第22話
真っ先に出迎えてくれたのは大きな赤い鳥居。
その先には三本の池を渡るための橋。
三本のうち真ん中の一本はどうやら使われてないようだ。
赤い柵が橋の前に建てられている。
本殿の方向に向かって右が源氏池、左が平家池。
その池を橋を使って渡るとかなり横幅の広い道をまっすぐ歩いていく。
この景色はこの景色で写真を取るのもありだな。
いつも俺が写真を撮るときは大体しゃがみ、ローアングルで撮るんだが、流石にここではやめておく。
優生花と話しながらシレッと撮る程度にしておこう。
参道を進むと、広い広場に舞殿と呼ばれる赤い建物があった。
その先の階段の隣には
「陽介、あの銀杏の木がガイドブックに書いてあった大銀杏のやつ?」
「そうらしいな。前に見た時よりもしっかりしてる。」
「前にも来たことがあるの?」
「三年前だっけな。中二のときに学校で一回だけ。」
一息置いたあと、「あんまり覚えてないんだけど、あのときはまだひょろっとしたのがいっぱい生えてたような気がするな。」と、付け加えておいた。
あの時はまだ生えたばかりの銀杏だったけど結構大きくなったんだな。
そう言えばこの場所は鎌倉幕府の三代将軍の源頼朝を暗殺した場としても知られているらしい。
今は折れてしまったが、大銀杏は将軍を暗殺した
「陽介、確か折れちゃたのって2010年頃だっけ。」
「確かそんぐらい。」
「もう結構経つんだね〜」
「ホントに最近は時間の流れが早く感じるよ。」
階段横の銀杏の木を眺めたあと、階段を登っていく。
階段の真ん中より少ししたあたりを登っている途中、ふとある事を思い出した。
「なぁ、優生花。あの楼門に掲げられてる額に八幡宮って書いてあるのがあるだろ?」
「んー? あるねぇ。陽介、アレがどうかしたの?」
「あの、八幡宮の八の字ってある動物を
「う〜ん……知らないなぁ〜。確かに普通の書体の八では無いように見え……る?」
晴天の中、階段の途中で一旦止まって、優生花は手の平で目のあたりに影を作って頑張って見ようと目を細めている。
「ま、近づいて見れば何なのか分かるはずだよ。」
そう言ってまた残りの階段を登り始める。
それからすぐに階段を登りきった。
「うわぁ〜! やっぱり近くで見ると更に一段と立派だよねぇ」
「そうだなぁ〜……さて優生花。この距離ならさっきの答えが分かるだろう。」
「う〜ん……あっ! 八の字のアレってもしかして―――鳩!?」
「そ、正解。鳩。鳩って神聖な生き物とされているらしくて、鎌倉には鳩を模したお菓子とかあるよなー」
「あー! そう言えば鳩サブレーとかがあったね!」
本殿を訪れたあと、来た道を戻っていく途中、優生花が「源氏池の方でちょっと見ていきたい物があるんだけど〜」と言っていたので、そちらの方に寄り道をした。
そして、優生花はスマホを見ながら何かを探すように周りを見渡して、数分後、お目当てのものを見つけたようだ。
「あっ! あった、政子石!」
「この柵に囲まれた二つの石がそうなのか?」
「うん。これが鶴岡八幡宮の恋愛パワースポットなんだって〜」
「へぇ〜来るときに優生花が言ってた縁結びのやつはここだったんだな。確かにこっちの方まで来る人はあまりいなさそう。」
「インターネットでも隠れパワースポットって紹介されてたからねぇ。」
優生花が、何気に強調していた隠れ……らしいパワースポットに寄り道をしたあと、次に行くところを歩きながら軽く話し合った。
「陽介、次は江ノ電に乗って長谷寺に行かない?」
「いいね。長谷寺って言ったら11面観音だったっけな。」
「そうだねぇ〜あっ、面白い形の池があるらしいよ。」
「面白い池?」
……………………………………………………
江ノ電を利用し、鎌倉駅から数えて四駅目にある長谷駅へ向かった。
優生花の言ってた面白い池は長谷寺の
確かにあれは面白い形だったな。寺院マークのマンジって。
十一面観音菩薩は、大きくて立派だった。何でも約十メートルはあるんだとか。
長谷寺は、花の寺とも呼ばれているらしく、綺麗な花が咲いていて何枚か写真を撮っておいた。
俺と優生花みたいな若い男女がカメラを首に下げて、話しながら時々風景写真を撮ってたりする光景はここが観光地だから違和感が無いんだろう。
いろんな人がデジタルカメラを持って、思い出として、写真を撮ったりする人も結構いる。
そう言えば、そもそも観光地とか良い被写体が無い所でカメラを出す事自体が無いよな?
