第18話 剣道少年の初クエスト その1
「で、薬草取りの依頼にいくの?」
「そのつもりだよ。森の中でエンラントの花かセラビニアの葉を取ってくるんだったよな。で、途中ゴブリン等魔物が出たらそれを退治、と」
「あたし、護衛とか魔物退治メインであまりそういうのやったことないんだけど、あなた薬草分かるの? 見分け付く?」
「大丈夫、中の人が知ってる。……よな?」
『まあな』
「?」怪訝な表情を浮かべる。
「いや、こっちの話。何とかなる」
「ホント大丈夫なのかしら、こいつ」変な目で睨まれる。
失敬な。
……で、ノエルの方は、どの程度の魔道士なの?
『知らん。見てみないと分からん。が、まあ、所詮は辺境の田舎魔道士、大した事は無いのじゃなかろうか。魔法というのは素質と高等教育の両方が必要なのだ。良くてもせいぜいB評価くらいだろう』
なんつーか、すげえ上から目線だな、
「いいわ。準備は何が必要?」
ノエルが腕を組んでまるで試験官のような目でこっちを睨むように見ている。こっちも上から目線だ。
「初回だし、様子見に日帰りするつもりなんで、一日分の水、保存食、あと、薬草を入れる袋くらいあればいいかな、と。これから買いに行く」
「火口箱はある?」
「火種はまあ、あるな」百円ライターだけど。
「ふーん。買い物する店にあてはあるのかしら」
「あー、五番街のギュンター商会って食料とか売ってるのかな」
「五番街の? まあ、あるんじゃない」
「では、そこで買おうかと。出発は明日、ギルド集合でいいです?」
「買い物も一応ついていく。ちゃんと必要な物そろえるか見てるわ」
「それは……ありがたいな」
「引き受けた以上、ちゃんと面倒見るわ」
うーむ、真面目だ。ほんと委員長と呼びたくなる。アレスさんのご指名はこの性格を評価してなんだろうな。普通なら冒険中以外は放っておかれそうなもんだよな。
五番街のギュンター商会を訪ねた。ギュンター商会は意外にも目抜き通りにある店だった。それなりに儲かっている店のようだ。
雑貨、食料品、その他用途の分からない道具などが棚に並んでいる。
「あー、スズおにいちゃんっ!」
店の奥から全速力でサーラちゃんが飛びついてきた。
「お菓子は?」
「ごめんねー。あー、そのうち稼げたら何かお土産買ってくるよ」
この世界のだけど。
「おにいちゃん」
「何かな」
「この人だれ?」
ふわふわ天使のサーラちゃんにしてはちょっと不機嫌なお声。
ツリ目委員長、もとい、魔道士ノエルがジトッとした目で見る。
「あんた、まさかこんな小さい子に手を出してるんじゃないでしょうね」
失敬な。
「サーラちゃん、この人は今日から俺の仕事仲間なんだよ」俺はサーラちゃんの頭をなでる。
「ふーん」サーラちゃんがぎゅっとひっつく。
「いらっしゃい。お客さんかな」
サーラちゃんに続いて店の奥からコーエンのハゲ親父が出てきた。
「おー、ヤマダか。お菓子売りに来たのか?」
親子だね。
コーエンは、がしっとしがみついているサーラちゃんを俺からはがして抱っこする。サーラちゃん、ちょっと不満そう。
「いろいろ売ってるんだなぁ」
「まあ、売れそうな物は何でも売る」
「そういや、あのお菓子、ここで売ってるの?」
「あれは店では売らん。領主様のところに他のものとセットで売るつもりだ」
「……いくらで?」
「それは秘密だ。ああ、自分で直接売ろうとか考えない方が良いぞ。鑑札を持った信用ある商人でないと領主様の屋敷に出入りは出来ん」
ニコラが得意げに言う。
「信用ある商人ねぇ」
「うちは規模は小さいがここで長年誠実にやっとるのでな。で、遊びに来たのか?」
「いや、買い物。保存食的なものを一日分、それと水袋が欲しい」
コーエンが店をがそごそと探し回る。何かの動物の革で出来た締めひもの付いた水袋、それから干し肉と小麦を焼き固めたような乾パンの系の物体を並べた。
「いくらだ?」
「ルーマ銅貨十五枚」
ふむ。他に何かないかな。まあ、聞いてみるのが一番か。
「冒険者になったんだが、なんか冒険者御用達の道具とかない?」
「冒険者ねぇ。魔法のカンテラとかどうだ? コンティニュアルライトの魔法がかかっていてる魔道具だ、マナ結晶がある限り光を出してくれる。結晶が無くなったら結晶だけ交換出来る。他にも、火を付ける魔道具とか、水を生み出す魔道具とか、冒険に役に立ちそうな魔道具はいくつか扱ってるぞ」
ほう、噂の魔道具か。興味はある。
「その魔道具のカンテラはいくら?」
「んー、おおまけに負けてルーマ銀貨十五枚ってとこだな」
「……稼いでから来るよ」
「そうしてくれ」
こっちの懐具合を察したようだ。その通り、あんたから貰った銀貨七枚が全財産だよ。いや、ギルド登録に払ってしまったので今は銀貨六枚だ。
後ろから咳払いが聞こえた。
紹介くらいするべきか。
「えーと、こちらはノエル。しばらくコンビを組むことになった」
「へー、俺もこの街の商人だ。ノエルさんの名前は知っとるよ。ヤマダよ、おまえ冒険者ギルドで結構高く評価されたんだな。いきなりこんな魔道士様と組んでもらえるなんて」
ノエルがふふんと得意そうな顔でこっちを見た。
はいはい。
「で、何か意見はある? 俺の買い物」
「トラブルの時の為に食糧は二日分にしておきなさい。あと、今回はあたしが一緒だから良いけど、回復魔法が使える魔道士がいないパーティで行くときは回復のポーションを買っていくこと」
