人と人の出逢い
ここにきてようやく互いの名を知った二人だったが、少女は、イティラはポロポロと涙を流しているだけだし、狩人は、ウルイはどうしていいのか分からずに無言で食事を続けるだけだった。
けれど、ようやく、意を決したように、
「食べたら…後は好きにしろ……どこにでも行け……」
とだけ口にした。
するとイティラがハッと顔を上げて、一層、ボロボロと涙を……
自分の名を訊いてもらってようやく自分に名があることを思い出してホッとしたのも束の間、『出ていけ』と言われたような気がして、ショックを受けてしまったのだ。
そんな彼女の様子に、ウルイはますます狼狽えた。
『なんだ…? なんで泣く……俺みたいなのの傍にいたら怖いだろ…? さっさと逃げたいだろ……?』
愛想良くもできない。狩りしか取り柄がない。つまり獣を殺して食うだけの自分など、獣人にとっては<恐ろしい敵>でしかないとウルイは思っていた。だから、
『危害を加えるつもりはないからさっさと逃げろ』
という意味で、『好きにしろ』『どこにでも行け』と言ったのだった。彼にしてみれば精一杯の<優しさ>だったのである。
なのに、この、イティラと名乗る獣人の少女は、縋るような目を向けながら涙をこぼしている。
それが何を意味するのか、ウルイは、十二歳の時点で止まってしまっている、<人間相手の知識>を総動員して、考えようとした。
狩人として長く生きてきたから獣についての知識なら、たぶん、並の人間以上にある。しかし獣はこんな反応をしない。危険を察するのだろう、とにかく自分の下から逃げようとするだけだ。だから、獣としての反応じゃなく、人間のそれに属するものだというのは察せられた。
それは同時に、ウルイ自身が紛れもなく<人間>であることも示していると言える。
獣はこんなことを考えないのだから。
そうして必死に考えたウルイは、自身の幼い頃の記憶に辿り着いた。
自分を<物>としか見ない父親に対してショックを受けて泣いてしまった時の記憶……
「あ……」
瞬間、何となく分かってしまった。分かったような気がした。
『こいつ……親に捨てられたんだ……』
と。
それに気付いてしまったら、もう、どうしようもなかった。
連れ帰ってきてしまったことをさらに後悔したが、遅い。
「……ここにいたいんだったら、勝手にしろ……」
仕方なく、本当に仕方なく、ウルイは、かすれた声で何とかそれだけを口にした。
「あ……」
彼のその言葉にイティラの耳がピクッと反応し、彼女はやっぱり涙をこぼした。
「お…おい……!」
再び狼狽えたウルイだったが、しかし同時に、その涙は、それまでのものとは違うとも、感じていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます