笑ってはいけないと旅立ち
ギルドに来たところで銀級冒険者のパーティに絡まれた私とリリー。
→銀級の俺たちが抜かれるなんてありえない。
どんな奴等なんだ。
は?あんな奴らだと。
やっぱりイカサマか!?
と言ったところだろう。ってことは次の展開は‥‥‥
▼▼▼
「どうする?」って視線をリリーに送ろうとしたところで、リリーが私の腕をつかんで後ろに隠れてしまった。
大人びているがまだ少女。
しかも争いごととは無縁だった、という注釈が付くような少女である。
むさくるしいゴリラ共にこんな至近距離で凄まれたら怯えて当然だろう。
ゴリラ共め、リリーを怯えさせるとは許すまじ‥‥‥。
こいつらぐらいこのままでも大丈夫だとは思うけれど、一応ロザリオが肌に直接触れないように服の上に出しておく。
「あぁん?何無視してんだコラァ!!」
「おい、一人ビビってんじゃねえか」
「やっぱ雑魚じゃねえか」
「ほら、お前らが本物かどうかテストしてやるよ」
周りにいた冒険者たちがなにが起こるのかを察して私から避難していく。
こいつらは気が大きくなって私の変化に気づいていないようだ。
冒険者にとって相手の実力を判断する能力は一番大事だというのに…。
「おらどうした」
「ぎゃははははっ!」
「怖くて動けないんじゃねぇのか」
「ほら、かかって来いよ!」
「‥‥‥言ったな?」
勝負、いや勝負とすら言えないようななにかは一瞬で終わった。
奴等に対し着ていた防具の上から拳を叩き込んで仕舞いだ。
吹き飛び壁に叩き付けられた四人。
周囲の冒険者が、前もって避難してて良かったとギルドの隅で胸を撫でおろしている。
勿論殺さないように配慮はしたよ?
大事なのはこちらの実力を知らしめることと、お灸をすえることだけだったのだから。
と言っても防具が歪んでしまったため、外せなくなって苦労することになるだろうがそれはおまけと言うことで。
もう十分こちらの実力はわかったと思い、リリーの回復魔法で治してもらおうかとも思ったが、まだ使いこなせていない魔法を使うのは危険に思えたので止めておいた。
「もう大丈夫だよリリー、ランディさんの所へ行こう?」
「‥‥‥そうですね」
流石に今回の相手は自業自得だ。リリーももう関わらないスタイルを取るらしい。
ランディさんの元使用人である受付嬢に目で後を頼むと告げてから二階へ向かう。
昨日の時点で訪れる時刻はランディさんに伝えてあったので、このまま行っても大丈夫だろう。
▼▼▼
ノックして返事を貰ってから昨日と同じ部屋に入ると、ランディさんの他にもう一つ人影があった。
その男は高そうな衣服にその豊満な身を包み、面会用であろうソファーに座っていた。
「下からずいぶん大きい音がしたけど大丈夫なのか?」
「ちょっと銀級冒険者に絡まれただけよ。向こうが「かかって来い」って言ってきたことは大勢が証言できるはずよ」
「ほっほっほ、穏やかではありませんなぁ」
お腹を揺らしながら笑ったのはソファーに座っている男である。
おそらく例の大商人だろう、と思っているとランディさんが口を開いた。
「こちらは昨日言っていた大商人の『ボデー・ポヨン』さんだ。ポヨンさん、この二人が昨日話した新しい金級冒険者だ」
ポヨンさんはソファーからゆったりと立ち上がるとこちらに向けて微笑んでいる。こちらからの自己紹介を待っているのだろう。
「初めましてポヨンさん、金級冒険者のリリアです」
「同じく金級冒険者のライラよ、よろしく」
ポヨンはニコニコしている。
名前を聞いたとき笑いを堪えておいて良かった、自身のお腹の擬音を体現したようで思わず吹き出しそうになってしまったのだ。
ちなみにポヨンのアクセントは最初に置くらしい。それも笑いを堪える一役を担ってくれた。
「うむ、君たちに私の護衛を依頼することに決めたよ」
どうやら今決めたらしい。自分の目で見たかったのかな?
「君たちが私の名前で笑ったりしたら雇わないつもりだったがね。冒険者にはそういったものも多いからねぇ。その点君たちは合格だ、よろしく頼むよ」
「よろしくお願いします」
「よろしく……」
‥‥‥本当に笑いを堪え切れてよかった。
それにしても名前か。
「つかぬことをお聞きしますが、ポヨンさんは貴族の方なのでしょうか?」
どうやらリリーも同じことを思ったみたい。
身分が上がるごとに名前は長くなっていく、商人と聞いていたため平民だと思っていたが、彼には姓と名がどちらもあった。
それはつまりポヨンが貴族である可能性を示唆している。
「ほっほっほ、どうやらお二人は上流階級の事情にもお詳しいようだ」
ごめんなさい、昨日ランディさんから聞いただけなんです。とは恥ずかしくて言えない。
「ですがね、姓と名があったことからそう思ったのかもしれませんが私は貴族じゃありませんよ」
ならなぜ姓と名を持っているのだろうか?
