第9話 怒り5
陸上部にはみんなでおそろいの服が何枚かあった。まあ、これは入部したときに買わされるものなんだが。
それと、外で自分で買った服を着まわして練習することになっていた。
冬が近づき、すこし肌寒くなってきた頃、私は最初に買わされた長袖の上のジャージをタンスの奥から引っ張り出して練習に持っていった。
それを着て練習をすれば、全く肌寒くなく、とても気に入って使っていた。周りも私と同じものを着ている人が多かったが、中には外で買ってきたジャージより薄い、トレーナーを着ている人もいた。私は、ジャージで満足していたから、他の人が着ているトレーナーを見ても羨ましいとか欲しいとか全く思わなかった。
休憩の時間になり、私は水筒を取りに戻るため歩いていた。前にはトレーナーを着た人が歩いていた。すると横から顔を出したAが私に話しかけてきた。
「ねぇねぇ、トレーナー買わないの?」
トレーナーを着たAはにっこりと笑いながらそう言った。
「うん、私にはこのジャージがあるから」
強調するようにジャージの裾を引っ張りながら私はそう言ってAの目をじっと見た。
「え? それあつくない?」
あつい? いいえ? 肌寒いのを感じなくてとっても便利なのですが?
「あと走りにくいじゃん」
いいえ? 私はそうは思いません? ていうか走るときは脱ぎますんで。
「いや、全然」
そう冷たく言うと、Aは諦めたようにそっぽを向いて先に行ってしまった。
欲しくないトレーナーを危うく買わされるところだったことに私は怒りを覚えたのだった。
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