第8話 怒り4
敬語に続く話のようだが、陸上部は基本、上の選手を先輩をつけて呼んでいた。女子はそれを忠実に守っていた。だが、男子の方は先輩ではなく、さんをつけて呼んでいた。私はいつしかそれに憧れるようになっていた。なぜなら、私には、さんをつけて呼ぶ方が近しい関係にあるように思われたからである。堅苦しくなく、気軽に呼べるような気がして、私もそう呼んでみたいと思っていた。だが、女子の中では誰一人としてそう呼んでいない。伝統を崩してはいけないと思った私は、四人で話す中でなら、使っても良いだろうと思った。
「〇〇さんがね」
言葉を続けようとして、三人の顔を見ると、三人はどこか戸惑ったような表情を浮かべて私をじっと見てきた。私はそれに少し違和感を感じたが、言葉を続けようとして口を開いたときに、三人に遮られた。
「なめてるじゃん」
「それはなめてるわ」
「だめじゃん、そんなの使っちゃ。先輩って呼ばないと」
なめている? どういうこと? 私には理解が出来なかった。何か先輩を馬鹿にすることを私は言った? 私は怒りを覚え、反論をした。
「なめてない。さんは敬称だから尊敬して使っているんだけど」
「いや、それはだめでしょ」
立場は三対一だった。私はこれでもかってくらい言われた。それならば、と思った私は、心をボロボロにされながらも最後に力を振り絞って言った。
「じゃあ、さんをつけて呼んでいる男子は先輩のことをなめているってこと?」
こう言えば、何も言えなくなるに違いない、と私は思った。男子も決してなめて言っているわけではないだろうから。
「いや、私たちはみんな先輩をつけて呼んでいるから」
三人は私の予想を遥かに裏切って反論してきた。男子はなめているのか、という質問を無視し、そしてみんな先輩と呼んでいるから、と。いや、そんなこと言われなくても分かっている。だから、直接先輩のことはそう呼ばずに、同級生の私たちの間で話そうとしたのだ。質問にも答えていないし。
私は怒りを覚えたが、これ以上反論することに疲れ、それ以降は何も言わなかった。そして、それから私は、さんをつけて呼ぶことはしなかった。
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