第20話
そう言えば相川は終盤の一番激しいときに戻って来ていて、シレッと花火を眺めていたらしい。
全く気付かんかった。そして、終わった瞬間に急に話しかけてきてめっちゃ驚かされた。
花火が全て打ち上げられて
なんだか風当りが丁度良くて心地いい。
「五十嵐~お前は何時バスにって帰るんだー?」
懐中電灯で照らされたレジャーシートの上でスナック菓子を食べながら相川が聞いてくる。
「さぁな~どうしよっか、神原さん。」
「え? 何で私に聞くの?」
「勿論何と無く。早めのバスは混んでるし、座れるのは終バスあたりかなと思ってるんだけど、神原さんはどっちの方が良いのかな~って。」
「う~ん……じゃ終バスで座りながら帰りたいなぁ~」
「そうか、じゃあ決まりだな。」
そんなやり取りをした後、相川は「俺は早く帰らないと色々と用事があるからなぁ~終バスの一本手前で立ちながら帰るわ。」と言って来た。
スマホで学校のホームページから生徒用のページにログインして入り込み、バスの時刻表を確認する。
後夜祭帰宅用バスは六時五十分から出ていた。今日の終バスは七時半バス。
七時半が最終って言うのは何時も通りなんだな。そう言えば今日は初めてがやたらと多い。
初めて川越に行ったり、初めて一度家に帰ってから学校にまた来たり、初めて屋上に登ったり。
七時二十分前に相川が屋上に鍵を掛けて鍵をどこかの部に返しに行った。
この高校に屋上関係管理に関係する部ってあったっけ? まぁいいか。
相川の乗った満員のバスが出発し、十分後に終バスがやって来た。
終バスに乗る人は少なく、みんな何やら結構お疲れのご様子。
結構遅くまで片づけなどの手伝いをしてたらしい。
真っ暗な道を静まり返ったバスは駅まで進んでいく。
駅に着き、改札を抜けて、ホームで電車を待つ。
「陽介、今日はありがとね。」
「ん? 急だな。そう言うのはちゃんと家まで無事に帰れてから言うもんだぞ。」
「そうかな?」
「そうだな」
「まぁ、ただ何となく陽介に言っておきたくて。」
「…………じゃぁ俺も。神原さん、今日はありがとうな。」
すると神原さんは「何で?」と不思議そうに聞き返してきた。
「何でって、そりゃ、神原さんが見に行きたいって言ってくれなかったら俺は花火を見れてなかっただろうから。」
「花火好きなの?」
「さぁな。どうなんだろう? ただ今日の花火は好きだったかもな。」
「そっか……じゃあ今度またどっかの花火大会にでも―――…………っ! 」
急に神原さんが、何かを言いかけて硬直した。
どうしたんだろう? と思い。声を掛けようと思った瞬間、俺の背中に何か重い物がぶつかったような鈍い痛みが走る。
その痛みが走ったあと、何かが落ちる音がした。
不思議に思い、足元に視線とむけながら後ろを見ると、分厚い参考書のような物が落ちている。
どうやらコレが痛みの原因らしい。
背中を軽くさすりながら視線を上げると、その参考書の位置ていた方向には一人、こちらを恨みがましそうな目で見ている人物がいた。
それも俺が珍しく悪い印象の方で名前を覚えてしまったある哀れなヤツだ。
「いっ、五十嵐! おっ、俺の運命の人に、きっ、気易く話しかけてんじゃねぇ!」
突然そう言ってきた人物はクラスで冷やかされているのにも気づけない哀れな人物。島暖人だ。
そいつの突然発してきた言葉に思わず理解が遅れ反射的に「…………は?」と言う声が出た。
こんな思い参考書を人に投げつけて来たのはコイツしかいないだろう……そう言う考えが遅れるほどの理解のしづらい言葉だった。
少しして整頓ができ漸くまともな返答が思いつく。
「えーっと、お前は島だったっけか? ごめん。言ってる言葉が理解しずらくて返答に困った。」
「おっ、俺の女に近づくな!」
「………は? お前の女って誰だよ。」
ふとホームを見渡す。この今俺の居るホームの端っこに居る人は俺たち以外居ない。
しかも性別が男じゃない人物なんて神原さんぐらいしかいない。
「神原さん。アイツ何言ってんだ?」
「わ……分からない……」
そう答える神原さんは俺の後ろで怯えているように見える。
その神原さんの様子は俺が午前神原さんを探しに行って偶々ぶつかったときの何おかしい感じ……何かから怯えている時を思い出した。
「だ、だから。お、お前は俺の女に、はっ、話しかけるんじゃねぇ!」
また奴は俺に向かって参考書を投げて来た。
今度は投げてくるのが見えていたので反射的に軽く手でガードする。
多少は手に鈍い痛みがあったが、さっきほどでは無い。
「ふぅ……何でお前はさっきからこんなもんを人に投げてきてるんだ? つーか神原さんはお前の女じゃねぇだろ。頭大丈夫か?」
そう実際に俺の感じた事をそのまま口に出す。
「い、いや、俺は神原に、こっ告白したんだ! だから俺の女なんだ!」
告白……と言う言葉に一瞬ドキッとした……が、今回は直ぐにおかしい所に気づいた。
「はァ? 告白したから自分の女……つまり彼女だって言いたいのか?」
あまりにも小学生の様な……浅ましすぎる言葉に、参考書を投げつけられた怒りよりも呆れ……哀れに思う感情があふれて来た。
「ところでお前。告白した後、その答えはどうだったんだ?」
「………お、お前には、か、関係の無い事だろ!」
