第19話

 スマホゲームをやったり、本を読んだりしていると、あっという間に一時間たった。

 取り敢えず今は、自分の家の前で自転車を椅子の代わりにしてスマホをいじって待っている。

 

「陽介ーおまたせー」


 隣の家から神原さんから出てきた。


「おっ、忘れずに来たか」

「私が忘れると思ってたの?」

「………。忘れるわけ無いよな。」

「そりゃーそうだよ〜所でスマホで何やってんの?」

「7人の賢者と錬金術師って育成ゲー」

「いつもやってるね。」

「まぁ、俺がここまでハマったスマホゲームは多分これだけだな。」


 少し雑談をしたあと、日が落ちた街路灯の照らす道で、自転車を漕ぐ。

 何時も朝早くにしかこの道を通らないから何か変な感じがするな。

 明暗が違うだけでこんなに道の雰囲気って変わるのか。 


 駅に着き、蛍光灯の光で明るく照らされた駅のホームも、やはりいつもとは雰囲気が違った。

 少し遠くの方に目をやると結構暗い。

 そして電車のライトって結構明るいんだな。

 適当にホームに着いた急行小川町行きに乗り込む。


「何か変な感じがするねぇ……こんな時間に学校に向かうなんて。窓の外はもう真っ暗だね、陽介。」


 ふと、神原さんがそう呟く。


「確かに、何時もだったら朝早くに、それも明るいときにこの景色は見てるからなぁ。」

「なんか変な感じー。一回家に帰ったのにまた学校に向かってるって~」

「こんなこと滅多にないもんな。つーか今回が初めてだ。」


 神原さんと暇潰しの雑談をしていると、ポケットのスマホの着信音が急に鳴り出してビビった。

 幸い、あまり人は居なかったものの、電車に乗る時はマナーモードにちゃんとなっているのか確認するべきだな。

 そして今回のは誰からの着信だ? 神原さんは――絶対にないな。


 何故か神原さんは隣で自分のバックを漁っている。


「アレ? 今の着信音って陽介の?」

「そうみたい。」

「偶々私も同じ着信音を使ってるから一瞬私のかと思った。」

「確かに着信音が被るとまぎらわしいよね。」


 ポケットからスマホを取出し、送り主が誰なのか見る。


「あれ? 相川からだ。」

「え? 陽介って相川君と連絡取り合ってたの!?」

「まぁな。連絡と言っても、同じゲーム一緒にするときに使う程度だけどな。」


 相川のトーク画面に進む。

 今までのトーク履歴はほとんどゲームの話だな。主に七人の賢者だけど、今日のは珍しいのが来ていた。


『五十嵐ぃ~今日の後夜祭ってお前は行くのか?』


『ああ、勿論行く――ってか、もう向かってる途中。』


『五十嵐一人でか?』


『いや? 一人じゃないが?』


『じゃ、誰といるんだよ。』

『見当もつかん。』


『正解は、神原さん。』

『家が隣だし、後夜祭見てみたいって言うから。』


『(◎ω◎)…………!! マ゛ッ! マジで!?』



 何か知らんけど、文面からでも気持ちが伝わってきて、何を考えているのか分かるぐらい相川は驚いているみたい。

 何処にそんなに驚く要素があったのか分からんな。

 絵文字まで使って驚きを表現しているって相川にしてはスゲェ珍しい。

 前回、相川が絵文字を使って来たのって確か結構レアなアイテムが出た時だったな。


 少し何って返信をすればいいのか戸惑っていると、相川からメッセージが来る。


『学校に着いたら花火の打ち上げ時間までに校内に入って、二号棟の階段を一番上まで登って来てくれ!』

『あ。勿論神原さんも一緒にな!』


 …………なんだコレ。

