第2話
彼はすぐにうちに馴染んだ。ちょっと離れた丘に叔父さんと一緒に散歩にいったり、母さんと夕飯を作っていたり。妹と編み物をしているときもあった。
彼はいい奴だ。よく食べる。そしてよく笑う。
しかし、彼自身のことは謎に包まれたままだった。
「兄弟とかはいるのかい?」
夕食後にお茶を飲みながら母さんが尋ねた。
「15歳上の兄が1人いるんだ。」
「15かー。だいぶ離れてるな。」
父親が言った。
「お兄さんは何をされてるの?」
妹も身を乗り出して聞いていた。
しかし彼は、困ったように言った。
「彼のことは、俺もよくわかんないんだ。」
家業を継いだらまた違ったのかもね、と彼は妹にウインクした。
15も違ったらそんなもんか。しかし兄貴も髪が赤いのかなと、彼のその赤髪をボーッと見ながら考えた。
(しかし成人過ぎても赤毛とは珍しい)
次の日だろうか。
いつものように店番をしながら暇をもてあましていると、扉が開いた。新聞から目を離してみると、ブロンドの髪の男がサングラスを外しながら入ってくるところだった。
直感で思った。兄貴だ。
「やぁ」
すらりとした背格好。町で見たら忘れないほどの色男。よく磨かれた靴に、少しくたびれているが老舗のスーツ屋のジャケットを羽織っている。
手練れだ。背筋が震える。一体こんな男に、緊張しない男がいるだろうか。そんなこちらの思案をものともせず、彼はにこりともしないでこちらにゆっくりと歩いてくる。靴の音がコツコツと響いた。空気は悲しいほどピンと張りつめている。
「時計を売ってくれ」
「ほへ」
緊張がほどけて気の抜けた声が出てしまった。目の前まで近づいてきた彼は気にせず続けた。
「懐中時計が壊れてしまってね。いいのあるかい。」
「…壊れたやつは?見てやるよ」
彼は鋭く俺の目を見る。
「….いや、いいんだ。跡形もなくなってしまったから。」
余程のことがあったのだろうか?彼はひどく不機嫌そうだ。
「んー…これとかどうだろう」
彼の印象的な青い瞳。それによく調和するように合わせられた青みがかったジャケットに映えるように、小さな青い宝石が埋め込まれた1つを取り出す。
「それを頂こう」
一目見て彼はそう言った。なんとなく、それが嬉しかった。
「そのままでいい。今付けるから。」
彼は多すぎる額をカウンターに置き、時計をつけ始めた。
お釣を取りに行こうとしたとき、彼はよく通る声で言った。
「釣りはいい。迷惑料だ。」
「…は?」
冷たい目をして、こちらを見据えている。
(あ…)
目が、似てるな
そんなことを思っているうちに、彼は踵を返してさっさと出ていってしまった。
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