第2話 買いに来た、売りに来た〜RPG編
「買いに来た」または「売りに来た」。それはユーザーが武器屋などに訪れた際、店主との会話で選ぶもの。または人によっては選択することなく終わってしまうもの。
NPC界隈では、「買いに来た」そして「売りに来た」をどう捉えているのでしょうか?
-社員の声
「また、あそこの店の店主発狂したらしいぞ」
「どうせユーザー様が変なの売り付けたんだろ」
「あーよくそういう噂聞くよな」
「売り付けるくらいなら、使わなきゃ良いのに」
ここは<人材派遣会社NPCコーポレーション>
この会社は社員たちをNPCとして各ゲームに派遣することが主な業務となっている。
今回のゲームは『サラマンダークエストⅣ』
通称『サラクエ』
島育ちの勇者が世界を征服しようとする魔王と倒しに行くというRPG。
『サラクエⅢ』の大ヒットを受けて、マルチ機能を追加し、武器数も前作の1.5倍となっている。
-社員の日常
「あの野郎、絶対許せねぇ。ぶっ潰してやる‼️」
「まぁまぁ、落ち着いて下さいよ。ダンナ、今は耐える時っすよ」
ユーザーのいない商店で机をひっくり返し、飾ってある武器を振り回す店主。その騒ぎを聞いて、駆けつけた町人は“お鍋のフタ”を持ってやってきた。
「頼みますから、“武器を使う”やらないで下さいね。この商店、燃え尽きることなりますよ!」
「いや、限界だ。一発やらせろ!」
店主が振り上げた“炎のレイピア”は光り輝く炎をまとい、辺り一面を火の海に、、、、、するはずだった。
“お鍋のフタ”のスキル“幸運”により大火事を免れたのだ。
「危なかったぁ。とりあえず、神父さんに相談してみましょーよ。神父さん、最近生まれ変わったかのように元気だって聞きましたし!」
「ああ、わかったよ」
町人と店主は、町の北東に位置する教会に来ていた。
この教会の神父はユーザーの冒険を記録するいわゆる“セーブ”係を担っている。
“オートセーブ”がはびこる現在のNPC世界において、とても厳しい職であり、神父本人も心に深い闇を抱えていると社内でも有名であった。
しかし前々回の派遣以来、神父は皆に爽やかさ満載の笑顔を振りまいている。このことから、「ついにおかしくなってしまった。」だとか「悟りの境地」などという噂がたてられていた。
「すいません!神父さんはいらっしゃいますか?」
「はい、こちらに。何用ですか?」
「えーと、この道具店の店主さんが悩みを抱えてまして、、」
「おそらく、ユーザー様関連のお悩みですね。それなら、、」
「なんでわかんだよ。神の啓示ってやつか?」
「いえいえ。私も“経験者”ですので、、、」
そう言って微笑む神父のオーラに二人は独特な怖さを感じた。
「では、夜に宿屋で会いましょう。そこでお悩みをお聞きします。あなたたちも夜には当番が変わるでしょう?」
「そうですね。店主さんも大丈夫ですよね?」
「ああ」
店主はどうもこの神父のことが気に食わなかった。神父が発する“吹っ切れている”というか“全てを知っている”かのような雰囲気が、、、
‐夜、宿屋の二階にあるNPC用酒場スペース
「やっと来た!神父さん、こっちです!!」
「遅くなりました」
遅刻を謝る神父。居ても立っても居られず、早めに仕事を切り上げて酒場に来ていた店主はすでに、相当出来上がっていた。
「それでよぉ、神父。どうすりゃ、この鬱憤を晴らせるっていうだぁ??」
「ダンナ、飲みすぎっすよ。このままだとすぐ酔いつぶれて寝ちゃうんで、手短に伝えちゃってください」
へべれけな店主を支えながら、町人は神父を急かした。神父は昼間の爽やかとは正反対な笑顔で、
「“ユーザー様を倒せばいいんです”よ。そうすれば気持ちも晴れやか、次の仕事にも精が出るってもんです。私なんて“倒すことが楽しみ”すぎて、不眠症になってしまいました(笑)」
神父とは思えない発言を耳にし、町人は過度のストレスが与える危険性をつくづく痛感するのであった。
「でかした!神父!俺、やってくるわ!」
そう大声で言い放ち、店主は酒場を飛び出した。
「あっ、ダンナ!行っちゃった、、、。マジなんですか?今言ってたことって」
「“マジです”。ですが、あくまで“はじめからあそぶ”の時の話ですよ」
それを聞いても町人の中の“怖さ”が揺らぐことはなかった。
‐町の郊外、中ボスの待つ古城の前
そこに店主の姿はあった。背中には店にあった武器の数々を身に付けていて、まるで“弁慶”のようになっている。
現在、ユーザーはこの古城内を攻略している。加えて中ボス戦前のイベント中なため、これ以上古城に近づくことは出来ない。
「ここに居ましたか。ダンナ、さっき言ってたのは、“はじめからあそぶ”の時の話ですって!」
「そんなことは知ってるわ!コイツ、何回中ボス戦やればクリア出来るんだよ💢
こんなんじゃ、全クリなんて1年くらいかかるぞ!」
確かにこのユーザーは既に7回ほど中ボスに負けており、所持金を幾度となく“半分”にされている。
「勝てねぇのによぉ。店に来ても一向に“買いに来た”って言わねぇし。言うのはいつも“売りに来た”で、売るのも“馬のフン”とか“朽ちた骨”って。俺の店は“ゴミ箱”じゃねぇんだよ!!」
店主の魂の叫びは町人にも強く響いた。自分も頼んだ“クエスト”を全クリまで放置されたり、報酬がショボいといって知らないとこでクエスト拒否された経験があったからだった。
「“ドロップ”派ってもわかるけど、俺らだって仕事に誇りを持ってやってるから、一度くらいはまともに使ってほしいよな」
「そうですね、、、」
溜まりにたまったストレスを言い切った店主は、酔いがまわったのも相まって、その場に寝ころび寝てしまった。町人もまた、無意識に忘れようとしていた悩みを思い出し、一人夜空を見上げるのであった。
‐数日後
店主が一年後ではないかと言っていた日は別の形で来ることになった。
ユーザーはどうしても中ボスが倒せず、結果としてこのゲームを“クソゲー”と判断して売ることにしたようだ。
待ちに待った“はじめからあそぶ”の時が来た。
整列し“それ”が押されるのを待つ三人。
「神父さん!俺初めてなんで、ワクワクが止まんないっす!」
「最高ですよ、スカッとして✨。我がハンマーが火を噴く時が来ましたからね😊」
「絶対オーバーキルしてやる。このお前が買わなかった武器たちでな!!」
まもなく始まった“はじめからあそぶ”、またの名を“ユーザーをあそぶ”は大盛況となった。
‐あとがき
今回のお話はいかがだったでしょうか?
もしかしたら、次回で最終回かもしれません。(ネタ尽きのため)
残り少ないこの話をお楽しみに!
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