確実に生き延びられる可能性
『果たしてどちらに道理があるのか?』
そういう観点で考えていては、非常に難しい状況だっただろう。人間が獣人を蔑んでいるのは事実であり、少なからず虐げられている面も確かにある。
しかしその一方で、<西の獣人の集落>が蹂躙されたように、個の能力では獣人が人間を上回っていても、数の上では人間が圧倒しており、<軍>という形であれば人間の方が獣人を上回っているのが現実。その人間と真っ向敵対して、いったい、何が得られるというのか?
というのも事実だろう。
なるほど、人間や獣人は<
ゆえに、
<確実に生き延びられる可能性>
にこそ、価値があるのだ。
加えて、のんびりと悩んでいられるような状況ではない。果たしてその決断が正しかったかどうかは、結果が出てみなければわからない。
正しいかどうかは分からずとも、少なくとも、今のこの時点では、ウルイの直感がそれを選ばせた。
もし間違っていたとしても、構わない。自身の選択に責任を負う覚悟はある。
イティラのために。
だから、
「あいつが敵だ!!」
イティラに対して、<獣人の青年>を指差しながら告げた。
「! 分かった!!」
そしてイティラも、ウルイの判断を迷うことなく受け入れた。
これまでのウルイとの暮らしの中で、彼の判断は結果として彼と自分を生き延びさせてきた。確かに時には狩りに失敗することもあったものの、目先の狩りの成否以上に重要なのは、自分達が今日まで生き延びてきたという事実だ。
何より、自分は今も彼を愛せている。
もし彼に対する信頼が失われるような大きな失態があったなら、彼に対する気持ちも冷めていただろう。
それがないというのは、彼の判断に異を唱える必要がないということ。
ならば今も、彼を信頼しよう。
たとえ今回の判断に誤りがあったとしても、その時はその時だ。
ウルイに比べて自分はまだまだ未熟であることは事実。
だからとにかく、今は自分にできることをする。彼と共にこれからも経験を積んで、彼と共に生きる。
そうしてイティラは獣人の青年目掛けて牙を剥き、襲い掛かった。
ウルイも、短刀を手に身構える。弓と矢は、崖の上に置いてきてしまった。彼にとっては非常に不本意ではあるものの、ないものを嘆いても始まらない。イティラと同じく、今の自分にできることをするだけだ。
これからも、イティラと共に生きるために。
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