第2話 勇者になんかなりません
それからいろんな魔法を試すこと数十分
確信した。
どうやら、俺は本当に魔法が使える異世界に来てしまったようだ。
夢の中かとも疑ったが、これは現実だ。
まさか、アニメのような異世界転移が現実に起こるなんて夢にも思わなかったが...
多種多様なスキルを使える俺は本当に選ばれし勇者なのかもしれない。
...などと思考を巡らせていると。自称姫が恐る恐る声をかけてくる。
「あの..勇者様...?そろそろお話を伺ってもよろしいでしょうか?」
魔法への興奮でテンションが上がりそうになるが、俺は落ち着き払ってクールに言った。
「なるほど..俺に力があるのはわかった。」
それから、姫が言葉を発する前に俺は遮るように言った。
「それで、勝手な都合で召喚された訳だけど、俺は元の世界には戻ることはできるのか?」
一番大事なことだ。最初に聞いておかないと。
「元の世界に帰ることもできます。ですが、そちらの時空とこちらの世界が繋がるのは星食い日の夕刻の時。次に時空が繋がるのは1年後になります。」
なるほど、次に空間がリンクするのが1年後だとすれば、それまではここで過ごさなくてはならないのか..。
それから俺は色々と聞き出した。
魔法について、勇者としての任務、この世界の情勢、地理、現時点で分かっている魔王群のこと、そして帰る時の儀式について..。
...話を聞き続けること1時間半
あまりの長話に騎士達は、疲れていた。姫はなぜか平然としているが..まあ良い。
「...なるほど、だいたいはわかった。それで、世界を救うことで俺に何かメリットがあるのか?」
「ええ、世界をお救い頂いた暁には、その偉業に見合った名誉と莫大な報酬が約束されます。」
「そして..姫である私との..け..結婚も...」
なんだか頬を染めながらもじもじと言っているな..。
「んー、確かにそれは魅力的な提案だな。」
「では、勇者様!世界をお救いに..」
俺は歩み寄り姫の横の騎士が掲げる伝説の武器っぽい剣を受け取り、すこし眺めた後、こう言った。
「だが断る」
「..............。」
予想外の返事に一同が静まり返る。
それからその場の俺以外の全員がザワザワと疑問の声を上げた。
「え、え〜っと...勇者様?」
「え...?」
「え..引き受ける流れじゃないの?」
「どういうことだ?」
「流れ的に受諾するのかと...」
「マジで?たくさんお金もらえるんだよ!?」
「本気かよ!?姫と結婚できるんだぞ!?」
最後の2人に関してはゲスだな...
..だって死んだら意味ないだろ。悪いけどこの国の人のために命をかける程この世界を俺は知らない。しかも俺に本当に力があるなら、魔王討伐なんて極大なリスクを侵さなくても別の道で稼げるはずだ。
「というわけだから、じゃあな。」
俺は走って逃げる。
「じゃあ、剣返せ!!」
全力で走っている騎士達もどんどん遠のいて行く。
うん、走行スキルを使ってる俺に追いつくはずもないか。
「勇者様ーーー〜〜!!!」
戻れるのは1年後だろ?留年確定じゃねぇか!
単位落とさないようにせっかく休まず頑張ってきたのに..。
こうなったら1年間好き放題やってやるよ!!
俺は勇者..!世界最強なんだ!!
勇者スキルという最強の能力をもらい異世界に転移した俺は、これからの日々に内心ワクワクしていた。
異世界に勇者召喚されたのは俺じゃなくて、こいつでした.. ごまごま @SyrupSyrup
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