第23話
優生花と鎌倉に行った次の日の昼休み。
この時は図書委員の仕事で昼食を食べた後、貸し出しカウンター内の椅子に二人して暇そうに座っていた。
「静かだねぇ、陽介。」
「まぁ、図書室だからな。それに利用者ほぼ居ねぇし。」
ふと貸し出しの手続きに使うパソコンに目を向ける。
パソコンには【10/06/月曜日/12時53分/貸し出し件数 0件/返却件数 2件】と表示されている。
俺が前に借りた本を返す手続きを自分でやっただけだ。
「ちょっとこの前、暇つぶしに丁度良さそうな雑誌を見つけてたの思い出したから取ってくる」と、優生花は雑誌コーナーに行き、一冊何かの雑誌を持って直ぐに戻って来た。
一瞬、女子だからファッション雑誌かなんかかな? と謎の偏見を持って居たが、優生花の持って来た雑誌は全く
「じゃん! コレってなんか面白そうじゃない?」
そう優生花が見せてきた雑誌は不思議なモノの描かれた表紙に、散りばめられた都市伝説系の単語。
所謂オカルト雑誌というやつだ。
「……………。そんな物がうちの図書室にあったのか。まぁ、確かに暇潰しには丁度良さそうだ。面白そうだから俺にも見せてくれ。」
「いいよ~」
カウンターの上に開いて広げ、パラパラとざっくり見ていると、優生花が何故かある記事に反応した。
「ん? 陽介、これ面白そうじゃない? ”ドッペルゲンガーの真実が明らかに!!”だって~」
「なんだそりゃ。」
「陽介、ドッペルゲンガーってなんだったっけ?」
「えーっと確か自分と姿が同じで、実際にあった瞬間どっちかが死んじゃう奴だったな。」
「あ~そう言えばそんな奴だったね~」
俺も何となく興味が湧いたので視線を記事に向けて内容を読んでみる。
中に書いてあった内容は省略して説明すると、ドッペルゲンガーは元々一人の人間に生まれる筈だった魂らしい。
その魂が何らかの人知を超えた力の働きにより、二つに割れしまい、二つの魂が二人の人間に生まれてしまった結果なのだとか。
しかし、元々一つの筈だった不安定な二つの魂は一つになろうとする力が働く。
ドッペルゲンガー同士が出会った瞬間、どちらかの魂がどちらかに取り込まれ、取り込まれた方は魂のない抜け殻の死体になる――――と記事によるとこんな感じだった。
丁度その記事を読み終わった後、誰かが図書室に入って来た。
「よぉ五十嵐。昼飯食い終わったから遊びに来てやったぞ~」
「おっ、相川が来るのは珍しいな。」
「まぁな。ところで五十嵐、ここに雑誌コーナーと漫画コーナーがあるって聞いたんだが何処にあるんだ?」
相川に「すぐソコにあるぞ」とそれぞれを指さして教えると、「おう。サンキュー」と、相川は初めに雑誌を見に行った。
少し遠かったが、相川は多分ダンス系の雑誌を手に持って居たみたい。
それから少しして、「ゆいちゃん、今日当番だって聞いたから来てみたよ。」と、森宮さんと、あともう一人俺が名前を憶えていない同じクラスの男子生徒が一緒に入って来た。
そこで改めて俺はホンっと自分が興味を持たない人間の名前も覚えられないんだな。と実感した。
「ゆいちゃん、ここに記憶関係の本ってある?」
森宮さんがそう優生花に聞いた。
「う~ん………? ねぇ陽介、分かる?」
「記憶か……確か脳の仕組みとかそんな感じのが生物関係のそっちの本棚とそこの新書コーナーに一冊ずつあったはず。」
そう森宮さんに教えてあげると、「ありがとう、五十嵐君。」とお礼の言葉を言われ、「私は新書の方を探してくるから、アンタはもう片方のやつを探しといて」と一緒に来ていた男子生徒に指示をしていた。
「陽介、よく知ってたね。もしかして図書室の本の位置すべて覚えてるの?」
