第6話 魔導士の国
「よォ、目が覚めたのかァ?」
「エスポワール·····。」
いつも通りすぎて、さっきのことが夢見たいだった。
森にいたということもあって、街でのことに実感が湧かなかった。
「元気かァ?」
頭を軽く叩かれた。
笑顔を見ると、やっぱり信じられない。
わたしの首に刃を突き立てたなんて。
「元気よ。ひとつ聞きたいことが」
人を殺すことに抵抗がないのか。聞こうとした。
「やだね。その他のことにしてくれよ。」
心が見えてるんじゃないかと疑った。
でも、よく考えれば、この状況で聞くことなんてそれしかない。
「だったら質問を変えるわ。ゾネソーレ様の事について教えて欲しいの。」
「ゾネソーレ様のこと? 知りてェのか?」
「ええ。」
「ゾネソーレ様は人間の味方の神様だ。いつも人間を見守ってくださっている。」
「夜は·····見守ってくださらなくて大丈夫なの?」
わたしも青い太陽、もといゾネソーレ様に敬意を払うことにした。
「夜は人間みんな寝るくらいしかしねェからな。いいんだよ。」
とりあえず、人間の中ではゾネソーレ様の認識は同じみたいね。
「じゃあ、夜の赤い丸は?」
これも気になる。
わたしのいた世界では月は金色に輝いていたし、満ち欠けがあった。
でも、ここの月は赤く輝いているし、いつも丸い。
「あれは呪いの光を出す、フルフオーネだ。夜になっても見続けるモンじゃねェぜ。」
「どうして?」
「まあ、昔から伝わる神話を聞けば分かるだろうよ。」
「教えてくれる?」
「やーなこった。少しは悪ィと思ってるからここまで教えてやったんだよ。」
より信じられなくなった。
お爺さんの首を落とした人とは思えない。
「そういえば、キトゥナブの時。助けてくれてありがとう。」
「別にお前の為じゃねェよ。」
エスポワールはミルエットちゃんのところに戻って行った。
ゾネソーレ様とフルフオーネ、か。
わたしの旅の目的とは関係はないけど、なんだか気になった。
「エスポワールくん、エタンセルちゃん。助けてくれてありがとうね。」
「おう!」
ホンットに調子いいんだから。
「これからはどこに行くの?」
「決まってんだろォ? こっちだ!」
ミルエットちゃんが帰ってきてワクワクしているエスポワール。
みんな揃って良かったと思った。
しばらく歩き続けると、小さな茶髪の男の子が倒れていたのを見つけた。
「大丈夫?」
良かった、息はあるみたい。
「·····うう。」
「大丈夫!?」
「お姉さん、だれ?」
「わたしはエタンセルよ。」
「·····。」
しばらくぼうっとしていたけど、その子は泣き始めた。
「お姉ちゃんを助けて·····!お姉ちゃんが死んじゃう!」
「どういうことだ!?」
エスポワールが乗りでていた。
「魔導士たちに襲われて·····。」
「いつの話だ!?」
「さっき·····。さっきだと思う。」
「まだ遠くには行ってねェはずだよな!」
エスポワールは走ってどこかへ行ってしまった。
「待ってよ! エスポワールくん!」
ミルエットちゃんも追いかけて行ってしまった。
「お姉ちゃん·····。」
「あなたはどこから来たの?」
「村·····。人間の。」
「そこまで案内してくれる? まだ生きている人がいるかもしれないから。」
「うん、こっちだよ。」
2人はどうしているかしら。
もしかして、その魔導士たちを殺してしまうんじゃ·····。
ダメだと思った瞬間、お爺さんの言葉がよぎった。
本当に人の命を救いたいのなら、死んだ方がいい。
2人の元に行っても、さらなる争いをうんでしまうかもしれない。
「エタンセルお姉ちゃん。僕はシオンだよ。」
「うん、よろしくね、シオン。」
「うんっ! お姉ちゃん、お名前長いねぇ。」
「エリィって呼んでいいのよ。」
「いいの?」
「ええ!」
「エリィお姉ちゃん·····。僕のお姉ちゃん·····大丈夫かな。」
シオンは今にも泣きそうな顔をした。
「大丈夫。わたしが助けるからね!」
「うんっ!」
