第8話 幼馴染には悩み事がある
親友である川島拓真に俺と陽葵の関係をカミングアウトした日の放課後、俺はいつものように陽葵と家に帰ろうと二人で教室を出た。
すると、見知らぬ男子生徒がこちらに来た。
どうやら、陽葵に話があるらしい。
俺は陽葵との関係が男子生徒にばれないように、こっそりと陽葵から離れた。
俺は二人の様子を教室の中から覗き見した。
すると、男子生徒が口を開いた。
「ずっと前から好きでした!俺と付き合ってください!」
どうやらその男子生徒は、前から陽葵に片想いをしていたらしい。
しかし、当然陽葵の返答は…
「ごめんなさい、あなたとは付き合えません」
陽葵は少し冷たい口調で、男子生徒にはっきりと言った。
この生徒が俺だったら、恐らく陽葵の目の前で泣き崩れてるかもしれない。そう思うと、改めて付き合えて良かったと安堵する。
「そっか…そうだよね!」
陽葵の返答に納得した男子生徒は、その場から走り去っていった。なんと言うか…胸が痛い。
告白を断った陽葵は、笑顔で俺のもとへ来た。
「さっ、一緒に帰ろ!」
「お、おう…」
「どうしたの?そんなに困った顔して」
「いや…やっぱり陽葵はモテるな〜って」
「え?もしかして、嫉妬してくれたの?」
陽葵は嬉しそうに話しかけてくる。
「まあ、そうかもしれんな」
「も〜、素直じゃないな〜ゆうくんは」
「ったく、あんまりからかうなよ」
話している陽葵は、なんだかいつもより幸せそうに見えた。
◇
私、齋藤陽葵には悩みがあります。
私には、幼馴染で彼氏で同棲中の大好きなゆうくんこと、山下裕太がいます。
でも、ゆうくんと私の関係は学校の皆はまだ知りません。
だから、知らない男子生徒が私に告白をしてくるんです。
「どうすればいいんだろう…」
私がリビングで悩んでいる時、急に話しかけてくる声が聞こえた。
「陽葵ちゃん!どうしたの?お兄ちゃんと何かあった?」
話しかけてきたのは、ゆうくんの妹の舞菜ちゃんだった。
「いや…実はね?……」
私は、自分の悩みを舞菜ちゃんに全て話した。
「そっかー、確かに陽葵ちゃん可愛いし性格も良いし完璧だもんな〜、ほんとお兄ちゃんにはもったいないくらい」
「いやいや!むしろ私にゆうくんがもったいないくらいだよ〜」
「んー、でも一番の解決策はやっぱりクラスの皆に言うことじゃない?二人の関係を」
「やっぱりそうだよねー、でも…」
「でも?」
「ゆうくんは、皆に言って大丈夫なのかな…って」
私との関係がばれたら、もしかしたらゆうくんは男子から殺気のこもった冷たい目で見られるようになるかもしれない…
心配している私に、陽葵ちゃんが優しく話しはじめた。
「私ね、前にお兄ちゃんに聞いたんだ、『陽葵ちゃんのどんな所が好きなの?』って、そしたら『陽葵は可愛いだけじゃなくて、皆から信頼されてる所』って」
なにそれ!?ゆうくんそんなこと言ってくれてたの!?
「だから、お兄ちゃんなら陽葵ちゃんのお願いも聞いてくれるよ!」
舞菜ちゃんからの言葉を聞いて、私は自分に自信がついた気がした。
「舞菜ちゃんありがと!ゆうくんに言ってみるね!」
そして私はゆうくんの部屋に行き、私の悩みから考えまで全てを話した…
◇
翌日、俺と陽葵は一緒に教室に入り、教卓の前へ二人で行った。
「みんな聞いて!話があるの」
陽葵の一言で、今まで元気に話していたクラスメイトが静かになった。
「実は私と裕太は…付き合ってます!」
「「「……えぇえ!?」」」
静かだったクラスが、一斉にうるさくなった。
男子は静かに涙を流し、女子からは質問のオンパレードだった。
やっぱり、言わなくても良かったかもしれない。
でも、陽葵の悩みが無くなって良かった。
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