第21話

 あの告白を告白で返した日からあっという間に一週間が経った。

 元々十分仲が良かったし、特に何の変化も無いような気がする。

 強いて言うなら、俺から話しかけたりするのが心なしか多くなったかもしれないというくらいか?

 この前の後夜祭の事もあって、島から警戒するために、奴が優生花の方向に歩き出したら優生花に話しかけに行く感じなんだが……

 まぁ元々一緒に行動することも多くて、実のところあまり実感が湧いて無かったりもしたな。

 けれど少しずつその実感が涌くにつれて、優生花に対して言葉では表しずらい感情が俺の中で段々と大きくなって行っていた。


 そんなこの幸せな日がずっと続けばいいと思っていた。

 この頃の俺はまだ自分の身に迫る危険を知らなかった。


……………………………………………………


 何時も通りの朝。

 何時も通りスマホのアラーム音で目が覚める。


 まだぬくい布団から出られないで数分間ボーっとしていた。

 起きないと不味い事になるボーダーラインを知らせるアラームが鳴り始める。


「そろそろ起きるか………」


 そう呟くと、自分の事を拘束している布団を勢いよく蹴っ飛ばし退ける。

 一気に朝の寒気さが迫ってきて、一瞬また布団に拘束されたくなり、ベットの横に落ちた毛布に手を伸ばそうとした。

 その瞬間、ちゃんと止められていなかったのか、アラームがまたなり始め、伸ばした手を引っ込めて何時も通り立ち上がる。


 何時も通り……その筈だった。

 立ち上がった瞬間、頭痛と共に視界が真っ黒に染まり、バランス感覚を失い、その場に倒れこむ。

 幸いにも、起きるときに蹴っ飛ばした布団が倒れた地点に落ちていて、クッションになった。


「いっっっ―――………何なんだよ……コレ。」


 倒れこんでから数秒間目がほぼ見えない状態になった。

 何と無く、窓の外の光が分かるかぐらいで、本当に真っ暗だった。

 しばらくすると視界が何時も通り光を取り戻す。


「何だったんだ……今の? 貧血か……? つーかこの部屋寒っ!」


 今は夏なので朝の寒さが此処まで強い事はない。

 寝ぼけていた頭で少し考えると、ある事を思い出す。

 

「………昨日の夜、暑過ぎたからクーラーをつけて寝たんだった………」


 ベットの上にあるエアコンのリモコンを見たら、その瞬間完全に頭が起きた。

 寝ているうちにリモコンを踏んでしまっていたらしく、設定が23度とかいう極寒になっていた。

 これはホント驚きで完全に目が覚めたな。うん。

 エアコンを止め、布団をベットに乗せたりしていると、いよいよ下に降りないと不味い時間になり、急いで下に降りる。

 今日は絶対に遅れたくない。


 下に降りて朝食をとり、顔を洗って何時も通りの身支度を終え、私服に着替える。

 今日は学校の無い日曜日。

 何時いつもなら家から一歩も出なかったり、本屋、図書館、古本屋などをハシゴしたりするんだが、今日はちょっと方向性の違うお出かけをする事になっている。


 身支度みじたくを終え財布の残高を確認して観光用のリュックにカメラなどの持ち物を入れ、玄関で座って靴を履き、家を出る。

 