「なるほどね。了解」まあ、高いポーションとか今は買えない。そのうちだな。
結局支払いは銅貨二十枚になった。銀貨二枚払って、銅貨一二枚をおつりに貰う。
「で、今夜の宿は?」
「特には。野宿かな」
「……田舎町とはいえ、領主の兵士が巡回することだってあるのよ。番所に引っ立てられるかもしれないから止めときなさい」
「んじゃ、この町で一番おすすめな宿屋教えてくれ。安くて飯がうまいところが良い」
「一番おすすめの宿……えー……」ちょっと顔をしかめて言いよどむ委員長。
「何だよ、ケチケチしないで教えてくれよ。引き受けた以上、ちゃんと面倒見るんだろ?」
「くっ……分かったわよ。ついてきなさい」
ツリ目委員長ノエルに連れられて来た宿には、安らぎの我が家亭という看板の掛かっていた。
宿の庭に、庭木というにいささか大きすぎる木が生えているのが印象的だ。
ノエルが玄関の扉を開けて入る。後に続くと、
「まぁまぁまぁっ。ノエルちゃんが男の子連れてくるなんてっ」
宿の中に居た貫禄たっぷりのおばちゃんが黄色い声を上げる。
「違うわよ!」
「照れなくてもいいのにっ」
「こいつは今日ギルドに入った後輩。宿がないって言うから連れてきたのっ。それだけよ! くだらない想像しないでくれる」
ノエルがまなじりを上げて睨む。
「えー、でも、今までうちにお客連れてきた事なんかなかったじゃない。
……本当にただ後輩?」
「町で一番お薦めの宿はどこかと聞かれたから、しょうがなくここに連れてきたのよっ。嘘つく訳にはいかないでしょ!」
「あらあら、まあまあ」
おばちゃんがノエルを抱きしめた。
「おばさん、じんと来ちゃった。嬉しい」
「ちょっ、やめてって。ティッカおばさんっ」
なごむなぁ。
自分の中でノエルのあだ名がツリ目ツンデレ委員長にクラスアップ。
部屋は四畳くらいだろうか。半分はベッドだ。古くて狭いが、丁寧に掃除されているのが分かる。
これで一日銅貨十枚食事付き。ノエルの言によると宿の質に対して格安らしい。確かに悪くないと思う。
しかし、チョコレートとカロリーメートを売った銀貨七枚のうち一枚はギルドに。買い物で銀貨二枚を払っておつりを貰い、残りは銀貨四枚と銅貨十二枚。
一週間分の宿泊費そこそこしかない。
明日からでも稼がないとすぐに野宿が見えてくる。
まあ、あのティッカおばさん、優しそうだから少しはツケが効きそうな気もするが、初めからそれを当てにするのはいかんよな。
……優しそうに見えて、存外、金がなくなったら問答無用で追い出される可能性もあるし……。
飯はまあ、うまかった。
煮込んだ野菜スープと塩ふったイモ。
香辛料はそれほど発達してないが、塩は豊富なようだ。日本の塩と違って茶色っぽく、雑味がある。
『あー、ここらへんだと日本みたいな海水から精錬した塩じゃなく、岩塩掘って砕いただけだからな』
寝る前に明日の準備をしなければ。リュックに入らないので手に持って帰ってきた保存食と水袋が床に置いてある。リュックは元の世界から持ってきた荷物でパンパンなのだ。
戦闘を考えると、この宿に置いてく荷物と、明日持ち歩く荷物を分けないとな。
なるべく置いていける荷物は部屋に置いて重量を軽くしていくのが良いだろう。
フィスタルのローブ、太陽充電器付きスマホバッテリー、保存食二日分、ペットボトルのお茶1つ、チョコレート、カロリーメート、水袋、十徳ナイフ、ライター、下着、稽古着、その他いろいろくだらない雑貨からヤバめの物まで異世界から持ち込んだものを、次々とリュックから床にぶちまけていく………。
ん? フィスタルのローブ?
そういえば、これって……。
『わしのローブのポケットに全部入れてけばいいんじゃないのか? 荷物』
「ああ!」
うん、この世界に来てから機能が復活した黒ローブの異次元ポケットに荷物を全部突っ込んだ。ポケットに物を入れた途端重さも容積もなくなる不思議な感覚。面白いので調子に乗って何でもひょいひょいと異次元に転送してしまう。
パンパンに膨れていたリュックがスカスカになった。結局、黒ローブ一つだけ入っているという状態だ。横にくくりつけた静香先輩の御守りが揺れている。
「いやあ、軽い軽い」
『なんでわしのローブ着ないの?』
「なんとなく似合わない気がして。それにリュックから出し入れした方が目立たないかな、と」
翌日、早朝、宿屋の庭に俺は立っていた。
息を吐き出すと同時に腕を振る。早く、もっと早く。
全身の動きを研ぎ澄ます。
「ヤマダ、あんた何してるの? 裸で」
「ズボンは着てるだろうが、人聞きの悪い。見ての通り素振りだよ。朝の日課」上半身は脱いでいる。汗かくからな。
ノエルがツリ目でジロッと睨む。何かこの子に睨まれるの気持ちよくなってきた。癖になりそうだ。
「これからクエスト行くのに今体力使ってどうすんのよ」
「……まあ、そう言う考え方もあるな」
「剣をしまって服着なさい。ティッカおばさんが朝ご飯出来てるって言ってたわ」
「おー、わざわざ呼びに来てくれたのか。さんくす」
「たまたまよっ」
ノエルはプイッと顔を背けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます