爆誕!!金級冒険者と金級冒険者


「それじゃあその神様は『使い方を間違えるなよ』って言ったのね」


「はい、確かそんなのことを‥‥‥」


 リリー曰く、私の記憶が無いのもその神様のせいらしいし、これは…


「多分その神様はこうなることを予測してリリーに回復魔法を授けたんだね」


「今考えればそんな気もしますね、何と言うかライラさんのことをその……」


「『あまり快く思っていなさそうだった』とか?」


「そう、それです!」


こんなやり方が聞くのは最初の一度だけ。

おそらくその一度目で私を滅ぼせるくらいに強力な恩恵を授けたんだろうけれど、

リリーが魔法を使いこなせる前に発動させてしまったから滅ぼすには至らなかったってところかな。リリーがわちゃわちゃしてる娘でよかった…。


「何か失礼なこと考えてませんか?」

「ううん、まったく。リリーのそそっかしさに感謝していたところだよ」

「そのそそっかしいっていうのが失礼なんです!!」

「アハハ‥‥‥でもこれでその神様の思惑からは外れたわけだし、結果としては良かったんじゃないかな」

「ん、どういうことですか?」




つまり‥‥‥

私を滅ぼすために授けられた恩恵だけど結果として私を滅ぼすには至らなかった。

そこに残ったのは只々すごい回復魔法の使い手、『聖少女リリーちゃん』である。

→結果オーライだ。



街の門に着いたのはそんな会話のすぐ後だった。

そこにいたのは転移初日と同じ衛兵さんだ。身の丈ほどもある氷結猪の牙を二本持った女二人組というのは職質案件だと思うけど、あっけにとられた衛兵さんは、私達が門を通っても声を掛けられなかったみたい。

本当にそれでいいのか衛兵よ‥‥‥。


街を出たときの三倍ぐらいの視線を集めながら冒険者ギルドへ向かう。

この牙をギルドに提出するってことであっているはずだけど、こうまで物珍し気に見られると間違っているのではないかと錯覚してしまう。

この気持ちをリリーに話したら「三連休明けの登校中、通学路で誰とも会わない時の感覚みたいですよね」と返してくれたけど、学校行ったことのない私にはよく分からなかった。




▼▼▼




夕焼けが街をきれいに染める中、私たちはそろそろ冒険者ギルドに着くかって所まで帰ってきた。

宿を出たのが昼前だから、移動、戦闘、ご飯や休憩、全部で五、六時間かかったことになる。初めてだからこの時間が短いのか長いのかはわからないが。


例のごとく野蛮な声が外まで響いていて入り口の前に立つと結構うるさい。

既に酔っぱらっていそうな様子だが、いつ討伐に行っているのだろうか…?


木で出来た両開きの扉、私たちが普通に入る分には片方開ければ十分なそれを、手が塞がっている私に代わり両方ともリリーに開けてもらう。

勿論、そうしないと戦利品を中に運べないからだ。

リリーに先導される形で中に入ると、前回と同じように…いや、前回より速いスピードで喧騒が引いていく。


(もうなんかこの空気やだ‥‥‥)


変わったのは静寂までの速さだけではなく、向けられる視線の種類もだった。

変わった理由は明らかにこの牙だろうね。

前回の私を見ていた人からは驚愕、そうでない人…も普通に驚いているようだ。

いくつかパリンッ、という音が聞こえる。酒飲んでいた人たちがジョッキやグラスを落としたみたい。‥‥‥何やってんだか。


「ライラさん、どうかしたんですか?」


どうやらこちらからも周りを観察するあまり、立ち止まってしまっていたらしい。


「なんでもないよ…行こっか」


笑顔で取り繕い、足を踏み出す。受付までの道にいた人たちが退いてくれるので通りやすかった。


「なんだか『モーセ』が割った海みたいですね」


「‥‥‥‥そうだね」


今度の例えは私でも分かったけれど、中学一年生のする例えじゃないと思う。

っていうか前回はじろじろ見られてビクビクしていたのにもう軽口まで叩けるようになっちゃって‥‥‥。リリー、順応速すぎじゃない?