「あ、陽介。ふっふっふ……今日は私の方が早かったみたいだね」


 玄関のドアを開けると、カバンを背負った優生花が自転車を椅子代わりにして俺の家の前で待っていた。


「……………。確かに珍しいな。」

「そうだねぇ~」

「まさか一時間前から待機している人か?」

「いやいや、丁度来たとこ。と言うか、陽介もしようとしていたんだね。」

「ハハハハハハ………お互い考え方が似ていたみたいだな。」


 どうやら二人とも気合が入りすぎて、お互い一時間前から待機してする―――って考え方だったらしい。数分だけ優生花の方が対気が早かったらしいな。

 ………つまり。本来は七時頃に出ていくつもりだったのに、結果。六時に出発が出来てしまった。

 六時に出発って思ってたよりも、かなり早くなっちゃったな。

 普段家を出る時間よりも早い。


……………………………………………………


 普段学校に行くときの経路で最寄駅まで自転車を漕ぎ、いつも使っている駐輪場に自転車を置く。

 駅の近くに新しくできた地下駐輪場に百円で自転車を預けるのも良いんだが、こっちの自転車定期はまだ切れてないし、そんな遠いわけでも無いのでこちらを使った。

 何時いつもの駅、何時いつもの路線の東武東上線で、池袋駅に向かった。


 …………。池袋駅はターミナル駅。


 やっぱターミナル駅って何処どこでもダンジョン駅だ。

 今回は珍しく、どこぞの方向音痴さん………優生花は迷ってなかったな。

 本人談いわく「私って緊張しちゃうとつい方向が分からなくなっちゃったりするんだよね~」とのこと。

 本当かどうか分らないが、まぁ気にしなくて良いだろう。迷子にならなきゃな。


 志木駅から東武東上線で池袋へ行く。

 池袋駅で湘南新宿線に乗り換え、戸塚駅で横須賀線に乗り換え、電車に揺られること合計約二時間。

 普段学校に行くよりも長い時間と長い距離を移動した。

 目的の駅に電車が着き、電車のアナウンスと共に電車の扉が開き、外に出る。

 改札を出たら、外は真っ青な晴天の暑い日差しの中。

 近くの時計台のある広場で優生花は思いっきり伸びをした。


「ん~~……やっとついたぁ~鎌倉っ!」


 優生花が伸びをしているときに近くのベンチに座って、俺はリュックから一眼レフを取り出す。


「結構長かったなぁ。そう言えば優生花、何で今回来たかったところが鎌倉だったの?」

「何時だか鎌倉を舞台にしていて、妖怪って言うか魔物とかが出てくる――って感じ映画があってね。なんだか行ってみたいなぁ~って。」

「なるほど、映画の影響か。そう言えばそんな映画あったな。」


 多分だが、鎌倉を舞台にした映画と言えば『DESTINY鎌倉物語』のことだろう。

 最近の上映されたものだとその映画しか思いつかんし、魔物が出るのってあれだけだよな……? 多分。


「陽介も見たの?」

「まぁな。色々とあって映画館では見れなかったが、DVDを買って見た。あの映画の原作の漫画が好きだったからな。」

「原作に漫画あったの!?」

「優生花は知らなかったのかっ!?」


 どうやら知らなかったらしく、「後で本屋で探して買わなきゃ」と言っていたので「結構集めてるから何冊か貸そうか?」と言う。

 すると優生花は嬉しそうに「ホント!?」と言って来た。


「やっぱ貸さないでいいかな。」

「え~………!」

「安心しろ。冗談だ。ちゃんと貸してやるよ。」


 ここ最近、優生花に冗談を言ってからかうことが多くなって来た気がした。

 少しはそう言うの自重じちょうした方が良さそうだな。


「さて、優生花。初めはどこに行こうか?」

「取り敢えず鶴岡八幡宮で!」

「やけにハイテンションだな。」

「初デートだからねっ!」

「まぁ、そういや確かに、初デートだったな。」


 この前の浅草は正式に付き合う前だったからノーカウントか。

 それにあの時は正確には写真部の校外活動だったもんな。

 そう言えば川越も一緒に行ってたが、アレも告白の前だったのでノーカンでいいか。


 鎌倉駅から事前に調べておいたルートでガイドマップを見ながら鶴岡八幡宮へ向かう。

 スマホで大体の所要時間の調べたら約十分と意外と近かった。


「ね、陽介。鶴岡八幡宮って何のご利益があるか覚えてる?」


 歩きながら優生花は何やら楽しげに話しかけてくる。


「勝負運、出世運、健康運、生命力アップ、とかだったっけ?」

「縁結びもね。」

「あぁ、そう言えばそんな記事見たな。」

「因みにこの前一緒に行った川越氷川神社は何のご利益があったのか知ってる?」

「そう言えば知らないな。」

「あそこは関東最強の縁結びのご利益があったみたいだよ~」

「マジでか………そう考えると偶然かも知れないがご利益ってスゲェな。」


 確か俺が優生花に告白されて、優生花に告白したのってその日だったよな。


 そんな話をしながら歩いて居るとあっという間に初めの目的地、鶴岡八幡宮に着いた。

――――――――――――――――――

27中21話目

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る