「ある程度の商人になりますとなぁ、お偉い方から更なる名前を頂けるのですよ」
ほっほっほ、と語るポヨンと二人して仲良く納得する私達。
確かにそれだけ立場が高ければ学校への推薦も書けるわけだ。
控えめなノックの音がドアのほうから聞こえてくる。
「すまない多分俺の元使用人だ、入ってくれ」
「失礼します」
入ってきたのはランディの言う通り元使用人の受付嬢だった。
「後処理任せちゃってごめんなさい、あの冒険者たちはどうしたの?」
「意識がなかったようなので他の冒険者の方にお願いして、ギルドの外に放り出してもらいました」
「すみません、ありがとうございます」
流石に丸投げしたのが申し訳なかったので話を聞いてみたけれど、受付嬢の対応は思ったよりも
「お飲み物をお持ちしたので、よろしければお飲みになってください。紅茶でございます」
四人で座ってる対面型のソファー。その間にある低いテーブルに四人分の紅茶が置かれる。
受付嬢は口々にお礼を言う私たちに一礼すると、入り口のドアの横まで下がっていきそこに
‥‥‥定位置なのね、そこ。
紅茶でのどを潤した私たちの話題は依頼の内容に移っていった。
結果として。
出発は明日ということだ。
話ではどうやら私たちの他に護衛はいないらしい。と言うのも実はこの街に来たのはただの里帰りで、別に取引などで来たわけではないので馬車も一台だけなんだそうだ。
報酬の話になった際、ポヨンに頼んでみたことがある。
「食事はこちらで用意しますぞぉ、その分の食事代は報酬から引かせてもらいますがなぁ」
「ちょっと待ってください。私たちの報酬はいりませんし、食事代もきちんと払います」
勿論それが頼み事なわけじゃない。
「その代わり、魔法学校への推薦を二人分頂けますか?」
「ほおぅ」
これが頼みたいことだった。
冒険者は高ランクであればあるほど依頼料が高くなる。金級冒険者のそれが浮くとなればあるいは推薦をくれるかもしれない、だからこそのこの交換条件。
「いいですぞ、最近この周辺じゃあの『氷結猪』が出るという話ですからなぁ。しっかり守ってもらえたなら推薦状を書きましょうぞ」
「「「「!!?」」」」
ポヨン以外の全員が固まった。
彼が言った氷結猪、それはちょうど私たちが討伐したばかりの魔物だった。
‥‥‥すでに討伐済みと分かれば推薦状を書いてもらえないのでは?
私達四人の意思は一つとなった。
「さすが耳が早いなぁ旦那ッ!」
「ランディ様の言う通りでございますッ!」
「私たちにお任せくださいッ!」
「傷一つ付けさせやしないわッ!」
ポヨンはほっほっほ、と笑っていた。
窓から見える青空が
▼▼▼
ギルドから宿へ帰る途中、肉屋に寄ってから帰った。
前にリリーと話していた、『世話になっている宿のおばちゃんにおいしいステーキ肉を御馳走しよう。たくさんのニンニクを乗せて……』を実現させる時が来たからだ。
明日でこの町を去ることになる私とリリー。最後に宿のおばちゃんには是非お礼がしたいと思うのは当然だった。
幸い金銭に置いての不安はもうない。氷結猪の討伐報酬と売却した牙がいい値段だったからだ。
そして‥‥‥
「お~いおいおいおいおいおい……」
宿に帰ってキッチンを借り、おばちゃんにステーキを御馳走するとおばちゃんは大泣きしてしまった。
また古臭い泣き方を‥‥‥。
「今日は人生で一番最高の日だね、王都へ行っても頑張るんだよ!」
「ありがとうございます、おばさん」
「ありがとね、おばちゃん」
ここまで喜んでもらえると御馳走した甲斐もあったというもの。
おばちゃんには感謝しかない。
彼女のおかげであったことは多すぎて数えることも出来ないぐらいだ。
エリスさんを見つけて、私も記憶を取り戻したらこの町に戻ってきてもいいかもしれない、そう思えるような数日間をくれた。
だが、そんな風な「全部終わったらこの場所に戻ってきますね」「いつでも戻っておいで」なんてやり取りに私は不謹慎なことにまるで死亡フラグみたいだなんて思ってしまうのだった。
▼▼▼
翌朝、街の門まで見送りに来てくれたおばちゃんに手を振りながら、私たちは旅立った。
手を振るおばちゃんの横のほうに、立ったまま居眠りしているあの衛兵がいた。
‥‥‥最期までそれでいいのか衛兵よ。
「私たちまで馬車に乗っていていいんですか?」
「いいんですよ、載せる積み荷があるわけじゃないですしなぁ」
