第3話 ジェム・トゥギャザー


 このジェム・トゥギャザーという仕事は、オー・ショー・ドゥ・タクリカではごく一般的な職業だ。


 タクリカン独自の風習というものがあって、誕生日や記念日などの特別な日に星座石を食べるというものがある。


 他の国の人間からすると、石を食べるとかありえないとか思われても仕方のないものだ。


 けれど恐らくはその風習のお陰で、オー・ショー・ドゥ・タクリカに生まれる人間には能力が備わっているのかもしれない。


 かくいう僕も、半分はタクリカン。だからかは知らんけど、僕と母親は特殊な力が使える。けれど、父親は星座石をいくら口にしても、能力は開花されなかったのだ。


 石を食べると言ったけれど、流石にそのままの状態で口に出来るわけがない。そこで僕ら能力持ちの出番だ。


 桜井社長をはじめとする此処のスタッフの全員が、軟化還元という力を持っている。この技を持つ者はタクリカには多く居るけれど、この国には学園島にしか居ないとされている。故にタクリカンは学園島にしか住まいを持たないのだ。


 一軒家の駐輪場を借りて、キズナを止めさせてもらう。インターフォンを鳴らすとドアから、白人のお姉さんが姿を現した。


 あなたがジェム・トゥギャザーかとタクリカ語で聞かれたから、僕はハイと同じ言語で返事をする。


 家の中にお邪魔すると、小さな女の子と男の子。家族に囲まれて満面の笑みで、ジュースを手に待ち構えていた。お姉さん曰く、双子の妹と弟だということらしかった。


 男の子のケーキはモンブラン、女の子の方はたっぶりのクリームが載ったミルクレープだった。


 基本的に星座石をあしらうケーキは、フルーツの乗ったものを選ばない。デコレーションは、これから行うからだ。


 僕がシザーバッグからサファイアとグレーダーを取り出すと、双子の輝いた瞳がこちらへと向けられる。


「それではお兄ちゃんが、これから魔法をかけます。よく見てて?」とタクリカ語で言った。能力を使う前に、お客様に対して魔法を使うというのはウチの会社の決まり事である。


 右手にサファイヤ、左手にグレーダーを持ち、能力を使用する。


 軟化された星座石は、虹のような輝きを纏う。


 僕はゆっくりと下ろし金へとサファイヤを当てて、ガリガリとチーズのように削り始めた。


 真っ白なクリームの上には、キラキラとした星座石の蒼穹色の粒が、氷化粧のように降り積もった。


 モンブランにも同じように、サファイヤの装飾を施して二人の前へとケーキを置いた。


「ボンヌ・アニヴェルセレンヘイズ」


 タクリカ語で「誕生日おめでとう」と言うと、お礼を言って二人は同時にケーキを口にした。


 子供たちの輝いた笑顔は、僕の削ったサファイヤよりも眩しいものだと、そう思わずにはいられない光景だと思った。


「それでは僕はこれで……」


 この後も三件こなさないといけない場所があるので、僕はその場を後にすることにした。


「お兄ちゃん!」と双子の兄妹に呼び止められ、振り向くとグーに親指と小指を立てたハンドサインをしていた。最近の流行りなのかもしれないから、僕も同じように手を作って二人に返した。今度はヘルメット越しじゃないから、ちゃんと笑顔は伝わるんだ。


 外に出た僕は早速、生徒端末でハンドサインの意味を調べる。あれはオー・ショー・ドゥ・タクリカで、幸運を祈る的な意味らしかった。半分はタクリカンなのに、まだまだ知らないことが多いな。ヘルメットをかぶり、キズナのエンジンを始動した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る