僕のいない世界

しばらくは、それでも平和だった。

大きな影が、サバンナに落ちるまでは。

「何…あれ…」

「あんなところに、山なんてあったっけ」

「ちょっと、あれ近づいてきてなーい?」

それは真っ黒で、およそ生命とかけ離れた何か、だった。見上げるそれは、うぞうぞと蠢き、その足元には黒い霞のようなものが漂っている。

「違う…あれ、セルリアンだわ」

霞に見えたそれは、セルリアンと呼ばれる物体が集まったものだった。

「一体、どれだけいるの」

「いーち、にー、さーん、わかんなーい!」

「サーバル、あんたはまた」

「そんなことより、逃げなきゃ!あのでーっかいのも、セルリアンだよ!」

「嘘でしょ?あんな大きなセルリアンなんて、聞いたことないわ?」

「いいから逃げるよ!」

その場にいた女の子たちは、一斉に走り出した。だが、霞…セルリアンは思いのほか早く、そして巨大だった。あまりに巨大すぎて、距離感を掴めず速度がわからなかったのだ。

女の子たちはあっという間にセルリアンに飲み込まれ、その後を超巨大セルリアンが通り過ぎた。

その後には、爛れた大地だけが残った。


『そんなの、そんなのダメだよ!こんなのって!』

「そう、これが君がいなかった世界。さて、次は君が死んだこの先を見てみよう」

火の鳥は、軽く手を振った。

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