▼▼▼




「あのー‥‥‥」


「‥‥‥‥」


「討伐証明部位なんですけどー」


「‥‥‥」


「ちょっとお姉さーん‥‥‥」


「はッ、すみません!すみません!!討伐の報告ですね」


おお、受付嬢さんがやっと反応してくれたよ。いくら話しかけても返事がないから怖かったけれど、呆気に取られていただけみたい。


「ライラさんが持っているのは『氷結猪アイスボアー』の牙です。いくつ必要か分からなかったので二本とも採ってきました」


「と、討伐証明は一本で十分です。そちらは武器を作る際、高級な素材として扱えますので二本ともお持ち帰りください。‥‥‥それと少々お話がありますので、二階のギルド長室に来てくださいますか?」


「お話?なにか不味いことしちゃいましたか?」


「い、いえ!そういった話ではないので安心してください!」


「そう…私は構わないけど、リリーもいい?」


「勿論です。ライラさんが行くなら私も行くに決まってます」


リ、リリー。なんて良い子なの‥‥‥。


「言うまでもないとは思いますが、ライラさん一人じゃ危なっかしいからですよ?」


「うっ……」


これが照れ隠しなら可愛いんだけど、声が本気だし、実際私一人だったらすごく心細いので何も言い返せない。


「‥‥‥それではこちらからご案内します」


「ああ、はい」


イチャイチャしてたから受付嬢のお姉さんが若干切り出しにくそうにしていた。

‥‥‥申し訳ないです。


受付嬢さんにそのままでも大丈夫だと言われたので牙も持っていく。

ちなみに『お荷物運びますね』と受付嬢さんは言ってくれたけど、この牙を受付嬢さんが持ったら潰れてしまいそうだったので丁重に断った。


カウンターから出てきた彼女に先導してもらいながら、二階へと続く階段を上る。

他の冒険者たちはまだ言葉を発せない様子だったけど、階段を登りきったところで

一気に後ろが騒がしくなった。

私たちの話題で持ちきりだろう。


階段を登り切り、人目がなくなったところでお姉さんが掠れるような声で言った。


「‥‥‥無事に帰ってきてくださってありがとうございます」


「…どうしてお姉さんがお礼を?」


私も思った疑問をリリーが尋ねる。


「本来、受付の役目には無理な依頼を受ける冒険者を引き留める、ということも入っているんです。それなのに私は冒険者に成りたてひよっこのお二人が氷結猪討伐の依頼を受けようとしたとき、想定外すぎて止めることが出来なかったのです。

おのぼりシスターズを死なせてしまったようなものだと思って、ずっと悔やんでいたんです。だから、その…無事戻ってきて下さりありがとうございます」


「「‥‥‥」」


なんかちょっと感動してしまった。この人はすごく優しくて、自分の仕事に責任をしっかり持っているんだなぁ‥‥‥。

‥‥‥ちょっと天然入っているかもしれないけど。

だって何気に途中変なこと言ってなかった!?

ひよっこ、だとかおのぼりシスターズだとか‼

そりゃあ、おのぼりオーラ出てるかもしれないけどっ‥‥‥

でも少しじゃん、絶対少しだけだよ!そんなに沢山は出てないでしょ!?


リリーと視線を合わせ、目で思考を共有する。


(少しだよね?)


(す、少しに決まってますッ!!)





▼▼▼





受付嬢さんがぐすん、と泣き止み部屋の前で止まった。

彼女だけが私達より先にその部屋に入り、私たちが部屋の前で待っていると

時々、部屋の中から「なに!?」「本当か!?」「そんな馬鹿な!?」という声が聞こえてくる、女の人の声だけど受付嬢さんより少し低めだ。

ギルド長の声かな?

そして数分後‥‥‥


「お待たせしました。どうぞ中へ‥‥‥」


「「‥‥‥」」


おずおずと中に入る私たち、部屋の扉は正面入り口と同じぐらい大きいものだったので牙も中に持って行けた。

扉に見合うだけの大きさがある部屋。

その奥のほうにあるのは暗めの茶色をした執務机と同じ色の椅子。

その椅子を後ろに傾けながら座っているのは、深紅の長い髪の女性だった。

胸を張り、腕を組んでいることで、身にまとう黒い着流きながしをその豊かな胸が下から押し上げていた。

(谷間、谷間が‥‥‥。)

