第2話 イグニッション・戦うことが ①
「隊長、発見しました・・・・・・」
朝日も登りかけた頃。1人の牛人が力なく口を開いた。その目線の先は、
「フィル・・・・・・」
腹部に風穴を開けた、同胞の骸——彼の父サーロは、静かに、されど強く目をつむる。そして片膝をつくとその頬に手を当て、顔の形に沿ってなでおろす。
「隊長・・・・・・その」
隊員がそんな彼の姿を気にかけ、声をかける。しかし、
「・・・・・・遺体は捨ておけ。これより帰投する」
無用だ、と言わんばかりに立ち上がると、毅然とした態度で言い放つ。そして振り向きもせず馬の方へと足を進める。
「よろしいのですか」
「・・・・・・何がだ」
「息子殿の、仇討ちは」
部下の言葉に、彼はピクリ、と足を止め、少しだけ振り向くが、
「これは奴の独断専行が招いた末路――当然の結果だ。下らんことをぬかすな」
冷たくそうとだけ言い放つと向き直り、馬へ飛び乗る。
「しかし隊長!」
「くどい!」
なお追いすがる兵を一喝すると、サーロは馬に鞭を入れ、その場を走り去る。
「お、お待ちください!」
慌てて兵も馬に乗り、フィルの遺骸を一瞥して後に続く。
今、感情任せに村を襲撃したならば自身の死は免れないだろう。あの人間はともかく、フェン・イーグレー。今は追われる身とはいえ、先代魔王が最も信頼を置いていた男。ここで奴と一戦交えるのは得策ではない。今はただ、退くことが最善。
「隊長」としての彼は至って冷静に判断していた。しかし、「父親」としての彼は――
「・・・・・・息子よ、お前の仇は必ずや!」
燃え尽きることなき憤怒の炎を、その魂≪こころ≫に燃やしていた――
第2話
イグニッション・戦うことが
「嫌だ・・・・・・嫌だぁ!」
――あれは村を襲っていた・・・・・・ どうしてあんなに怯えて・・・・・・
「ひいっ!」
――あの化け物は・・・・・・?
「う・・・・・・ぐぐ・・・・・・がっ」
――何をするつもり・・・・・・まさか
「とっ、父さ――!」
――殺し、た・・・・・・!
「・・・・・・」
――どうして、どうしてこんなことを!
「・・・・・・」
――なんとか、言ってよ、ねぇ!
「・・・・・・」
――この、人殺し!
「・・・・・・それは、君のことだよね?」
――!
「友達を殺しただけじゃ飽き足らず、今度は」
――やめて
「その手で命を奪った」
――やめてよ
「耳をふさいでも無駄だよ」
――聞きたくないんだ!
「だって・・・・・・」
「「僕は異形の、化け物なんだから」」
――僕と、僕の声が重なる。その瞬間、僕の視界は真っ赤に染まった——
*
「うわあぁぁっ!」
悲鳴とともに、布団が宙を舞う。目覚めた少年、ミライの全身からは、大粒の汗が噴き出していた。
「おはよう・・・・・・って、言ってる場合じゃなさそうね」
そんな彼に声をかけるのは、ドアを背にして立つ、メイドのような格好の小柄な少女。
「・・・・・・あまりベッドを汚さないで欲しいのだけれど。掃除、大変なのよ」
彼女は少し引き気味にベッドへ近づくと、水の入ったコップを手渡す。
「ご、ごめんなさい・・・・・・」
ミライは謝りつつもそれを受け取り、ぐい、と一気に飲み干す。そしてふう、と息を漏らすと頭を軽く左右に振り、少女の方を向く。
「落ち着いたかしら?」
「はい・・・・・・ちょっとは」
「そう。じゃあもう用はないわね」
「えっ、ちょっと」
彼女はそれだけ言うと、さっさと部屋を出て行ってしまった。
「ええ・・・・・・」
1人残されてしまったミライ。彼は目をぱちくりさせると、頭を掻いた。
*
「ふむ・・・・・・では、君にも何が起きたかまでは分からない、ということか」
「ああ。すまねぇ、力になれなくて」
「いや、いいんだ。その話だけで大方予想はついた」
そんな会話を交わす、1人と1機――フェンとドラン。彼らが話していた内容、それは――
「あの・・・・・・」
たった今ドアを開けつつ部屋へと入ってきた、彼≪ミライ≫についてのことであった。
「ミライ!目ぇ覚ましたんだな!」
「ドラン・・・・・・」
そんな彼の下へと翼をはばたかせ向かうのはドラン。身体の周囲を飛び回り、痛むところはないか、気分はどうだ、と矢継ぎ早に話しかけていた。
「フェンさん」
「何だい?」
「ここはいったい?」
「ん?彼女から聞かなかったのかい?」
「はい、何も・・・・・・」
その一言に、フェンは指で頭を押さえると、溜息をつきやれやれと呟いた。
「全く彼女はどうしてこう・・・・・・まぁいい。説明しよう」
「ここは我々の拠点、その名も、『フォートレックス』」
「フォート、レックス・・・・・・」
「先代、つまり君の父上が遺した移動要塞さ。もっとも、その機能の殆どが今は稼働していないがね」
彼は説明しつつ椅子に腰かけると、ミライにも座るよう促す。
「起動する方法は未だ不明だが、生活する分には問題ないのでね。ありがたく使わせてもらっている、という訳さ」
「そう、なんですか」
「だが」
途端にフェンは語調を変え、ミライの眼を真っすぐに見つめる。
「君が今言いたいことは、そんな質問ではないだろう?」
「・・・・・・はい」
彼はそう言われると、少し目を逸らし、拳を強く握りしめる。そして、
「僕は、人を殺してしまったんです・・・・・・!」
震える声で、そう言い放った。
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