「お姉ちゃん! お姉ちゃん! 連れてきたよ!」
「シオン·····。」
「はじめまして、シオンのお姉さん。ええっと、まずは薬草を·····。」
わたしは息をのんだ。
もう、助かりそうになかったから。
でも、諦めなければ絶対大丈夫。自分に言い聞かせた。
「私はもうダメです。」
「そ、そんなことないです!」
「いえ、ダメ。シオン。」
「お姉ちゃん! 死なないで! お姉ちゃん!」
「シオン·····ごめんね。お姉ちゃんはいつでもあなたのそばに居るからね。」
「お姉ちゃん·····っ!」
まただ。
わたしはいつも誰も助けられない。
「シオン。復讐なんて·····しちゃ·····だ·····めよ。」
「お姉ちゃん!!」
「お姉ちゃんが教えたこと·····色んな人に教えてあげて·····ね·····。」
「お姉ちゃん!!」
シオンのお姉さんがどんどん冷たくなっていく。
「お姉ちゃん·····お姉ちゃん·····。」
どれだけ悔やんでも帰ってこない。
わたしは何も出来なかった。
「エリィお姉ちゃん、聞いてくれる? お姉ちゃんが教えてくれたこと。」
「うん、教えてくれる?」
シオンの方が辛いはずなのに·····。
わたし、しっかりしなさい!
「うんっ。お姉ちゃんね、言ってたんだ。このまま争っていたら、世界が滅びるって。仇討ちなんてしちゃダメだって。」
その言葉は少し拙かったけど、わたしの心に響いた。
何も出来ないって、ただ思っているだけの自分を馬鹿みたいに思った。
まだ世界は終わってない。
今からでもできることがある。
エスポワールを止める。今度こそ本当に。
「走れる? シオン」
「走れるよ!」
エスポワールは魔導士の集団を見つけた。
中には駕籠を持った魔導士もいる。
「おい。お前らァ。」
息を切らしながら遅れてきたのはミルエット。
「なんだ、人間か。」
「無視して行け。大魔導士様のお目を汚す訳にはいかんからな。」
取り纏め役のような魔導士は彼らなど相手にしない。
「聞こえてんだろォ?」
無視して通り過ぎる魔導士たちを見て、エスポワールの顔つきが険しくなった。
「
その刃は魔導士たちの1人に傷をつけた。
「·····やはり気が変わった。殺せ。」
魔導士たちは一斉に魔法道具、
「お前ら魔導士のくせに、魔法道具に頼るのかよォ?」
「強い方を使って何が悪い?」
「悪かねェけどよッ!!」
ミルエットは木陰によって、エスポワールたちを見ていた。
「
「エリィお姉ちゃん! お兄ちゃんが!」
「エスポワール!!」
エスポワールと魔導士たちの間に無理矢理入った。
「防御魔法!」
全員弾き出されたみたい。
「何すんだよッ!」
少し見渡しただけでも、10以上の
わたしとエスポワールが本気で戦ったとしても勝てない。
「連れが失礼を働いたようで。許してやってください。」
頭を下げると、魔導士たちは
「仕方ない。お前に免じて許してやろう。」
「余計なことすんじゃねェよ。」
悪態を着くエスポワール。
でも剣をしまってくれた。
「ほお。半人半魔とは珍しい。」
「だ、大魔導士さま、どうかお入りください!」
「何故だ。妾が見てはならん理由があるのか?」
「大魔導士さまのお目汚しをするわけには·····。」
「構わん。」
駕籠の中から、青い髪の綺麗な女の人が出てきた。
思わず息を飲む。
「半人半魔。」
こんな美人にじろじろ見られると、なんだか恥ずかしい。
「可愛い顔をしておるじゃないか。」
わたしの頭を撫でた。
なんとなく、心がふわっとした。
お母様を思い出したから。
「他に仲間はおらんのか?」
「いたとしても教えてやらねェよ!」
「可愛らしい顔が台無しだな。それではこの中で一番可愛いのは半人半魔か?」
挑発するようにエスポワールを見ていた、大魔導士さまと呼ばれる人物。
「んなわけねェだろ!? エットはコイツよりもずっと可愛くて、綺麗で賢そうだ!!」
隠れているミルエットちゃんのことをバラしたのも腹が立ったしなにより·····。
そこまで言うことある!?
