第3話


 どういうことだと暫く見ていると、倒れたドラゴンの先にある木陰から三つの人影が姿を現した。


 もしかして、あの三人組がやってくれたのかもしれない。しかし敵か味方か分からない以上、身動きが取れなかった。


 どうか、道民でも無くてもいいし。せめて味方じゃなくてもいいから、危害を加えないような人たちであれと思った。


「スタイ・ベヘン?」


 三つの人影のうち、一番身長の低い者がこちらへと近づいてきた。


 異世界なだけあり、整った顔の白人の女の子だった。身長は百センチあるか無いか程度。


 勿論、何を言っているのか不明だから、少なくとも北海道の人間じゃない。ってか、こういうのって、たいてい言葉が分かるもんなんじゃないのか。


「……ええと、サンクス! グラッチェ! メルシー! ドンケセーン!」


 やはり、通じなかったのだろう。女の子は首を傾げて困ったような表情を浮かべた。


 どうしようかと考えあぐねいていると、残り二人がこっちへと近づいてきた。片方は翡翠色の髪の十代くらいの女性だったが、もう片方を見て驚いた。


「リ……リザードメン⁉」


 翡翠髪の隣に居たのは、先ほどのドラゴンよりも更に厳つい竜の身体を持った人だった。


 いや、人なのだろうか。人間みたく二本足で立ってはいるが、身体は鱗だらけだし。牙や鉤爪、鋭い眼光。まさしく竜人といって過言の無い者だった。


「……もしかして、貴様はヴァネットシドルの者じゃないのか?」


 翡翠色の女性が流暢な英語で言ったのを耳にして、小生は漏れそうなくらい安堵した。


 ところどころ聞き取れなかったが、会話程度なら影響は出ない程度だ。いま本気で英語を学んでいて良かったと、間違いなく北海道に感謝している。


「アイ・アム・フロム・ジャパニーズ! ウエア・アム・アイ⁉」


 そう言ってから、日本人から来たって意味が分からんと思った。


 混乱している証拠だ。せめて見栄を張って、アイ・アム・フロム・アサヒカワとでも言えば良かったかもしれない。


「……え、日本人? ……え?」


 翡翠髪の女性が、こっちの台詞に同じ色の瞳を丸くした。やはり我々の会話は聞き取れないのか、竜人と女の子は何を喋っているのか分からない様子だった。


「エンシェント・クラン・ベネシエ・オンベッツ?」


 この世界であろう言葉で、翡翠髪の女性が驚いた声を出した。


「インケレリヴ⁉」


 小さい女の子の方が、信じられないって感じの顔で言ったから。どうにかして、こっち二人と会話が出来るようにならないかと思った。


「ヤイス。ヴェリヒィーサ」


 翡翠髪の女性の言葉に頷いた女の子が、こっちに向けて手のひらを広げた。悪い予感っていうのは良く当たるって言われているのは、良いときは大体覚えていないからだ。


 人間っていうのは、未来の為に危機回避のことだけは忘れないようにしている生き物なのかもしれない。


 女の子が勢いをつけた瞬間、こっちの身体は炎に包まれた。先ほどドラゴンを丸焼きにしたのは、こんな可愛い女の子の仕業だったのか。


 そんな有田焼を燃やすような感覚で、火をつけられるとは思わなかった。


 一度死んではいるけれど、また死を覚悟した。しかし、身体が熱くないのに気が付いた。フランベでもしたのかもしれない。


 目を開くと、女の子の手から炎は綺麗に消えていて、代わりに可愛い瞳をぱちくりさせていた。


「……本当だ。エンシェント・クランだわ」


 そして何故か、女の子の喋っている言葉を理解した。


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