腹は鳴ったし、作せよ男子。

直行

代用グラタン 前篇


 ヒロがグラタンを食べたいって言い出した。けれど、この家には耐熱皿っていうものが無かった。


 そこで僕が用意したのは、普通の皿。別になんてことの無いただの皿なので、これを工夫して耐熱に出来るとかでは無い。


 皿にアルミホイルを敷く、二重にして三重にする。そして端っこを折り込んで、四角い枠を作る。我々の髪色と同じく、銀で出来た紙皿の出来上がりだ。わざわざ皿を使った理由は、おおよその大きさを確かめる為の物差しなのだ。


 ホワイトソースをどうしようか、って思ったけれど。イチから作るのは、泣いている女の子を慰めるよりも面倒だ。僕はレトルトのカルボナーラを取り出した。


 肉があるかを、冷蔵庫を見て確かめる。あるにはあったけれど、ひき肉だけしか無かった。外は雪が積もっていて、今から買い出しに行くのは、鳴いている猫を無視するより難しい。


 僕はまずタマネギを取り出し、換気扇を付ける。こうしないと、目から滝が鼻水のように溢れ出すから、如何ともしがたい。ボウルに水を貯め、半分に切ったタマネギを落とし、皮を剥いていく。


 濡れ鼠のままのタマネギをまな板に置いて、ヘタとケツにある突起を切り落とす。繊維の方向がX軸だとしたら、Y軸に包丁を入れていく。その方が火も通るし、甘味も出る。


 見事に微塵になったそれをフライパンに入れて、水を入れてからひと煮立ち。炒めて飴色にするのも魅力的だけれど、あまり時間を掛けるとヒロが訳の分からないことを言ってくるのだ。


 グツグツいったら、火を止めて放置。タマネギに火を通すのは、余熱で十分なんだよね。そして、今度の相手は、ひき肉だ。商品用のビニール袋に肉を入れて、それをよく揉み解す。素手でやると溶けた油でベトベトになるし、ゴム手袋とか洗うのも面倒だ。


 ある程度練りこまれてきたので、僕はスプーンを袋に突っ込み、一さじ掬ってフライパンへと入れる。それを繰り返して、一口大のミートボールを幾つか作る。それをタマネギと一緒にフライパンの中で火にかける。


 ミートボールがいい具合の色になってきたので割ってみるが、まだ中まで火が通っていなかった。蓋をして弱火でグツグツ煮込んでいる間、僕はサンタへの願い事を考えた。


 やはり世界征服が妥当なのかもしれないけれど、気づいたらゆーちゃんに世界を横取りされていそうな気がした。


 マカロニを茹でていないのを思い出す。戸棚を見ても無かったから、パスタで十分だって気づく。手鍋に水を半分くらい入れ、塩を少し振る。沸いたら折ったパスタを入れて、弱火にしてキッチンタイマーを作動した。


 先ほどのミートボールに火が通ったのを確認して、パン粉を入れてよく混ぜる。とろみが出てきたなって思ったから、カルボナーラソースを入れてよく混ぜる。レトルトの簡単な奴だから、楽で楽で仕方ない。


 タイマーが鳴ったから、パスタをザルに入れてよく冷やす。どの道トースターで火にかけるんだから、アルデンテを少しでも保ちたいんだ。


 アルミホイルで作った皿に、冷やしたパスタを敷き詰める。ミートボールを入れたカルボナーラソースを、その上にかける。シュレッドチーズを敷き詰めて、オーブントースターに放り込んだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る