するような既視感を覚えた。なので詳細を教えつつ明日に向けて勉強を頑張るようにと促した、そのおかげで弟は成績優秀者として表彰された。

僕はそれに少し及ばず表彰されることはなかったが、すごく誇らしく思った。


その後も僕の助言を頼りに弟はどんどんと周りから注目を集めていった。

僕は「弟よりも劣る兄」なんて言われたこともあったけど、それを聞きつけた弟が言った本人を殴った。


弟は僕の悪口に敏感で、僕が悪口を言われたときは慰めてくれたし、僕を何より気にかけてくれた。



でも、その一件以来僕はクラスメイトの間で腫れ物扱いになった。




弟は毎日学校で一人の僕に話しかけに来た。

色んな人から話しかけられるけどすべて断って僕のところに来るときもあった。そんなときは嬉しい反面少し申し訳なさを感じた、僕といたら君の評判が悪くなるよと。でも弟は大丈夫と言った。その言葉がとても嬉しかった。



だけどなぜか僕の心のしこりは消えなかった。



 

中学に入った時、不意にテレビを見ていた弟が既視感を覚えたと言い出した。テレビでは兄弟が喧嘩をしている光景が映し出されていた。


「そんなわけないだろ?僕たちは一度も喧嘩したことないし、これからすると思うか?」


そう言うと弟は不思議がりながらも頷きまたテレビを見始めた。

僕も気になり何日か気を張っては見たもののそんな気配は微塵もなく杞憂に終わったのだった。


 

 

中学でも僕は独りだった。

僕たちと同じ小学校だった子たちが噂を広めて僕に話しかける人はいなかった。それを見かねた弟は毎日毎日僕のところへやってきた。違うクラスになってしまい、入りずらい空気がある中でもお構いなくやってきた。


僕は嬉しい反面やはりどこか申し訳ないような気がした。その証拠に、人気者の弟が独りの僕の所へ毎日やってくるのはとても目立っていたし、浮いていた。

日に日に僕に向けられる視線が痛々しいものになるのに気付いた。弟はそんな愚痴を毎日親身になって聞いてくれた。



でも僕の心のしこりは大きくなったような気がした。



 

高校生になった。

弟は高校を選ぶ時も迷わず僕と同じ高校を選んだ。兄さんに今まで助けられてきたからもっと恩返しがしたいと。


弟はよくできた子でキッチリと毎朝同じ時間に起きたりなど完璧だった。僕はその分起きる時間にムラがあり何度も弟に助けられていた。寝不足で授業中に寝てしまった時は授業でやったところを改めて教えてもらうなどもしてもらった。


そのお礼に僕は既視感を覚えたらすぐに弟に言い、その結果弟は高校でも人気者になった。そんな弟がやっぱり誇らしくて、僕はとても嬉しかった。



そして僕はまた独りになった。



 

ある時、僕に転機が訪れた。

生まれて初めて恋をしたのだった。


その子は誰とでも仲良くできるような人で、浮いている僕にも優しく接してくれた。僕と弟が話していると必ず話に来て笑顔を振りまいた。弟以外の同級生とあまり話したことがなかったのでとても嬉しかった。


弟も、初めて僕が自分以外の人と話しているところを見てとても嬉しそうにしていた。そして僕は次第にその女の子に惹かれていった。

弟も、あれは脈ありだな!なんて笑いながら話をしていた。

 


満を持して告白することにした。

放課後の誰もいない教室に呼び出し思いを伝えた。


「ごめん…私が好きなのはあなたの弟さんなの」


そうキッパリと断られた。結構話して仲良くなったと思ったのにな。

でも思えば二人きりで話したことは一度もなかった気がする。



僕は独りポツンと教室に立ち尽くしていた。



 

数日後、僕は弟と一緒に下校しようと弟のいる教室まで足を運んだ。

すると、教室の中であの女の子が弟に告白しているところが見えた。断られたのか女の子は泣きながら教室から出ていく。


そして、教室のドアのところで僕と鉢合わせになった。女の子は憎悪に満ちた目を僕に向け何処かに行ってしまった。弟はあの女の子に対してかなり怒っていた、何しろ僕をダシに使ったということだから。僕はそんな弟を宥めていた。



僕の心のしこりは大きさを増していった。



 

ある日、とあるニュースを見た。

道路に飛び出してしまった女の子を助けるために、男性が道路に身を乗り出し女の子を助けた。だが男性はトラックに轢かれ犠牲になったというものだ。


重たい眼を開きながらぼんやりとそれを眺めていたら急に既視感を覚えた。


かなり動揺した。今まで弟の生死に関わることなんてなかったし、このままでは弟は死んでしまうと。

急いで伝えようとソファーから立ち上がった瞬間、心に鉛のような重くてドロドロとしたものが入り込んできた。



それがどうにも気持ち悪くて、僕はすぐに寝込んでしまった。



 

翌日、僕がベッドから起き上がると弟が心配そうに僕のことを見ていた。

昨日は体調が優れなかったけどもう大丈夫と言うことを伝えると、弟は気分転換に散歩をしようと言いだした。


外に出ると綺麗な桜が咲いていた。何回も見てきた桜だけどいつみても綺麗だ。そんな綺麗な道を弟と歩き他愛もない話をした。

弟は大手企業に就職し順風満帆な生活を送っていた。そして僕は過去のことが尾を引き人間不信になっていた、仕事にも就けず家から出ない日々を送っていたのだ。


弟はそんな僕に毎日会いに来て世話をしてくれた。そんな弟が気難しそうな顔をして話始めた。


「…今まで俺がしてきたことは却って兄さんの邪魔をしてたかもしれない。だから…」


そこまで言うと弟は何かに気づき道路へと飛び出していった。

見ると女の子が道路に飛び出してしまいトラックに轢かれそうになっていたのだ。



弟は急いで女の子を突き飛ばし…トラックに轢かれた。


 

 

女の子は奇跡的に助かった、でも弟は肉塊になってしまった。

周りでそれを見ていた人たちは騒ぎ出す、携帯を取り出し写真を撮ったり電話をかけたりしている。


僕はと言うと、弟を少し見ると自宅の方へ歩き始めた。写真を撮る人を横切り、その場から逃げるように歩いていた。 

 


桜が綺麗に見える道路まで歩くと、さっきの出来事を思い返した。


そしたらなぜか心の中にあったドロドロとしたものが消えていった。胸がスーッと晴れていくような気持ち。そして同時にあることを思い出した。


「あ、兄弟喧嘩の既視感ってこれのことか」



 

今日はとても晴れていて気持ちがいい。

桜の木々から零れる陽の光を浴びるととても清々しい気持ちになる。散歩から帰る道中、人生で一番晴れた気持ちで歩いていた。




でも、晴れ晴れした気持ちとは裏腹に、目からは涙が零れていた。

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