「関係の無い事……か。ただ俺は気になる事を知りたがっているだけだ。」
しばらく謎の沈黙があり、奴は結局、俺の質問に対する返答はしてこなかった。
代わりに何か卓球ボールほどの玉を俺に投げつけ、ホームに膝をつき、頭を抱えて急に発狂しだす。
かなり自分に自信が有ったのだろう。よくよく思い出せば此奴はチャットアプリのアイコンを自分の顔写真にしていたな。
反吐が出る。
丁度その時、電車が到着しその発狂男を放置し、その場で怯えて固まる神原さんの手を引いて電車に乗り込んだ。
人が俺ら以外乗っていなくて、「ガタンゴトン」と言う音以外聞こえない車内には気まずい雰囲気が漂っていた。
こんなに変な気分になるのは何故なのだろう。
そんな空気の中、先に口を開いた名は神原さんだった。
「陽介……さっき、聞いた通り私ね、あの人から告白を受けたの……」
まただ。脈がドクンとなる感じがした。
そして何故か俺は「そうか……」と憮愛嬌に答えてしまった。
神原さんはそのことをゆっくりと話し始めた。
どうやら告白を神原さんが受けたのは俺が買いだしに行っている時だったらしい。
……………………………………………………
「神原さん、あっちで君の事を呼んでいる人が居たよ。用事があるんだって。」
文化祭で受付の仕事をしている途中神原さんにそう話しかけて来たのは、何時も島暖人をからかって遊んでいる集団のうちの一人だった。
そして、その男に案内された先は校舎裏の人通りの少ない所で、そこに島が待っていたのだと神原さんは言う。
最初は戸惑いながらも、「えーっと、島君。用事って……なに?」と神原さんが聞くと、急に告白されたのだとか。
神原さんはその告白を優しく断って、その場から立ち去ろうとした。
すると、断ったのにもかかわらず、しつこく断る理由を聞いて来て、走って逃げようとしたみたいだ。
逃げようと背を向けると、急に腕を掴まれ、神原さんは何とか振り払い、逃げ回った。
校内に入ってもしつこく追いかえてきて、少し校内を移動し、逃げ切った後、九組の教室に向かう途中廊下の角で俺にぶつかったのだとか。
それを聞いて、あの時発した『良かった……陽介で。』と言う言葉の意味をやっと理解できた。
「あの人からの告白を断ったのはね……他に好きな人が居たからなの。」
他に好きな人が居る……その言葉を聞いたとき、一瞬だけ何も考えたくなくなった。
理由は分からない。
そんな俺に神原さんは話の続きを始める。
「その人は何時も一緒に居てくれて、少し不器用なところもあるけど、根本的にやさしくて……」
「…………」
「六年前の、あの日からから……いや、それよりもずっと好きだった。」
「………それって――――」
その瞬間、隣の線路を電車が通り過ぎ、ガタガタっと窓が揺れる。
……まるで俺の心の中を表しているかのように。
「そう。私はずっと、陽介……貴方の事が好きでした。こんな私で良ければ付き合ってくれませんか………?」
突然の言葉に、気づけば頭が考えるのを少しの間やめていた。
だが、言葉の意味を理解できたとき、あのさっきから感じる気持ちの悪い靄が晴れた気がした。
そうだったのか……うん。やっと俺は自分の気持ちの正体に気づく事が出来たみたいだ。
「………返事はノウ―――」
「えっ……」
「―――なんてな。安心しろ。冗談だ。答えは勿論よろしくお願いしますだ。」
「え………?」
一瞬、俺の緊張からついつい悪い癖で放ってしまった冗談が神原さんを混乱させてしまったみたいだ。
そして俺もどうやら混乱している所があるみたいだ。
俺も神原さんも二人とも理解が追いついていないように感じた。
「しまった、こんな時に冗談を言うべきじゃなかったな。神原さん……いや、優生花さん。こんな俺で良かったら是非付き合ってください。」
「―――――っ!! そ、それは冗談じゃないよね……?」
「ああ、冗談じゃない。返事は………?」
「も、もちろん……喜んでっ………!」
誰一人いない急行列車の中で、少し照れくさい空気がその場に流れた。
混乱状態が解け、頭の整理が追いついた優生花さんがあることに気づいたようだ。
「………ん゛? あ、あれ? 告白したのって私の方だったよね? いつの間にか受ける側になってるっ!?」
「フッ……確かにそうだな優生花さん。気づいたら俺の方が告白をしてたな。」
「何それー………って初めて下の名前で陽介が呼んでくれた!?」
「何となくな。」
そう俺が言うと、「もう、さんっていうのも外しちゃってよ。私はそのまま陽介って呼んでんだから」と返され「分かった。優生花……これでいい?」と答える。
「何かぎこちないね、陽介……ふふふっ」
「そうだな。優生花……ハハハハっ」
誰もいない車内で、二人笑いあった。
いつも笑い合ったりするけれど何だか今回は少し違う……幸せな感じがした。
この時間がもっと続けばいいと思った。
その後無事、何事もなく家に着いた。
これは余談なのだが、その日は俺も中々寝付けなかった。
優生花もそうだったらしい。
――――――――――――――――――
27中20話目
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