カメラを出すと言うということは、撮影者が綺麗だと感じたどう言う事だし。
長谷寺の階段を登った先にある由比ヶ浜の見える広場のベンチで座っていると、優生花が次の目的地を提案してくる。
「陽介、次は由比ヶ浜で少し遊んでこー」
「そうだなぁ、着替えとか持って来てないから程々にな。」
長谷寺の次には由比ヶ浜に行ってみてから高徳院に向かう事にした。
今回の鎌倉デートでは由比ヶ浜で海水浴の予定は入ってなかったけど、折角来たのだから少し遊んでいった。
遊ぶって言っても靴を脱いで素足で足元に海水を掛け合ったぐらいだが、結構危ないこともあったな。
何となく海背景で優生花を被写体にして写真を撮ったり。
優生花がドジして転びかけて俺が何とか受け止められてからいいものの、下手すりゃ全身濡らしそうになったり。
ドジして、俺のカメラが濡れて逝きそうになったり。
何時もの優生花のドジはどちらもギリギリで回避できたが、危なかった。
水辺に行くときは防水のカメラか、カメラを持っていかない方が良さそう。
これはかなり重要。いや、マジで。
由比ヶ浜に来て、気付けば30分ぐらいたっていて、時間はもう11時半を過ぎていた。
空腹感が少しずつ出てくるのに気づく。
もうお昼時。こんなにも時間が経つのが早いのか。
お昼は優生花が、事前に調べていて、行ってみたいと言っていた海の見えるレストランに寄った。
案内された席に座って注文したい料理を決め終わると、ある事を思い出す。
そう言えば俺が海に来たのって何年ぶりだろう。
何時からか、気づけば全然行かなくなってたな。
窓の外をぼんやりと、窓の外の海を眺めていると優生花に話しかけられた。
「陽介ー、何ぼんやりしてんの?」
「ん? そう言えば海に来たこと自体が久しぶりだなーって思ってな。」
「そうだったんだ〜私は引っ越してからも結構頻繁に友度地と海に遊びに行ってたなぁ」
「そういや、優生花って昔っから海が行くの好きだったね。」
料理の注文が終わったあと、なんとなく優生花に「そう言えば何で海が好きなの?」と聞いてみた。
すると、「昔は単に行ってみたいってだけで行ってたけど、う〜ん……どっちなんだろう……良く分かんないや。」と返ってきて「なんだそりゃ」と笑いあった。
そう談笑しているうちに料理が運ばれて来た。
運ばれて来た料理に舌鼓を打ちながら、ざっりと次のルートを確認しあった。
「陽介、次は高徳院だっけ?」
「そうだよ。距離はこっから歩いて五分ぐらいらしい。その次の銭洗い弁天は高徳院から大体三十分かかるよ。」
「銭洗い弁天って結構遠いね。」
「そうなんだよな。バスのルートも調べた限りでは全く無いみたいだし………にしても今日だけでかなり歩きそうだ。」
「そうだねぇ……あっ陽介。私は長距離歩くの慣れてるからいいんだけど、もし疲れてたりしたらすぐに言ってね。」
「あぁ、わかった―――……って、ん? そういうのって俺がいうべき台詞じゃね?」
「ふふっ、確かにそうかもっ」
こんな感じのことでも二人して笑いあった。
いつまでも続けばいい、そう思うような時間が、ゆっくりと流れていくような………そんな不思議な感覚だった。
こういう時に限って時間が経つのが早いのは何故なのだろう?
料理を全て食べ終え、会計を済ませて高徳院へ目指し歩き出した。
高徳院の大仏は何度見ても、やっぱりデッカイ。
この大仏の高さは約十三メートルほど………つまり五階建てのビルよりも一メートル大きいか小さいかぐらいの大きさらしい。
現代だからこそ、この大仏ぐらいの高さの建物は多く存在するが、大昔の人が大量の金属を使って作るって相当すごい景色だったんだろうな。
料金を払って大仏の中に入った後、銭洗い弁天に向かった。
銭洗い弁天では参拝者のほとんどがお金を洗って行くだろう。
お金を洗うならハンカチやタオルは必須だ。
ガイドブックにもそう載ってるし、忘れたらシャレにならん。
もちろん優生花はいつも通りドジって両方とも忘れていて、しかもソレに気づいたのが金を洗った後だったから盛大に笑ってやった。
俺は両方持っていたのでハンドタオルを貸してあげたら「陽介、女子力高っ!!」と言われたので「この程度で女子力も何もあるかよ」と笑って返した。
銭洗い弁天の次に、葛原神社に行った後、小町通りでお土産を見ていたりしていると、気づけばもう十五時を過ぎている。
この後は建長寺によってから北鎌倉駅を利用して家に帰るつもりだから家に着くのは大体六時半過ぎかな。
いつも使っている駅から片道二時間で鎌倉駅まで来たんだ多分大体そのくらいのはず。
………にしても普段、こんなに歩かないからそろそろ疲れてきた。
長距離歩いた所為で足首から足の裏までジンジンする。特に足首が痛い。
休むとなんか足の裏がじんわりと、血液がゆっくり流れる感じがする。
表には出さなかったが、慣れない長距離を歩いた俺は結構ヘトヘトだった。
そんな俺とは反対に優生花は全く疲れていないらしく、凄いと思った。どうやら本当に長い距離を歩くのに慣れているらしい。
疲れの所為でか、目眩を起こして何もないところでコケた。
すると優生花に「ドジだな〜」と言われた。
お土産に鳩サブレ―を買って、北鎌倉駅に向かう途中にある建長寺に寄り、中を見たり風景を撮ったりして駅に向かった。
明日は筋肉痛が確定だな。まぁいい写真を何枚も取れたしいいか。
優生花も俺が思ってた以上に写真を撮ってたらしい。
何枚か俺のことを隠し撮りしてたつもりらしいが、バレバレだったので俺も優生花のことを何枚か撮っておいていたな。
いつまでもこんな幸せと感じる日々が続けばいいのに……そう思っていた。
まさかあんな事になるとはこの頃の俺は知る
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27中22話目
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