 俺が『なんで?』と送ると、『それは来てからのお楽しみ』と返って来た。


 神原さんにこの事を話すと、「いいじゃん、面白そうだし。真っ暗な三階の教室からなら花火も綺麗に見えそうだね。と言われた。


 東松山駅に着くと、ロータリーには何時も朝に乗っているバスが止まっていた。

 バスの中の光が周りを少し照らしている。


 それに乗り込み数分後、学校に着いた。

 学校の敷地内では一部の教師達が食べ物の屋台を開いていて、屋台の白熱電球の光が周りの暗さに合わさっていよいよ祭りって感じが出ている。


「さて、陽介っ、取り敢えず屋台巡りでもしよっか!」

「真っ先に言う事がそれなのか? まぁ、屋台巡りには賛成だけど。」

「あっ、あそこで焼き鳥とか売ってるよ。」

「………焼き鳥に反応するとは君の中身はおっさんかぃ?」

「私は中身もちゃんと女子高校生ですぅー」


 生徒がワイワイしている中で焼き鳥を買ったり、喉が渇いたりしたら飲み物を買ったりお好み焼きに並んで買ったりした。

 適当にプラつきながら少しカメラにその様子を収めてたりしたな。

 フラッシュはこんなに人が居る所では使えないし、そもそもこんな感じの所だと色が悪くなるから使わなかった。

 使い慣れていないマニュアルモードは、調節に一番苦労した。

 シャッタースピードを変えたり、ISO感度を弄ったり。

 何時もどんだけカメラにそう言う調節を頼っているのか良く分かった。

 ピントの調節をカメラが自動でやってくれるだけでも大分楽。


 シャッタースピードは速過ぎると写る画は暗いし、遅過ぎると明るいけどブレッブレになる。

 ISO感度の設定もやっぱオートの方がかなり楽だ。


 神原さんも気に入った景色があったらしく、偶に写真を撮ってたな。

 そんな事をしていると、かき氷やらラムネやらなんかの料理をかかえて、思いっきり祭りをエンジョイしている相川を見つけた。


「アレ? 五十嵐、もう来ていたのか。早くね?」

「そうか? そんなに早く無いだろ。………ところで相川、地味に気になるんだがソレって何を買ったんだ?」

「ん? これか? 焼きそばの屋台で麺が切れちゃったみたいでよ~。で余った具材で作られたモヤシ炒め。」

「…………。モヤシ炒めってもしかしてそれって………」

「もちのろんで俺らの担任の手料理。」

「ブッ! マジなのか? 相川、ちょっと気になるから買って来る。」

「おう!」


 少し離れたところで写真を撮っていた神原さんに近づき、声を掛ける。


「神原さん、俺らの担任が焼きそばのあまりの具材を使ってモヤシ炒め作ってるって。」

「本当に? よし! 気になるから行ってみちゃお!」


 焼きそばの屋台を探してみるとほぼ一瞬で見つけられた。

 何故かって言うと、そこだけやたらと九組の人が集まってたから。


 ………一つ思った。何で焼きそばの屋台にモヤシがあまり具材としてあるんだ?

 多分お好み焼きのあまり具材とかなんだろうけど………やっぱ考えるのやめよっと。

 何と無く屋台で焼きそばを作るのに使われていたであろう鉄板でモヤシ炒めを作る担任に声を掛ける。


「あ。岡村先生。モヤシ炒め作ってるって聞いたんで来てみました。」

「ちょっ五十嵐君までって………まぁ、いいか。味付けはセルフサービス何でそこんとこよろしく。」


 そう言われてみたけど、味付けは先生に任せてみた。

 普通にうまかったな。モヤシ炒め。

 岡村先生って何かモヤシ炒めのイメージが強くなっちゃってるけど他の料理もいけるんじゃないか?


