NPCという仕事〜人材派遣会社NPCコーポレーションの日常〜

拙井松明

第1話 はじめからあそぶ〜RPG編〜

「はじめからあそぶ」。それは間違えて押したユーザーに絶望を与えるもの。または動画配信ユーザーが動作確認後に行うもの。

NPC界隈では、「はじめからあそぶ」をどう捉えているのでしょうか?


-社員の声

「今回のユーザー様は“はじめからあそぶ”を選択したそうだ」

「ミスって押したのか?それとも、売却用か?」

「どうであれ、久しぶりの戦いになる」

「再配属前の大仕事だ。怪我せず、ちゃっちゃとやるぞ」



ここは<人材派遣会社NPCコーポレーション>

この会社は社員たちをNPCとして各ゲームに派遣することが主な業務となっている。



今回のゲームは『サラマンダークエストIII』

通称『サラクエ』

魔王を倒すというRPGで、大ヒットを記録。



-社員の日常

「“はじめからあそぶ”が発令されたぞ。おい、何泣いてるんだよ」

教会の中で大泣きしながら、聖書を抱きしめる神父。知らせに来た村人もどうにもこうにも状況が読めていない。

「こまめにセーブをする方だった。だから私も今回はすごくやりがいを感じていたのに」

「要するにセーブ記録が書いてある聖書を捨てるのが惜しいんだな。じゃあ、俺が」

「待て、村人。私も見送るよ。これが仕事納めとなるからなぁ」

「あんたと違って、俺はこの後主人公パーティーとやり合うってのに」


聖書は全部で3冊。全てに火をつけて行く。火をつける度、燃えかすが地面に落ちる度、神父は泣き叫んだ。どうやら、最近流行りの“死んだらリセット”や“オートセーブ”などにより、精神を病んでいたらしい。


「じゃあな、神父さん。俺は主人公と一戦やってくる👋」

「待て、私も行く。鬱憤を晴らさせてくれ」

「どうせレイド形式だから、大丈夫だけど」



まずは、クリア後解放の武器屋で準備を行う。武器と防具はもちろん最高の物を選ぶ。それでも危険は付きまとう。なぜなら、武器屋の上がいるからである。それは“鍛冶屋”。彼らは“熟練度”や“ドロップ材料”などを形として武器や防具を作る。これに関しては“新しいセーブデータを作成中”の間では出来ない行動なのである。


次にアイテムの配給を受ける。これは会社側からの保険のようなもので、所持数MAXまでしっかりもらえるが、正直嬉しくはない。第一、クリア後の主人公の攻撃をまともに受けたら即瀕死。自分で使うことなんて、まぁないのである。彼らはよく職場を戦場と呼ぶが、それはこのためである。



村人は火属性の直剣に闇属性の盾を装備した。神父は、巨人族のハンマーを装備したらしい。

「ところで、村人よ。何かスキルはあるのか?ユーザー様はスキルを取るたびにセーブをなさっていたが」

「そんなのは無い。俺らにあるのはあくまで、武器やアイテムの使用権だけだ。俺らにレベル制度は与えられて無いからな」

「そうか。いつもやってる君は大変だな」

「慣れれば、そんなに苦じゃない。あんたの方が大変そうじゃないか?あんなに泣いて」

「大体は泣いてスッキリさせるのだが、今回に関してはそうはいかないようだ」

「なるほどねぇ。それじゃ、やりに行くか!」



ついに始まった“はじめからあそぶ”ための最終決戦。主人公 VS NPC。

総勢100名のNPCは様々な攻撃を仕掛けるが、レベルMAXの主人公並びにそのパーティーは恐ろしいほどに強い。村人はいつもよりも強い主人公パーティーにビビって、引いてアイテム使用係に徹していた。そんな中、神父はハンマー片手に主人公に突っ込んだ。

「なんでデータ消すんだあああ!」

ハンマーの一撃は2%弱の会心を発生させ、加えて装備で下げられていた3%の急所判定さえも呼び出した。

「なんか、黄色く光ったぞ?うわっ!?」

会心エフェクトにビックリした神父はパーティーの他メンバーに吹っ飛ばされた。



「大丈夫か?神父さん。見ろよ、あんたの一撃でスタンまで発生したんだぜ」

「私は戦闘システムに精通しておりませんので、、」

視線の先ではNPCたちがスタン中の主人公を袋叩きにしている。それを見た神父は目の色を変え、

「もう一度やって来ます!」

神父は再び、戦いの最中へ飛び込んだ。

繰り出される通常攻撃は鬱憤と合わさり、特技を超える力を示していた。

「なんで、なんでなんだぁ!」

「なんでみんなリセットばっかり!くそおお!オートセーブって何だよ!仕事取りやがって!!」

時折、当て付けの文句もあったが、強さは圧倒的であった。そして間も無く、主人公パーティーは全滅した。



その後にあるのは魔王など死んだメンバーの復活や、壊された結界の貼り直し。その後、次の派遣メンバーとの交代手続きを経て、NPCたちの仕事は終わる。今回のユーザーに関しては3か月の付き合いではあったが、ゲームを離れるとなるとNPCたちも名残惜しくなり、居残りの固定キャラ(名前入りキャラ)との別れを惜しんだ。



以上が“はじめからあそぶ”を押した時の社員たちの業務内容である。彼らは現実世界で数秒の時間である“セーブデータを作成中”の際に行うのだ。もちろん、中と外では時間の進みは違うのだが、、、




つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る