第2話 熱を冷まして、君と会う。

―――冬、休日の夜の商店街。


 ギターを弾きながら、私は歌う。ライブの後の熱がまだ残っているせいか、いつもより調子がいい。

 通りすがる人たちも、一度は必ず私を見ていく。たまに足を止め、一曲聞いてからその場を後にする人もいる。足元に置いた空き瓶には、ほんの気持ち程度の投げ銭が貯まっている。


「ありがとうございます。また聴きに来てくださいね。」


 今日は私の大好きなバンド、「The Unlimited Song」通称「アンリミ」のワンマンライブだった。メジャーデビューしたばかりの彼らは、10代から20代の若者に人気の4人組ロックバンドであり、今やバンド界隈ではものすごい勢いを見せている。

 そんな彼らのライブ後は、もちろん高揚感が冷めることもなく、そのままの勢いで路上ライブをしている。


(あと一曲ぐらいしたら帰ろうかな…)


 カポをはめ、ピックを持ち直してイントロを弾く。曲はもちろん、大好きなアンリミのデビュー曲である、『Lilly』だ。アップテンポで曲調は明るいが、内容はそれに反した切ない別れの歌である。


 歌を歌い始めると、おそらくライブ後の飲み会帰りであろうアンリミファンが、足を止めて私の周りに集まってきた。少し顔を赤らめたファンたちは、体を揺らしたり、一緒に歌ったり、各々楽しそうに演奏を聴いていた。



 ――――「君の瞳には、僕は映っているのかい?

                        ねえ、教えてよ、Lilly。」



 この歌は、きっとメンバーの誰かの経験談なのだろう。きっとよくある失恋話だろうな。なんて思いながら歌っていると、遠くの方でじっとこちらを見つめている男が見えた。


 (帽子とマスクしてて顔見えないけど…あの人もアンリミファンなのかな)

 

 近づきもせず、遠くで腕組みをして見ている姿は、どこかのレコード会社のお偉いさんのような風格も醸し出している。


 なんて考えているうちに、一曲歌い終わってしまった。ありがとう、と言うと、周りの人々が拍手をしてくれた。

「歌めっちゃ上手ですね!Twitterとかフォローしてもいいですか?」

「アンリミ好きなんですか?今日のライブもよかったですよね!」

「めちゃくちゃよかった!また聴きたいです!」


 聴いてくれていた人からそんな声をもらい、投げ専用においてあった瓶は気づけば満杯になっていた。SNSを教えたり、一緒に写真を撮ったりなどを一通り終え、周りから人がいなくなった。


「そろそろ片付けて帰ろっと…」

 そう呟きながらギターを片付けていると、視界の端に人影が映った。

 それは、ライブ中に後ろで聞いていたあの男だ。


「わっ!びっくりした……て、さっき後ろの方で聞いてた人?」

 思っていたよりも背が高く、帽子とマスクの間から見える目は、どこかで見たことのあるような、澄んだ瞳をしていた。



――――見たことある。どころの話じゃないと気づいたのは、彼がマスクを外した瞬間だった。



「君、歌上手いね。経験者?」



「さ、咲夜さくや……さん…?」



 何度も聞いたこの声は、The Unlimited SongのGt.Vo.、咲夜だった。

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