代用グラタン 後篇


「代用グラタンです」とエージが差し出してきたが、普通のグラタンと何が違うのか分からなかった。


 ホワイトソースを焦げたチーズが覆っていて、見た目はレストランで出てくるものと何ら相違なんか無い。いただきます、とおれはフォークを突っ込んだ。


 ミートボールが入っていたのに驚いた。それを引き抜くと、後を追うように引っ付いたチーズが、うにょんと伸びた。


 口に入れた瞬間、ジュワっと肉汁が舌一杯に広がった。その後、チーズの濃厚な味と、トロトロのタマネギの甘味が次々と舌を襲ってくるではないか。


 下に敷き詰められたのは、折れたパスタだった。スプーンに乗せてみると、やはりそこにも絡まったチーズが伸びている。


 チーズのモッチモチの食感の中で、弾力のあるパスタが別の方向から主張する。しかも味付けがカルボナーラだから、濃厚なソースの味がクソ旨えでございます。


 ミートボール、タマネギ、チーズの絡んだパスタを一気に口にする。肉汁ジュワリ、トロトロのタマネギ、モッチモチのチーズ。こんな料理を食えるなんて、おれは世界一、幸せな男子高校生なんじゃないかって思った。


「シェフを呼び給え」


「目の前に居る」


 おれの渾身のギャグは、目の前の男にあっけなくスルーされた。悔しいので、もう一度。今度はブラックジョークを、挟む事としよう。


「おれ、サンタへの願い事は決まった」


「んー」


 エージは興味無さそうに、ミートボールを口に運んだ。このギャグを言えば、その詰まらなさそうな顔も大爆笑へと変わるだろう。


「エージを女にしてもらう」


 目の前の男は大きくため息を吐いてから、フォークを置いて満面の笑みを浮かべた。来るか、大笑い。


「僕の願いは世界征服にして、その野望を打ち砕いてみせるよ」


 おれはエージの言っている事が、よく分からないって思った。


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