第18話

 川越駅に着き、電車からに降りる。

 改札を定期で抜けた。

 定期券って本当に便利。


「陽介、川越駅って初めて降りたんだけど、駅の近くって結構都会的なんだね。」


 神原さんの言う通り、駅の近くは大分都会的で、俺の中で川越としてのイメージが強い、昔ながらの風景は奥の方に進まないと無いようだ。


「そうだね、神原さん。ここからどうする? 時の鐘の方まで行く? それともそこら辺のおしゃれなカフェで時間でも潰す?」

「折角来たんだし、時の鐘の方まで行こうよ。ここら辺はまた今度にしてさ。」

「やっぱそうだよな、りょーかい。」


 スマホのナビアプリを利用して、時の鐘や古い街並みの色濃く残るエリアまで喋り歩きながら向かう。

 駅の付近を歩いて居て思ったんだが、高校生も多く行き交っているな。

 大体制服を着た状態で駅に向かっていたり、駅周辺の店で金を使って遊んでいたり。

 偶に面白い形のアイスなどがあるな。多分、所謂いわゆるSNS映えを狙った女子高校生をターゲットにしたような物だろう。

 そう言えば、ああ言うのって物理的に食べずらそうな形の物も偶にあるよな。

 綺麗だったり可愛い物は精神的に食べずらかったりするが、派手な見た目で大きい物は物理的に食べずらそうだ。

 あんな感じの物って好きな女子が多いのか? まぁ、俺は男だし、そんな事分からん。


「陽介、川越って何が有名が有名だったっけ?」

「う~ん、この前、母さんに聞いたら有名なもので真っ先に芋って答えが来た。」

「いも?」

「詳しい事は俺も知らんな。ただ、今少しだけネットで調べて見たら物理的に食べずらそうな物が出てきてたな。」


 スマホで検索に掛けて画像を漁って「ほら、コレ」とその写真を見せる。


「あーなるほど、陽介の言う物理的に食べずらそう―――ってこういう事なのね。案外そんなに食べづらく無いかもよ?」

「まぁ、確かに食べづらかったら誰も買わないか。ちゃんと何かしら工夫もしているんだろうね」

「今チラッと見たんだけど、この辺美味しそうな食べ物屋さん多いねぇ」

「確かにな。食べ歩きしながら行くのも良さそうだ。」


 都会っぽい雰囲気の街並みを通り過ぎて少しすると、と良く呼ばれる古い町並みの残る風景が見えてきた。

 ネットには城下町の面影を色濃く残すと書いてあり、まさにその通りだと思う。

 昔ながらの風景以外にも、俺の勝手なイメージなんだが、西洋文化が入ってきた明治時代っぽい石造りの建物もチラホラ見える。

 街並みを見ていると、一つある事に気づいた。

 道路を挟んで片方は木造建築で統一され、もう片方は石造りの建物以外にも色々と現代風の建物が建てられている。

 横掛けバックからD40xを取り出して、ファインダーを覗かずにその風景を撮った。

 カメラの扱いに慣れてくると、なんとなくの角度で大体自分の思い描いた構図の写真が撮れるようになるんだな。

 少し、の感じはファインダ―を覗いた時よりも落ちる所はあるけど、そこは大体考慮してある。

 そろそろ食べ歩きの観光者をターゲットにした店が幾つか見つかりそうだな。


 川越駅から三十分ほど神原さんと話しながら歩いていると、川越のシンボルと名高い時の鐘が見えて来た。

 ここの辺りの建物は全て時の鐘よりも低く建てられていて、周りから見えやすい。


「ねぇっ! 陽介っ! あれが時の鐘だよね!」

「そうだな。にしても、やっぱりこの辺りの建物って年代が違う感じがするな。」

「陽介の考えてることって、ここだけ昔の風景のまま時間が止まっているような感じ方なのかな?」

「確かに神原さんの言う通り、その感じ方に近いかも。」

「ふふっ陽介の事結構わかってきたかも。」


 時の鐘への入り口がある"かねつき通り"に入ると、もう目と鼻の先に時の鐘が見えてきた。

 俺と同じようにカメラを首から下げている人も偶に見かける。

 結構にぎわっているな。


 かねつき通りを進んでいると、やはり観光者の食べ歩きなどをターゲットにした感じの店が多くあった。

 まぁ、真っ先に食べ物に食いついたのは神原さんなんだけど。