「いや、流石にそれは無い。偶々調べたりする機会があったからだよ。」
「そうなんだ~……あっ、話が変わるけど、陽介は何かおすすめの小説とかある?」
「唐突だね。おすすめの小説? どんなジャンルにかもよるな。」
優生花に「どんなジャンルの小説が好きなの?」と聞くと、少しう~ん……と、
取り敢えず思い当たった作品。
映画化されたものや、何となく買って面白かったものなどを挙げてみた。
すると優生花はいくつかザックリとした内容を知っているモノがあったらしく、ある共通点を見つけたらしい。
「なんか。こういう物語って大体のヒロインの女の子が死んじゃうね………」
「……………。そう言えばそうだな。確かに十中八、九死んでる。」
自分の挙げた小説のヒロインの殆どが重病を背負ってて余命が少なく主人公に病気がばれて段々と発展して行く。
そして、ヒロインは主人公ともっと一緒に居たいという気持ちが増していくのだけれども、病気は容赦なくヒロインの事を
そんなヒロインの悲しく
残り少ない命を、自分のやりたい事に使い、最後まで懸命に生きるそのヒロインの姿は確かに輝いている。
確かにそれらの作品は勿論面白いのだけど、何処か、型の様な物が決まってしまって居るように感じられた。
悪く言うと、まるで異世界モノの、最初に取り敢えず主人公殺して異世界に飛ばして、チート能力を適当につけて、適当に無双させる。
そんなお粗末な型に似た既視感を憶えた。
そんな事を考えていると、昼休み終了五分前の
仕事を始めてからもう四十五分が経つんだ……と思いながらパソコンの電源を落とし、教室に戻る準備を終える。
図書室の出口に向かいながら相川が話しかけて来た。
「なぁ、今回のななれんのミッションキツくね?」
「う~ん確かに今回の七人の賢者と錬金術師のイベントミッションは一人じゃキツイよな~」
相川から「今度ミッション達成用のアイテムの持ち寄りをやるんだけど来るか?」といつものスマホゲームのお誘いが来たので、ありがたく参加させてもらう約束をした。
そうして話が終わった後、一階に向かう為の階段に差し掛かったその瞬間、階段の一番上で昨日の朝も今日の朝も起こった謎の
目が数秒間見えなくなり、バランス感覚が歪む。
その眩暈が原因で階段の一番上から前に倒れた。
つまり頭から階段を落ちだのだった。
一瞬何が起こったのか分からなくなり、優生花と相川が俺の名前を呼ぶ声が聞こえながらも、ただただ痛みの感じるところを手で押さえながら
急いで階段を駆け降りて来てくれた相川は俺の体を起こしてくれて、優生花は痛みの感じるところにハンカチを当ててくれていた。
何故ハンカチを当ててくれていたのか直ぐには理解できなかったが、痛みが引いてきてからある事に気づいた。
俺の
冷や汗かな? と思ってしまったが、それで濡れた手を見ると真っ赤に染まっていた。
そうやら出血したらしい。
確かにさっき、眩暈の所為でロクに受け身の取れずに落ちたんだ。
それに落ちた瞬間、嫌な音が聞こえた気がした。
「陽介!! 大丈夫!?」
優生花の俺の事を心配してくれる声が聞こえた。
「五十嵐! 立てるか!!」
相川も俺の事を心配してくれている。
「あぁ……二人ともスマン。」
少し階段の上がザワついて来た。
騒ぎを聞きつけた野次馬の生徒達がただ上からこちらを眺めて来やがる。
俺の事を見てくる暇があるなら先生でも呼んできてくれ。
「取り敢えず五十嵐、保健室行くぞ。」
相川はそう言うと肩を貸してくれて、俺は優生花が傷口に当ててくれているハンカチをもう片方の自分の手で押さえる。
二人に支えられながらなんとか三階から一階の保健室へ階段をゆっくり降りて行った。
