第25話
バスが校門を抜けていくのを呆気にとられていると、優生花が自分の腕時計を確認して声を上げる。
「あっ! AM・四時五十五分になってる……」
「……………。」
一瞬、謎の沈黙がその場に漂う。
「ご、ごめん陽介!!」
「……………。ドジ。」
「酷いっ!」
「じゃあ、おっちょこちょい。」
「変わんないじゃん! めっちゃ陽介怒ってんじゃん!」
「いや? 別に怒ってはないぞ。俺の集中しすぎた落ち度でもあるし……なんか少し安心した。」
「……………? ソレってどう言う意味――って何処に行くの?」
スクールバスのロータリーを突っ切る様に校門へ向かおうとした瞬間、優生花に呼び止められる。
「ん? 駅に歩きで行こうかなーって。」
「まさかあの距離を歩いていく気?」
優生花は少し落ち込み気味な声が聞こえた。
確かにここから駅までは大体歩いて四十分は掛かる
「しょうがないだろ。次のバスは一時間後だぞ。」
「えー、じゃあもう一回、と―――」
大体言いたいことは分かっていたので、言い切る前に俺がある事を言う。
「もう一回図書室に戻って時間を潰そうってか? 図書室なら管理上の問題で五時に完全に閉まるんだ。だから時間潰すよりも歩いた方が早く家に着くぞ。」
「む~………分かった。私も陽介について行く。」
優生花は荷物を持ち直して、少し駆けて俺の隣に来る。
校門に向かってロータリーを横切ろうとした時、何処からか怒声が聞こえ、足が止まった。
何処からその声が聞こえたのか確認する前に優生花が反応する。
「陽介、アレって喧嘩かな?」
優生花が指差す方向にはロータリーを少し照らす灯りがある三人を照らし出されていた。
揉み合っている二人と、それを動けずに見ている一人、制服からして女子生徒。
怒声を上げているのは、どうやら、一方的に殴りかかっている方のようだ。
もう一人は自分から殴りに行っては無い。代わりに攻撃を受け流しカウンターを入れていて、しかもその人はその場から一歩も動いて無いように見える。
怒声を上げている方のその声には聞き覚えがあった。
とうやらあのカウンターを喰らっている方は島暖人らしい。
よく聞くと、「お、俺の女に、て、手を出すな!!」という声まで聞こえてきた。
……………。アイツ相変わらずヤバい奴だな。
優生花が昔っからドジっ子な所があるように人はそう簡単に変わらないと言うが、コレはこれで迷惑な話だ。
本来、俺はこういう事にはあまり首を突っ込みたくない。
せめて教師にでも通報して来ようと思った刹那、殴りかかった
どうやら手遅れのようだ。
そのまま帰ろうと思ったが、すぐに倒れた
遠目から分かるほど島の体は立ち上がる事無く
その様子を見て俺は反射的にそこへ駆け寄った。
さっきは遠くて分からなかったのだが、近くに居た女子生徒は森宮さんだったことに気づく。
もう一人は俺が階段から落ちた日に森宮さんと一緒に居た男子生徒。
そんな事に気づきながらも、倒れているコイツに駆け寄り俺は肩を軽く叩いたりして意識を確認してみるが、反応が無く、
素早く首から脈を探し測る。
が、脈が見つからない………正確に言うと呼吸もしていなく、脈が無いと言う状態だった。
ふと、入院中に読んだ医療小説の心臓が細動を起こしている時の一節が記憶を過った。
「不味い。優生花!