「陽介っ! あれ美味しそうじゃない?」

「確かにうまそうだな。じゃ、かねつき通りで食べ歩きとでもいくか。」

「いいね!」


 スマホで多少は調べながら探し歩く。

 時の鐘のすぐ近くのお店で売っていた、『いも恋』という名前の芋の饅頭。

 物理的な見た目の『おさつチップ』と言う芋のチップ。

 どれも美味しかった。

 この二つは有名らしく、ネットの記事でも紹介されていたな。

 あとはかりん糖など、食べ歩きに丁度いい食べ物がかねつき通りには集まっていた。

 町並みとかの写真をちょいちょい撮って時の鐘の近くに行ってみて一つ気づいたことがある。

 時の鐘をくぐった先は薬師神社ってのになっているんだな。知らんかった。


 そして、時の鐘から約二〜三分歩いてすぐの所、菓子屋横丁の方まで行ってみて、更にそこから川越氷川神社の方まで行った。


 菓子屋横丁の景色は結構俺の好みに合った感じ。氷川神社も風鈴や、建物も綺麗だったな。

 境内のその風景を撮るために一眼レフを構えている人が思ったよりも多くいた。

 それもかなりガチガチのレンズを使ってる人が多かった印象を受けた。


 神原さんは真っ先に「陽介っ、あれってなんだろ?」と、人形ひとがた流しに食いついてたな。まぁ、予想通り。

 境内に入って俺の視界に現れた瞬間、「あっ………神原さんが好きそうな物があるな――」って思ってたところだったし。

 他にもデカイしめ縄とかあった。


「陽介っ、ここの神社って何の神様が祀られてるか知ってる?」


 神原さんがふとそんな事を聞いてくる。

 そういや、ここって何の神様を祀っているんだろう?

 人形流しは確か水神だっけ?


「ん? 知らんけど予想は水神かな?」

「へぇ〜知らないんだぁ〜」


 神原さんは何かを企んでいるときの笑みを浮かべる。

 絶対何かありそうだ。


「水神じゃないのか? じゃあ何の神様が祀られているの?」

「さぁねー、あっ絵馬のトンネルが気になるな〜」

「あっ、逃げた。」


 何だったんだ?

 結局ここの神様って何の神様が祀られているんだろう………?

 敢えてこれ以上何となく詮索しないでおこう。


 氷川神社では、絵馬のトンネルや風鈴のトンネルをくぐったりして、ぶらり川越駅途中下車の旅は終わった。

 後夜祭開始までまだ時間があるので、一旦家に帰った。


 家に帰るとどうも、疲れが一気に来る感じがする。

 自室のベッドの上で、しばらくボーッとしていると、年の為に後夜祭に向けて充電しているスマホの着信音が鳴った。

 

 誰だろう? と思いながらもスマホを手に取り、通知を確認する。


「あ、神原さんからだ。」


 アプリを開いてトーク画面に進む。


『陽介ー、そう言えば何時に出ていくのか決めてなかったよね?』

『何時にする?』


 しまった。

 川越のブラ旅で何時に出てくのか打ち合わせするのを失念してたな。


『そういや、決めるの忘れてた。』

『七時半頃から打ち上げ花火が上がるって聞いたし、それまでに行ったほうがいいよな?』


『じゃ、六時半には家を出て駅に向かう?』

『学校だと多分先生達が屋台とかやってそうだし。』


『そうだなぁ。』


 文化祭二日目が終わったのが三時。

 片付けをしてから駅についたのが四時頃。

 ブラ旅から帰ってきてもう今の時間は五時。

 そんな事を考えているとは神原さんから返信が来る。


『あと一時間かぁ〜』

『一時間ぐらい川越で適当に時間潰せたかもね。』


『確かにそうだな。荷物もそんなに多いって訳じゃないんだし。』

『ま、お互いゆっくり家で過ごしていよっか。』


『そうだな。じゃ、また後で。』


 神原さんから、『また後でー』と言うメッセージに既読を付けてから、スマホのアラームをセットする。


 さて、やりこみ育成ゲーでもやるか。


――――――――――――――――――

27中18話目

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る