と言うことで私たちは馬車に乗せてもらっていた。
本来護衛を馬車に乗せると積み荷のスペースが減るということで、護衛は馬車の周りを歩く形になると聞いていた。そんな長距離をリリーがずっと歩けるかが心配だったから良かった。
「王都へはどのくらいで着くのですか?」
「そうですね、このままの調子でいけば一週間ほどですかねぇ。ちょうど中間地点にあった街ですなぁ」
一週間か‥‥‥まぁそれっぽい感じの日数だな。
「中間地点ってどういうことですか?」
「ん?冒険者の方なら知っている知識だと思いましたが」
まずい、この調子で話していくと私たちが最近冒険者になったことがバレて、ついては氷結猪を討伐した話になりかねない…。
「地域密着型の冒険者だったもので‥‥‥あはは」
「ふむ、それで金級まで上り詰めたのですから大したものですなぁ」
どうやらそれほど深く疑問に思ったわけではないようだ。
ポヨンはあっさりとその話題を切り上げるとさっきの言葉の意味を教えてくれた。
ポヨンの話をまとめるとこうだった。
人間領の中でも細分化すると五つの地域になるらしく、魔王領との境界線である『最前線』。そこから少し下がった『補給地点』。リーネリッヒ王国の中心『王都』。それよりさらに後ろの『内地』。
魔王領との境界から離れているほど安全性は増し、身分も奥地にいる者のほうが高い傾向にあるらしい。
私たちの居た町は『ナチャーロ』というらしく、場所としては『補給地点』と『王都』の中間にあって、補給地点から王都へが二週間だからここからなら一週間だと判断したらしい。
「補給地点と呼ばれているところから王都への期間はわかるんですね」
「補給地点と言えば商人たちが最も活躍する場所ですからなぁ、後ろから前へ前から後ろへと物資は流れるのですぞぉ」
なるほど、確かに商売には適している場所だろう。
かかる時間を知っているってことはポヨンもそこで商売しているのかなって思ったけれど、なんかそういう荒っぽい市場みたいな場所はこの人には似合わない気がする。
「ポヨンさんもそこで商売なさっているんですか?」
ナイス!リリーよく聞いてくれた、ちょうど気になっていたんだよね。
ちなみに私は周囲の警戒と言うことで、現在は馬車の屋根の上に膝立ちしてキョロキョロしながら、下にいる二人の会話に耳を傾けている。
ポヨンも一人は暇なのか護衛のリリーを邪険にしたりせず普通に話している。
おかげで情報収集も
その様子を見ていて嫉妬まではしないけれど、ポヨンがリリーに変なことをしようとしたらすぐさま襲い掛かれるようにはしておく。
「いいえ、私はこの身体ですからなぁ荒っぽい商売はもうできませんよ。王都で貴族様相手に商売しながら、部下たちには補給地点での商売をさせているところです。若いうちは補給地点、成功したら王都で、と言うのが商人での常識なんですよ」
「ではポヨンさんも昔は補給地点で?」
「ええ、今よりもずっとスリムでナイスガイだった時の話ですよぉ」
「今でも十分かっこいいですよ」
「ほっほっほ、お上手ですなぁ」
リリーのポヨンに対するこのご機嫌取りがあれば、もし氷結猪が討伐済みであったと発覚しても推薦状がもらえるかもしれないという作戦だ。
そうと分かってはいるけれど、やっぱり面白くないものもあるかもしれない。
ん?あれは―――
「魔物が出ました!まだ襲い掛かってくる様子はありませんが、馬車の速度を上げてください!」
「よろしいですかポヨン様」
「彼女の指示に従いなさい。ライラ嬢まかせましたぞぉ」
「ライラさん大丈夫そうですか?」
出たのは狼型の魔物が十匹ほど、速度を出したこちらを諦めてくれたなら御の字。
追いかけてくるようであれば一度止まって撃退する。
そのことを伝えた数分後、狼の数は三十匹に増えていてこちらの馬車を包囲していた。
「リリー、皆に頭を低くしてもらっておいて!」
「ライラさん‥‥‥」
人間からすればこの子たちは害悪だけど、この子たちからすれば人を襲い喰らうことは生きるために仕方がないこと。それを殺す人間が悪いわけではないし、この子たちが悪と言う訳でもない。
これは自然の摂理なのだ。
生きるために殺す。
そして、自己満足だけどこれだけは言っておく。
「君たち‥‥ごめんね‥‥‥‥‥‥」
私はロザリオを外した。
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