「えっ⁉ 急がなくちゃ!!」
「森宮さん! 保健室にまだ人が居るかもしれないから呼びに行ってください!」
俺はすぐに胸の真ん中に手の付け根を置き、もう片方の手でその手の上に乗せて指を組み、両肘を真っ直ぐ伸ばし、肩は手のひらの真上になる姿勢で約5センチ位沈むように圧迫する
森宮さんは少し混乱していたようだが、俺が心臓マッサージをしながら「早く!」と言うと我に返ったのか校舎の方に走って行った。
心臓マッサージは一分間に約百回から百二十回……つまり一秒間に約一回から二回のペースで圧迫し続ける。
胸骨圧迫を三十回終えるたびに人工呼吸を二回の一セットなので、人工呼吸も必要になるかもしれない。幸いマウスピースは普段から持ち歩いている。
酸素が脳に一分間送られない状況が続くと不味い事になるとあの小説には書いてあった。
恐らく処置は早かった方の筈だから何とかなって欲しい。
森宮さんが校舎に向かうのと入れ違いで優生花がAEDを持って戻ってきて来た。
急いで制服を
AEDの電源を付けると『体に触らないでください。心電図を調べています。』と言う音声ガイドの
念の為周りに「離れて!」と声をかけてからAEDの点滅するボタンをしっかりと押す。
『…………ショックを行いました。体に触っても大丈夫です。』
音声ガイドの指示通りもう一度、胸骨圧迫を行い、AEDで心電図を調べる。
『心電図が変化したのでショックを中止します。』
音声の後に念の為に自発呼吸が無事戻ったことを確認した。
痙攣もすっかり止まっている。
丁度処置が終わったとき、森宮さんが保健室の先生を連れて戻ってきてくれた。
そして数分後、救急車がやってきてあいつは近くの
その後の事は色々とあって、何故か人命救助をして俺も、ちゃんと調べもせず、こちらの言い分すら聞いてくれない糞教師に怒られ続けた。
なんでも俺がアイツの事を怪我させたと勘違いしているらしい。
この事は後から相川に聞いた話なのだが、どうやら島は、あの後夜祭の帰りにあった事を、ありもしない虚構を混ぜて、周りに俺が悪いみたいに言いふらしていたのだとか。
勿論クラスの人は島が惨めなホラを吹いていることを理解していたが、その糞教師は盲点的にそいつの事を信じ込み、俺の事を一方的に攻めて来たのだとか。
…………。糞やろうじゃねぇか。
島も哀れだが、他の生徒から聞き込みを行わず、本当なのか噓なのか分からない、たった一人の情報を盲点的に信じ込む教師……。つまり糞やろうじゃねぇか。
一方的に俺が責められる時間が続き、途中保健室の先生のおかげで何とか誤解が解け、帰りのバスが来る時間になったことでやっと俺は職員室の一角にある面談室として使われる個室から解放された。
さっきのあまりに理不尽な拘束に対してバスになった瞬間、不満を漏らす。
「チッ………クソが。あのクソ野郎ろくに調べもせずに責めてきやがって。」
「あはははは………陽介もなのね。」
数秒反応に遅れる。
「まさかだが、優生花もなのか?」
「…………あはははは。私は何でも喧嘩を止めようとしなかった君も悪いって言われちゃって、反省文書かされそうになった。」
「…………。」
喧嘩の目撃者が俺と優生花と森宮さん。
そのうち森宮さんは多分喧嘩の原因になった人の可能性がある。
そして俺と優生花は一方的にあの糞教師に責められていた。
どんだけ盲点的に見ていたんだよ。あの野郎。俺が一番嫌いなタイプの教師だ。
……………………………………………………………………………………………………
あれから数日が経ち何もない日々が過ぎ去った。
ただ、日に日に朝に来る眩暈と頭痛が酷くなってきた。
この事だけは誰にも言えない。ただですら俺の余命を聞いたあの日から母さんは痛々しい傷口にそっと触れるかのような……そんなモノが感じられる。
その母さんの対応と、朝に来る眩暈と頭痛のお陰で、やっと自分の余命が残り少ないと言う事が嫌でも実感出来るようになってしまった。
そんな病院で余命宣告を受けてから少し時間がたったある日の昼。
ついに俺は学校で倒れた。
眩暈で周りが真っ暗に染まり、左右上下の感覚が分からなくなる。
そしてすぐに俺は保健室に運ばれ、その日は早退を余儀なくされた。
家から車で迎えがやってきて、そのまま家に帰った。
家に帰って、自室のベットの上で何とも言えない焦燥感に包まれた。
「俺は本当に病人なのか……」
ついに嫌でも受け入れなければならない現実に向き合わなければならなくなったようだ。
小説の中のよく病気で死んでしまうヒロイン達はよくこんなものを受け入れられる。
俺は元々何となく中学を卒業し何となくで選んだこの高校に受かり何となくこのまま生きていくんだろうと今までそう思っていた。
今でさえ自分が何の為に生きているのかすら分からない。
俺は何の為に今を生きているのだろう。もしかしたら生きる事なんかに意味などないのかもしれない。
頭痛が酷くなってきて、以前病院で貰っておいた薬を服用し、まだ日が高いのに起きて居る事が嫌になったので眠りについた。
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27中25話目
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