パーティとパートナー
私たちが居た『ナチャーロ』と言う街を出た日の夜、つまり襲ってきた狼(キラーウルフと言うらしいが)を殺した日の夜。
私たちは夕方ぐらいまで馬車で進み、夜営をすることにした。
明日の夕方までにはとりあえず次の街には着くらしく、明日はそこで一泊らしい。
だが今近くに街はないため、奇襲を受けにくい平原の街道を少し外れたところで馬車を停めた。
既に食事を済ませた私たち。
ポヨンと御者さんは既に馬車の中ですやすやと眠っている、はずだが時々御者の変な声が聞こえてくる。
ポヨン‥‥‥私たちに卑猥な目線を送ってこないと思ったらそういうことだったのか。
とはいっても声はギリギリまで殺しているようで、吸血姫である私がかろうじて聞こえちゃうぐらい。現にリリーには全く聞こえていない様子。
勿論リリーに聞こえていたらあの二人、ただじゃ済まさないが‥‥‥。
男二人がよろしくやっている間、私とリリーは焚火の前で
もし魔物が来るとしたら森側からなので、馬車と森の間の位置で座っている状態だ。もし反対から来ても夜の吸血姫の察知能力であれば接近前に気づけるはず。
暗くなる前に拾ってきた枝を時々焚火に放り込みながら二人で寄り添うように暖を取る。まだ季節は日本で言う春ぐらいなので夜の外は少し冷える。
パチッ、パチッという焚火の声を聴きながら、揺らめく火をボーっと眺める。
「リリー無理しないで寝ててもいいんだよ?」
「大丈夫です‥‥‥私だってちゃんと夜番出来ますから」
「‥‥‥」
リリーはさっきからずっとこの調子である、不機嫌と言うか思い詰めているような感じ。
なんだろう、このリリーを見ていると胸がモヤモヤする。
力に…なってあげたい。
「ねぇリリー?なにか悩み事があるなら教えてくれない?リリーの力になりたいの」
「‥‥‥‥‥‥」
「リリー?」
さっきより塞ぎ込んでしまった。
無理に聞かないほうがいいのかもしれない。
リリーが悩みを打ち明けてくれないのだとしても、リリーの力になりたいという気持ちは変わらない、それどころか強くなってしまっている。
私はリリーの手を握って、ただ静かに隣にいることにした。
かなりの時間が経過し、もうポヨンたちも寝静まったようだ。
だが隣にいるリリーに目を向けると、まだ何かを考えているように火を見つめていた。
枝を焚火に投げ入れるとパチッと応えてくれる。
もう一本、投げ入れる。
聞こえてくるのは焚火の音と私たちの呼吸の音だけ。
転移した日の夜よりも大きな姿を見せる月だけが私たちを見つめていた。
「ライラさん‥‥‥」
「な~に?」
「‥‥‥ごめんなさい」
やっと口を開いてくれたリリー。
そこから出てきたのは謝罪の言葉だった。
「‥‥‥どうして謝るの?」
「私が
「‥‥‥」
そんなことないわ、と言うのは簡単だし、実際そんなことはないと思っている。
ただ、今のリリーにそれを言っても意味がないような気がした。
黙って続けられる言葉を待つ。
「お母さんを探すために冒険者になったのに、私には何も出来なくて……。氷結猪を倒したのもライラさんで、私はただ見ていただけの足手まといでした」
(足手まとい何て思ってなかった!)
「銀級冒険者の人に絡まれた時も、怯えてライラさんの後ろに隠れて‥‥‥」
(そんなの仕方がないわよ!)
「今日だって
相手にしてたのに私は見ていることしかできなかった‥‥‥」
(私はそのことに不満を感じてなんかいない!)