「エットと言うのか。」
「しまった!」
って、顔の話なんてしている場合じゃないわ!
「大魔導士さま。聞きたいことがあります。」
「アルファディール。」
「え?」
「アルファディールが妾の名じゃ。」
この人は、話を聞いてくれるかもしれない!
「アルファディール様。村をどうして襲ったんですか?」
「妾へ穀物を納めんかったからだ。」
「それ、だけ·····?」
「ああ。それだけだ。」
この人、なんの悪びれもなく·····。
「しかし、悪かったとは思っておる。真に凶作であったようだからのう。」
「お、お姉ちゃんたちに謝ってよ!!」
シオン·····本当はすごく怖いはずなのに。
わたしの袖を掴んだまま、シオンは叫んだ。
「謝らん。が、悪いとは思っておる。」
シオンのためにも、言いたい。
謝りなさい。シオンとお姉さんたちに。って。
でも、命を失いたくない小心者のわたしには言えなかった。
「詫びといってはなんだが、我国へ招待しよう。食客としてな。」
目が合った。
でも、何を考えてるのかはわからない。
「行くわけないだろォ!」
エスポワールが声を上げた。
「悪い話ではなかろう。魔法道具の作り方も、半人半魔とは何なのかも。全て教えてやらんこともないぞ。」
そういってニヤッと笑ったアルファディール。
罠に違いないと思ったけど、惹かれずにはいられない。
「行きますッ!!」
先に言ったのはシオンだった。
「僕、魔法道具なんて全部壊しちゃうからっ!」
「わたしもその話、受けさせてください!」
アルファディールは微笑んで、エスポワールの肩を掴んだ。
「お主らは来んのか?」
何も言わないエスポワール。
何を考えているのかわたしには分からないけど、アルファディールには分かったみたい。
「仲間と話し合う時間をやろう。爺。見張っておれ。」
「ハッ! 仰せのままに。」
エタンセルたちは話を始めた。
「わたしは行くわ。半人半魔についてもっと知りたい。」
強い意志を露わにして話すのはエタンセル。
「僕も行きたいよ!いつか絶対にお姉ちゃんに謝ってもらうんだから!」
シオンも強く言った。
「俺はやだね。ただでさえ魔導士は嫌いなんだよォ。あんなやつの国には行けねェよ。」
「私はエスポワールくんに着いていくかな。ごめんね、エタンセルちゃん。」
「ううん。」
「とにかく、俺は行かねェからな。」
エスポワールはエタンセルの頭を叩いた。
その事に腹を立てた彼女は怒鳴った。
「じゃあ、来なけりゃいいじゃない!!!」
その言葉に一同は目を丸くした。
「決まりだな。」
いいタイミングでアルファディールが会話に入ってきた。
そのままの勢いで、エタンセルとシオンの手を掴んだ。
「お主らは妾と来るのじゃな!? 妾は嬉しいぞ! 可愛らしいのが2人も入った!」
「エスポワールお兄ちゃん·····。」
「俺はお前のお兄ちゃんじゃねェよ!」
「別にいいじゃない。さすがに心が狭すぎない?」
エタンセルとエスポワールは睨み合いを始めた。
「もう勝手にしろッ!!」
わたしたちはアルファディールたちと共に魔導士の国へ向かっていた。
目的地である魔導士の国の名前はクレエ国。
王が居ず、国を治めているのは神の使いの一族。
その一族を助けるのが、クレエに4人いる大魔導士の役目。
まあ、全部聞いた話だけど。
で·····。
「エスポワール。来ないんじゃなかったの?」
「気が変わったんだよォ。お前こそ俺と一緒で嫌がってんじゃねェか。」
「一言も言ってないわよ。」
「やっぱお前嫌いだ。」
「何が不満だったのよ。」