保健室に入り、濡らされて冷やされた布で止血をして、保健室の先生が何処かに連絡してくれている所で意識が急に途切れる。
……………………………………………………
目が覚めると俺は周りがカーテンで仕切られたベットの上にいた。
頭に違和感を感じ触ってみると、頭には包帯と、良く分からん白いミカンネットみたいなものが被せられている。
ふと時間が気になり、左手首を見るが、感覚ではさっきまでつけていた筈の腕時計が無くなっていた。
そして今気づいたんだが、着ているのモノもさっきまで学校の制服だった筈なのに、よく医療ドラマで見るあの服にいつの間にか変わっていた。
どうやらここは病院らしい。
スマホはどこに行ったのだろう? と軽く探すとベットのすぐ隣の机の上に時計と一緒に置かれているのを見つけた。
時計を手に取り時間を調べる。
時計には午前八時と表示されていて目を疑った。
さっきまで十二時半過ぎだった筈なので、一瞬時計が壊れただのかと思ったけど、日付が十月七日になっていたのに気が付く。
つまり俺は半日以上眠っていたらしい。
そんなショックを受けていると突然カーテンが
「――――……!! 陽! 目が覚めたの!?」
「あ。母さん。丁度今起きたところ。」
「よかった………」
そういう母さんの目からは何故か涙が出ている。
「ごめんなさい……ちょっと先生を呼んで来るね」と母さんは涙をハンカチで拭って出て行った。
数分後、母さんは白衣を着た医者を連れて戻って来た。名前は寺林というらしい。
丁寧に名乗ってくれた。
軽く診断された後、ミカンネットの様なこれはもう取っても良いと言う事なので
そしてその寺林先生は俺に何があったのか詳しく教えてくれた。
俺はどうやらあの後、保健室からすぐに救急車に乗せられたらしい。
そこで緊急と判断され、今度は近くの運動場からドクターヘリに乗せられてこの病院に運ばれたのだとか。
正直ヘリに乗った実感はない。
気を失っていたのだから仕方ないだろう。
ヘリで搬送された後、脳のMRIを取られ、急性硬膜外血種と判断され、血種を取り除く為、頭蓋骨に穴をあける手術を受けたのだとか。
急性硬膜下血腫はよく小説やドラマに出てくるのでどんなものなのか知っていた。
その穴の開けられたであろう所は………うん。触りたくなくなったな。
だが、何故かその手術の他の……何か嫌な予感がした。
とてつもなく嫌な胸騒ぎだ。
手術の説明の後、寺林先生に告げられた事はその嫌な予感らを肯定するものだった。
―――――――脳腫瘍が見つかった。
どうやらMRIで偶然、俺の脳の厄介なところに脳腫瘍が見つかったらしい。
詳しく話を聞くと、それは実例が少なく、通称とは異なる特殊なモノで、手術が難しく、成功したとしても術後に意識を取り戻す可能性が極めて低い。
もし手術をしなかったとしても余命はあと一年…………
その言葉は聞き取れたが理解が追い付かない。
理解が追い付いて言葉の意味は分かったが、今自分が余命宣告を受けたと言う所まで理解できなかった。
ただ声が出なかった。
突然の余命の宣告、医師の提示したあまりにも短い自分の余命が信じられなかった。
今の周りからの見た俺はまるで病人の様な恰好をして居るかも知れないが、自分では特に異常は無いように感じる。
きっと何かの悪い冗談だと思いてかった。実はこれは単にやけにリアルなだけの夢だと思いたかった。
何とか言葉を
まるでメールの返信の言葉選びに迷い、打っては消して、打っては消して。ただそれを繰り返すように。
ただただ信じられなかった。
――――――――――――――――――
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