顔からは、右目を覆う前髪とその下にかすかに見える眼帯のせいで、正確な年齢を読みとることはできないが、二十代後半といったところだろうか。

不敵な笑みからはギルド長としての威厳を感じるが、さっき聞こえてきた悲鳴のせいでいまいちだ。

だがその堂々とした振る舞いからは相当の実力がうかがえる。


「よっ、お前たちが氷結猪を倒したっていう冒険者だな。俺の名前はランディだ、そっちの名前も教えてくれ」


「‥‥‥ライラよ」


「私はリリア‥‥‥です」


まさかの一人称、俺と来るとは…なんか似合っているけど。

リリー以外の前では大人ぶることが多くて、言葉遣いが変になっている私に言われたくはないだろうけど‥‥‥。

(直そうとしても直せない辛さよね……)

こういう時リリーが積極的に話してくれることを、情けないけれど感謝している。


「…姓はないのか?」


「ええ、ただのライラよ」


「ってことは平民か~。それでその強さっていうのはすごいな‼冒険者に成りたてっていうのが信じられないくらいだ」


そういえばリリーの名前はリリアとしか聞いてない。

普通、日本人なら名字があるはずだよね……もしかしたら外国生まれなのかもしれないけど、それでも名前だけっていうのはあまり考えられない。


「もしかして姓と名があると貴族ってことになるんですか?」


「ん?そっかあんまり貴族と関わりがない奴らなら、知らないってこともあるのか…」


一瞬驚いた顔をしたランディだったけれど、すぐに自分の中で何かに納得したようだった。


「このリーネリッヒ王国では身分が高い奴ほど名前が長くなるんだよ。俺の名前も元々はランディ・ミロナキスだったしな」


「姓と名があるってことは貴族なの?それに元々は、って‥‥‥」


「おう、俺は元貴族だ!‥‥‥今は勘当かんどうされてるけどな、へへっ」


そういって笑うランディさん。勘当とは穏やかではないがその表情に陰りはなかった。

そして彼女は自らの事情を教えてくれた。

貧乏貴族の四女だった彼女は運のいいことに魔法の適正があったらしく、魔法学校に入り無事に卒業。

そして親にその経歴を使われ、より身分の高い家のものと婚約させられたそうだ。

ここまではありふれた話らしい。ほとんどの親はその肩書が欲しくて娘を魔法学校に入れるそうなのだから。

だけどランディさんの婚約者はかなりひどい男だったらしく、愛人をたくさん囲っている上、婚約者の立場を利用して散々と卑猥な命令をしてきたらしい。

とうとうブチ切れたランディさんはその男を殴り、魔法学院で身に着けた得意の火魔法で婚約者の髪の毛を全焼させてやったそうだ。

結果として親からは勘当を言い渡された後、冒険者となり、魔法の技術を使って

のし上がったらしい。


もともと貴族の生活が嫌だったのと、冒険者として暴れまわるのが性に合っていたかららしく、後悔は全くないとのことだ。


(まだまだ現役そうね)


「そうそう、この娘はな昔は俺の家の使用人だったんだぜ。追い出された俺についてきてくれた、一番の親友だ」


そういってランディさんが見つめた先にいたのは、なんと受付嬢さんだった!

紹介されて静かにペコりとする受付嬢さん。

どーりで言葉遣いとかが丁寧だったわけだ。




▼▼▼




素性が判明した受付嬢さんに話が逸れていることを指摘されたランディさんは、咳ばらいを一つすると本題に入った。


「氷結猪っていうのは本来、金級冒険者四、五人のパーティで何日もかけて弱らせてから倒すもんなんだ。それをついこの前冒険者デビューした女二人組がわずか一日で倒したってんだから呼び出しが掛かったんだよ」


「―――えっ?」


驚くリリー。

私もびっくりはしたけどこれで皆が驚いていた謎が解けた。

冒険者ランクは銅、鉄、銀、金・・・となっていく訳だから、金級といえばかなり高ランクだ。聞けば、このギルドで一番高ランクなのは銀級冒険者で、それも一パーティしかいないらしい。その金級がワンパーティで数日掛けて挑むとは、相当強い部類に入るのだろうあの猪は。


「ということで、二人とも金級冒険者にランクアップしてもらうよ!!」


「「えっ!?」」



今度こそ二人の驚きの声は重なった。

‥‥‥やったねッ。




































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