第6話
次の日、日が落ちた頃に廃屋を出た。彼はリンゴを投げて渡した。
「またあとで」
彼は車を作戦の場所に置きに出る。
俺たちもそろそろ、と彼が腰をあげた。
裏路地で黒服を待つ。静かな時間だった。
時間まで、あと一時間はある。
ふと気になって、私は口を開いた。
「なぁどうして…私を誘ったんだい?」
「んんー。」
彼は腕を組んで考え込んでしまった。
暫し考えた後にぱっと顔を上げて、私の目を見る。
赤い瞳。なんてまっすぐで、雑じり気がなくて、綺麗なんだろう。
「その目が、俺たちの追っている宝石と、同じ色だったからだ。」
「え」
てことは、どこかで会ったことがあったのか?こんな派手な赤髪を見落とすはずがない。私が混乱していると、彼は続けた。
「部屋を探して町を歩いていて、見つけたんだ。」
彼は私の目をまっすぐに見つめている。その瞳から、逃げられそうにない。
「あぁこれは幸運の女神様だぞ、って思った。だってこの宝石を捕まえたいんだからね!」
彼はいつものようにいたずらっぽく笑った。
「ご期待に添えるといいんだけどね」
ちょっと卑屈っぽく言う。だってこんな大きな盗みを働くのなんていままでなかった。
せめてパンとか、そんなものだったから。
「失敗したら、作戦が悪かったってことだよ。」
彼が言う。その口調がいつもと変わらなくて、少しくすぐったくなる。作戦をたてたのは他でもない、彼の兄だった。
そうか。じゃあ私は君たちのために尽力するよ。
新しい友人は、なんだかとても心地よくていい。
「来た」
彼が囁く。
黒服は三人。
前に二人、後ろに一人。
前の男が黒のトランクケースを持っていた。
一度その背中を見送って、足音を立てずに静かに背をとる。まず一人、首を折った。どさりと音がして二人が振り向く。振り向く方向と反対に首を捻った。静かな夜中、水の都に死体が三体。彼が黒のスーツケース開いて中身を見る。
「ビンゴ」
蓋を閉めて走りだす。その後ろを、見失わないように走る。
曲がり角に緑のベントレー。
飛び乗るとエンジン音がした。
ひどく静かだった。
自分の心も、世界も。
私たちはこの瞬間、紛れもなく一介の犯罪者になったのだった。
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