 そうして屋台を楽しんでいると、一瞬辺りが少し明るくなって、遅れてから「ドン………」と言う音が聞こえる。

 どうやら打ち上げ三十分前の合図の花火が上げられたらしい。

 校庭のスピーカーから誘導の指示のような放送が流れる。


『えー、今学校の敷地内に居る生徒の諸君! サァァァ! もうすぐ後夜祭打ち上げ花火大会の始まりだァァァ! 生徒アンンンンドッ先生方! 是非校庭へ!!』 


 この声とノリ……多分男装女装ミスコンの時に司会をやってた人だよな。

 「アンド」を「アンンンンドッ」って言い方のクセが凄い。しかもやたらと声がいい。


 放送を聞いた生徒達がゆっくり、ゾロゾロと校庭の方へ移動を始める。

 何と無く、その流れに乗りかけると、相川が昇降口前で手招きをしているのを見つけた。


「おーい! 五十嵐ーこっちこっち!」


 そう言えば半分忘れかけていたが、相川に打ち上げ前に二号棟の階段の一番上に来てくれって言われてたな。

 どうしてなのか理由聞いてなかったっけ。

 そう考えている間にも、相川はシレッと校内に入ってしまった。


「陽介、相川君校内に入って行っちゃったけどどうする?」

「俺らも後を追って行くか。」

「え? みんな校庭で見ろ的な放送流れなかったっけ?」

「いや、アレは校庭へと言っただけだし、何処で見ようが自由なんだろう。」

「あ~確かに。」


 そう言うと、上履きに履き替え、「シン……」と静まり返っている校内に入ってみた。


「夜の薄暗い学校って何か……こう雰囲気が出るね。」

「そうだな。まぁ、大人数で騒いでいる校庭よりもこっちの方が静かでいいや。俺は軽く騒ぎながら見る程度が好きだし」


 相川の後を追って昇降口から入ってすぐ正面にある階段を上る。

 校内の電気はほぼ節電の為消されていて、ほぼ真っ暗だ。

 幸い俺は何時も何と無くで手持ちライトを持ち歩いていた。

 まぁ、最悪カメラの意外と明るくて強い補助光で数秒照らす事が出来る。

 カメラは下手すればライト代わりにもなるし、望遠レンズがあれば望遠鏡の代わりにもなるので結構便利だ。

 足元を照らしながら三階まで登った。


「うわぁ……なんか不気味だな。」


 俺が無意識にそう呟いてしまうと「何が不気味なの?」と神原さんが聞いてくる。

 俺は「ほら、校内の雰囲気とか、この階段以外この上に続く階段なんてないのは何だろうな~とか。」と返すと「たっ! 確かに! まさか七不思議的な夜になるとあらわれる幻の四階!?」と馬鹿げた返答が帰ってくる。

 今思えば不思議に思うんだが、何でこの時の俺は普段だと怖いと思うかもしれないのに普通に人が居ないであろう校内に入ったのだろう。


 そんな話をしていると、その上へと続く階段から相川がひょっこりと現れて、「五十嵐、神原さん、早くこっち来てみろって」と言われた。

 そして何と無く相川の後について上に上がった。


 そう言えば夜の学校ってホントに何かでそう。

 階段を上りきると、そこには一つの扉しかなかった。

 扉の前で相川が懐中電灯を置いて扉に何かをしている。


「よし五十嵐、神原さん行くぞ。」

「相川、こんな所で行くってど――――」


 そう俺が言いかけると相川が扉のノブを回して「ガチャッ」と扉を開いた。

 その扉の先には…………


「うわぁ~! ここってもしかして屋上!?」


 神原さんの第一声がそれだった。

 少し先をライトで照らすとレジャーシートが敷いてあった。


「この高校にも屋上ってあったのか―――って相川……なんでお前、屋上の鍵なんか持ってるんだよ。」

「いや~ちょっと俺の人脈を使ってな。やっぱ花火は屋上で見てみたいと思ってて許可を取るのに苦労したんだぞ。五十嵐。」

「凄いな。」

「さっ、打ちあがるまでくつろいで待ってようぜ。ポテトチップス食うか? さっきコンビニで買ってきた。」


 相川の作ったその場所で談笑をして待っていると、いよいよ打ち上げが始まった。

 カラフルな花火が次々に打ちあがり、光が見えた後に「ドン……」と言う低音の音が鳴り響く。

 何かこの低音の破裂音苦手だな。衝撃波的な感じの音が体の中に響く。


 花火が上がり始めて少しすると、相川は「ヤベっ飲み物飲み過ぎたっ!」と、トイレに焦った様子で向かって行った。


「陽介、花火って本当に綺麗だよね~」

「そうだね。手持ち花火とは違ってやっぱりこっちも良いもんだな。」


 しばらく、二人は次々に打つあげられる花火の輝きに見とれて、無言の時間が流れた。

 相川は結構遅い。一体何をしているのだか………

 花火が終盤に差し掛かった時、神原さんが急に俺の方を向いて来た。


「陽介、私ね………――――」


 何か神原さんが言おうとした刹那、終盤の輝きの様な見ごたえのある花火が速いペースで打ち上げられ始める。

  巨大な破裂音。次々に周りの音をかき消していく。

 その所為で神原さんが俺に何を言っているのか全く聞き取れなかった。

 顔も口の動きもこの明るさじゃハッキリとは見えなかった。

 花火が完全に終わり、神原さんに何をさっき行っていたのか聞いたが彼女は「やっぱりなんでも無ーい」と教えてくれなかった。

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27中19話目

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