第64話 再会

 第七のセフィラ──ネツァクを打倒したことによりデルタ部隊に昇格した僕は再びレジスタンス本部に呼び出された。

 レジスタンスの制服を身に纏い、白い腕章を付ける。そしてクレイモアを持ち、頭にナスチャを乗せた。

「さあ、今日も任務を遂行しようか」

「そだねー」

 なんとも間の抜けたナスチャの返事に僕は転びそうになるが、それを回避して、

「せっかく昇格後最初の任務なんだからさ、もっと……こう……頑張るぞ! っていう意気込みがほしいんだけど」

 と眉を潜めて不服そうに言った。

「なんでぼくが気を利かせてあげなきゃいけないの? セシリアが一人で勝手にやってればいいじゃん。それをぼくが白い目で見ていてあげるからさ」

 ナスチャはニヤリと笑って憎たらしく反抗してきた。

「──チッ」

 僕が舌打ちすると、

「あれ? しないの? セシリアしないの? ほら、見ていてあげるからしなよ!」

 と煽ってきた。

 鳥に煽られて大変腹が立った僕はすかさずナスチャの両頬を掴み、全力で横に引っ張った。

 愛らしい姿は醜く横に引き伸ばされている。

「ああ、もう! 痛いじゃん! 離して! 離してよ!」

 ナスチャが羽ばたいて逃れようとするが、そうはならない。なぜなら僕は今日一日分の力をここに込めているからだ。

 きっと今日は腕は疲労してろくにクレイモアは振れなくなるだろうが、それでも構わなかった。僕の頭に乗っている立腹の元凶を躾けたい。

 だから僕は後悔しない。

「やーめーてー! 離してー!」

 ナスチャは変わらず羽ばたき続けている。

「ならば、ごめんなさいって言え! そうしたら許してやる」

「やだ!」

「じゃあ離してあげない」

「……ごめんなさい」

 光の速度で観念したナスチャは小さく言った。手のひら返しも甚だしい。きっとナスチャに手があったら今頃もげているだろう。

 仕方がないから許してあげた僕は手を離した。

 ちょうど呼び出された場所である会議室の前に到着し、僕は人差し指を立てて口元に持っていき、ナスチャに静かにしていろというジェスチャーをした。

 ナスチャは涙目になりながらコクリと頷き、先ほどは真逆に大人しくなった。

 僕は扉を叩くと中から、

『どうぞー』

 という入室の許可を得た。

「失礼します」

 扉を開けて入室した僕の前にいたのはシェリルはもちろんのこと、同期であるモニカとヴェロニカだった。

 モニカはエコー部隊のままだったが、ヴェロニカは僕と同じデルタ部隊に昇格していた。

「ようやく揃ったわね。──このメンツは久しぶりね」

 シェリルが口を開いた。明るい声だったから非常に機嫌がいいことが分かる。

「今期の顔ぶれが変わっていなくて安心したわ」

 僕たち三人が顔を見合わせていると、

「レジスタンスに入隊してもうすぐ半年になるのはあなたたちも分かっているでしょう? だからここでいっちょしておこうかなって思ったのよね」

 シェリルは腕を組んで歩きながら語るように話している。踵の細い靴によって足が着地するたびにかつかつと音がした。

「なにを……するんですか……?」

 ヴェロニカが訝しげ表情で訊ねた。

「そりゃあ……任務よ? 吸血鬼を倒すの。あなたそのためにここへ来たのでしょう? それ以外にすることある?」

 シェリルは人を見下すような視線をヴェロニカに送った。それはまさに『あなたの頭に脳みそは入っていますか』と訊ねているようなものだった。

「はい、その通りです」

 ヴェロニカが一瞬だけ不服そうな顔を見せた。

「それでね、今回の任務は三人で行ってもらおうと思ったのよ」

「「「了解です」」」

 三人の声が重なった。各々が得物に手をかけて戦闘態勢に入る。

「まだ早いわよ。なんの情報も伝えていないじゃない」

 半ば呆れた様子でシェリルは椅子に腰掛けて、持っていた茶封筒から書類を取り出した。そしてそれを読み始める。

「──今回、被害が出ているのはここから北西に行ったところにある砂漠よ。主に砂漠を横断しようとした旅人が被害に遭っているわ。吸血鬼の異能は判明していないけれど、二体いるとのこと」

 シェリルは書類を次々とめくっていく。誰一人として身じろぎひとつしない静寂な空間を、紙が擦れる音が満たした。

 黙々と書類に目を通しながら必要な情報を要約して伝えていく。

「一つ分かっていることは──襲われるときはいつも砂嵐が発生しているそうよ」

 感情のない声が空間のコンダクターの役割を果たした。

「──では死んでも構わないから任務を遂行しなさい。以上」

 書類を茶封筒にしまって椅子から立ち上がった。

「頑張ってね」

 シェリルは手をひらひらとさせながら会議室を去っていった。

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