「そして一番不甲斐ないのはッ!私はそのライラさんを見て、心の中では頼ってしまったこと!!」
「……」
「ライラさんは魔物を殺して心を痛めるような人だって私は知っていたのに!!ライラさんは強い人じゃないって私は知っていたのに!!」
(‥‥‥リリー)
「そんなんで『ライラさんを支えられるようになりたい』って言っていたんですよ私は!」
「‥‥‥」
「ライラさんの記憶を取り戻すなんて言っても、こんな私に出来ることなんて‥‥‥」
「…リリー」
気の利いた言葉なんて知らない。
私に出来るのはいつだって抱きしめることだけだ。
いつかの日のようにリリーを抱きしめる。
またしばらく焚火の音だけが場を支配した。
その空気を破るのもまたリリーの湿った声だった。
「ライラさんは優しいですよね‥‥‥。さっきも、今も何も言わずに抱きしめていてくれるなんて、ずるいですよ‥‥‥」
「ごめんね」
「‥‥‥」
「リリー、私はね―――」
「わかってます。短い付き合いでも私はライラさんのことをもう何でも知ってますからわかるんです。きっとライラさんは私を抱きしめたままこう言うんです『私はリリーが傍にいてくれているだけで幸せなんだよ』」
「‥‥‥」
「優しいですよね‥‥‥しかもそれを本心から言ってるんだから
リリーが私の言葉を遮らなければ、きっと私の口から出ていたのはまさしくその言葉だっただろう。
「リリーは魔法学校で強くなって私を支えてくれるんでしょう?」
「‥‥‥当たり前です」
「……」
「……今こんなことを言ってもやることは変わらないですけどね、ライラさんの力になるためにも魔法の使い方を身に着ける、それだけだったんですけど‥‥‥ごめんなさい、私…少し不安定になっちゃってたみたいで‥‥‥」
「構わないよ、教えてもらえない方がずっと嫌だからね」
「……フフッ、そう言ってくれることも分かってましたよ?」
話したことで元気が戻ってきたみたい‥‥‥。
目尻に残った涙を拭いてこっちを見上げるリリーはいつになく魅力的だった。
‥‥‥それはそうと、何でもかんでも見透かされてるのはやはり恥ずかしい。
「ライラさん今私のこと可愛いって思いましたよね?」
「ッ!?い、いつも思ってるよ?」
「私もライラさんのこといつもかわいいって思ってますよ?」
「~~~~~~~っ!!?」
綺麗だと褒めてくれたなら恥ずかしがりながらもお礼を言っただろう。
でもかわいいだなんてっ…まるで私を子供のように扱って!!
悔しい!でも私の中の
耳が熱くなるのを感じる。
「なに顔赤くして興奮してるんですか。やっぱり変態なんですね」
「‥‥‥」
「そんな変態さんはそこに正座してください」
「は、はいぃ」
有無を言わせぬ口調。
リリーには
「し、しました‥‥‥」
「‥‥‥」
「リリー?」
「動かないでくださいね?」
その言葉に、何をされるんだろうと期待‥‥‥恐怖していたが。
「何してるのリリー?」
「見てわからないんですか、膝枕ですよ」
「いや、それはわかるんだけど‥‥‥」
「何、文句でも?」
「いえ、ありましぇん‥‥」
そう、リリーは私の膝にコテンと横になった。
こちらの方は見ない、ただジーっと揺らめく炎を見つめている。
「ライラさん」
声は先ほどまでの
「私は金級冒険者のパーティメンバーとしてはまだまだ足手まといです」
「‥‥‥」
「でも、たとえパーティーメンバーとして劣っていても―――
「分かっちゃった。私もリリーの言うこと分かっちゃった♡」
「‥‥‥」
リリーがむくれてる。
ケッケッケ、さっき辱められたお返しだ。
真剣な話のところ悪かったねぇ(笑)
「きっとリリーはこう言うんだよ『たとえパーティーメンバーとしては劣っていてもラオらさんのパートナーとしてだけでも
「‥‥‥」
どやぁ、っとする私。
こりゃひょっとすると今度はリリーに膝枕させられるかもねぇ。
私が悪い顔でトラたぬ《捕らぬ狸の皮算用》していると平坦な声が耳に届いた。
「何見当はずれのこと言ってるんですか」
「へっ?」
「私が今も未来もライラさんの唯一にして最高のパートナーなのは当然でしょう?」
未だに声が真剣なのが怖い。
「さっき言おうとしたのは『パーティメンバーとして劣っていても、魔法学校で努力してすぐに役に立てるようになってみせます』だったんですけど」
(あ、あれー?)
「私の言葉を遮って何を言うかと思えば、ずいぶんと的外れなことを‥‥‥」
「ひ、ひぃ!!」
(めちゃくちゃ怒っていらっしゃる)
「いったいどうしてくれましょうかねぇ」
「や、優しくしてください‥‥‥」
つっけんどんとした態度の裏腹にリリーの本心が隠されていることを見抜けなかった点では、やはり私はリリーの心を見通し切れてなかったのだろう。
(…………ライラさんに心の中見透かされるのってすごい恥ずかしいっ!!?)
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