「そもそも見た目。あーあ。お前も駕籠に乗りゃいいのに。」
「アルファディール様とシオン、ミルエットちゃんが乗ってるでしょ。あれ以上乗ったら床抜けるわよ。」
「ふーん。」
聞いてない。本当に腹立つわね。
アルファディールとシオンとミルエットちゃんは駕籠に乗って、わたしとエスポワールは歩き。
魔導士たちの列の最後尾。
シオンたちがいるから、逃げることはないと思われているからだと思う。
「ねえ、エスポワールはどうして魔導士が嫌いなの?」
疑問をぶつけてみた。
こんな機会だから。聞いてもいいかなと思った。
「どうしてって、そりゃ、国が滅ぼされたからだ。」
「だからなの?」
「そうだっつってんだろ。」
「
「水神からもらった。」
「どこで? 水の中?」
「何処だっていいだろ。」
聞けば聞くほど不機嫌になっていく。
でも、話さないとなんだか気まずいし·····。
それに、まあ、仲間だし·····。
「何怒ってるの?」
「怒ってねェ。」
「じゃあ、質問を続けてもいいのね。ミルエットちゃんとはどこで出会ったの?」
「あのなァ。色々聞くのやめろよ。しつこい。」
「ごめん。ただ、仲間として」
わたしの言葉はエスポワールに遮られた。
「仲間じゃねェよ。俺の仲間はエットだけだ。仲間じゃねェやつに話すことなんてねェから。」
そう言ったエスポワールの顔はいつもと違った。
苦しそうで、怒りにも満ちていて、それでいて、哀しそうだった。
今更だけど、聞いたことを後悔した。
「ここがクレエだ!」
どの建物も綺麗で道は整備されている。
畑に植えてある植物にはたくさんの実がなっている。
水はこの世界特有の紅茶色ではない。
わたしが知っている透明な水だ。
青と赤の髪と目の人しかいない。
さすがは魔導士の国。本当に魔導士しかいないみたい。
「いい国だろう?」
「はい、とても。」
「お前と同じ、半人半魔もおるぞ。」
「半人半魔も·····?」
身内以外の半人半魔には会ったことがない。
会いたいような、会いたくないような。
シオンも目を輝かせている。
エスポワールは相変わらず。
「お前たちの泊まる場所に案内してやろう。」
アルファディールが指を指したところは大きな大きな城。
さすがは大魔導士と言ったところかしら。
部屋に案内された後、わたしは考えていた。
アルファディールのことを。
これだけ親切にしてくれる理由はない。
なにか·····ある気がする。
でも、なんでも疑ってしまう自分に嫌気がさした。
「エタンセル。おるか?」
ドアが叩かれた。
「はい、います。どうぞ。」
軋む音をたてた扉はゆっくりと開いた。
そこに居たのはアルファディール。
「のう、エタンセル。妾と友達にならんか? してやらんこともないぞ!」
突然、そんなことを言ってきたから、拍子抜けした。
しかも、モジモジと言ってくるんだもの。
「なります。よろしくお願いしますね、アルファディールさま。」
そう言うと一気に明るい顔になった。
手を出すとすごい勢いで握りしめられた。
「よろしくな! 妾のことはルファと呼べ!」
「はい、ルファさま。」
「友達なのにそんなに他人行儀にするな! 敬語はいらん! 様付けもいらんぞ!」
「わかったわ、ルファ。わたしのことはエリィでいいわよ。」
「エリィ! エリィだな!」
その笑顔を見てると、怪しいんじゃないかとか、そういう考えが馬鹿みたいに思えた。
この人を信じてみよう。
単純だけどそう思った。
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