第17話


 掲示物を見ていると、化学の教師だと思われる人がテルミットの実験をやる装置で何かを準備している。

 その人は準備を終えると部員たちに、「おーい。テルミットやるから人集めてこーい」と一声かけた。

 やっぱり今年もあの実験やるんだな。

 カメラを構える。


「陽介、テルミットって?」

「酸化鉄とアルミニウムの粉を混ぜて火を付けるだけの実験。」


 神原さんが「それってどういう―――」と言った瞬間、着火剤として使われたマグネシウムリボンに火が着けられ、まばゆい光があふれ出る。

 光が消えたと思った瞬間、今度は真っ赤な炎が立ち上がった。その瞬間シャッターを切る。

 火柱が消えた後、火柱の下に置いてあった水の入ったビーカーに何かが「ポチャン」と落ち、「ジュウゥゥゥ……」と音を立てた。


「よ、陽介! 今のって本当にさっき陽介が言った材料だけで出来るものなの!?」

「多分俺が言ったモノだけだと思う。そういや、さっきの炎三千度位の熱が出るらしいよ」

「すごっ!」


 因みに、さっきビーカーの中に落ちた物は還元された鉄だな。

 化学の先生がもう一回今の実験をやろうと二回目の準備を始める。

 折角なので次も見て行こうと思ったら、何か分からんけど神原さんは俺の後ろに立った。


 まるで誰かから隠れるように。


 何処かに知り合いが居たのかな? と思うと神原さんは「よ、陽介……そろそろここを出ない?」と震える声で言って来た。

 そう言う彼女は、まるで何かに怯えるようだった。

 どうしたのか気になり心配したが、その時は深く考えず、神原さんの望み通りに化学室を足早に後にした。

 俺の気の所為かも知れないが、実験の材料を持ってきたある生徒を見た瞬間、神原さんから何かに怯える感じが出てきたように思えた。


 このさっきから収まらない胸騒ぎ………なんとなく何も起こら無い事を祈ってしまう。

 化学室から出て、取り敢えず階段を下り、外に出た。

 

「神原さん、大丈夫か?」

「う、うん! 所で大丈夫って何が?」

「何か神原さん……いや、やっぱりなんでも無い。」

「そっか! じゃ陽介、今日は屋内ステージでも行ってみる?」

「あっ、それも良いな。演劇部とかが何かしらやってるみたいだし。」

「早くいこー」


 昇降口を出てすぐ目の前にある、屋内ステージとなっている第一体育館に向かう。

 体育館の中はほんの少し暗めにされていて、パイプ椅子が等間隔で並べられていた。

 入口の公演スケジュールによると、あと少しで吹奏楽部の演奏が始まるみたいだったので、その為早めに中の照明をいくつか落としていたのだろう。

 前の方ではこちらに向かいあうように、木琴、トロンボーン、チューバその他様々な楽器を持ち、統一された緑色のTシャツを着た部員たちがスタンバイしている。

 公演の時間になり、体育館の照明がまた落とされ、落とされた代わりにステージの上に設置された青や紫の照明が点灯した。


 始めに演奏された曲は聞き覚えのある最近の流行の曲など。

 どれも名前までは知らないが、テレビなどで何と無く聞いた事があるものが数曲演奏された。

 凄い聞きごたえはあったが、何でこうも少し暗くいところで座りながら何かを見たりすると疲れのような物が出てくるのだろう。

 長い映画を見た後だとかこの前学校の日本文化学習だか何かで聞きに行った落語だとか。

 そういや、落語って思ってたよりも面白かったな。何より話している人がうまいのがあるよな。


 公演が終わり、良い具合にお昼時になっていた。

 外に出ると真っ先に神原さんはこの話題を出してきた。


「陽介、そろそろお昼時だし何か食べない? お腹すいて来ちゃった。」

「そうだな。昨日は焼きそば食ったし今日は別のモンにでもしようか。」

「う~ん、何があったっけ?」


 取り敢えずしおりを開いて確認する。


「え~っと、ケバブサンドと肉巻きおにぎり。カレーにミートスパゲッティ、焼き鳥とかその他。」


 大根おろし踊りうどん? 何だコレ。名前のインパクト凄いな。

 後から相川に聞いたんだが、元応援団長がどうたらこうたらって良く分からん話だった。

 他にも体育の教師の出す、揚げ物屋の屋台とかもあったな。 

 餃子にしゅうまい、小龍包などもうまそうだ。


「いっぱいあるね。どうする? 陽介。」

「取り敢えずケバブとか気になるな。あと、たこ焼き。」

「いいねぇ~私もたこ焼を買おーっと」


 この後、色んな屋台に並んだ。

 たこ焼きの屋台には思った通り、相川が並んでいたな。

 スカイツリーの時にも思ったんだが、相川の好物ってたこ焼きみたいだ。

 昨日も食ってたの見たし。


 そうして過ごし、時には写真なども撮っていると時間は午後三時。

 文化祭二日目終了の時刻だ。

 準備などに二週間かけた物はあっという間に終わってしまった。


「五十嵐、思ったよりも早かったな。文化祭って。」

「そうだな。何より準備も大変だったが……相川、俺の言いたい事は分かるよな……?」

「俺も五十嵐と同じこと考えてると思うよ……」


 相川と俺は一息置いた。


「「後片づけメンンドクッサッ!!」」


 準備はワイワイして楽しかったが、その準備したものを解体するのはガムテを剥がして別々に分別したり。

 段ボールはペンキが塗られてるか塗られてないかで分別したり。

 教室の前に設置されたゴミ箱にちゃんと空き缶と書いてあるのにペットボトルが捨てられていたりするのを分別したり。 


 分別作業多っ!

 去年は楽しむ側だったが、開催者側は毎年こんな事をやって居たのか……

 準備も大変で、片づけも大変。

 この九組は他のクラスに比べて段ボールの使用量がタダでさえ多いんだ。

 その分苦労が絶えない。


 迷路だった段ボールを解体して、外に持っていく。

 外には清掃ダンプトラックが数台泊まっていて、その前で教師が厳しくチャックしてから荷台に入れていた。

 教師のチェックが厳しすぎて、結構長い行列が出来ている。


 チャックを無事に受けてその後何往復か教室と荷台を行き来した。

 最後らへん、教師たちも面倒臭くなってきたのか分からんが、チェックどころか全く見ずに荷台に投げ込んでたな。

 どうやら横着おうちゃくをしだしたようだ。

 良いように言うと、と言う名の

 まぁ、教師なんてそんなもんだよね。


 約一時間半で片づけを終わらして四時には解散になった。

 で今俺は、何時も通り成り行きで神原さんと帰宅をしている。


「文化祭楽しかったね~」

「そうだなぁ、結構普段は撮れない写真を取れて満足しているよ。」

「そっち!?」

「ああそうだ、この文化祭で撮れてたお気に入りの写真見せようか?」


 神原さんは興味津々に「えっ? 何々? どんな写真なんだぃ?」と聞いてきたのでワザと神原さんがステージでコケた瞬間の写真を画面に表示した。

 そして神原さんが「ちょっ! 何で私がつまずいた瞬間の写真があるのっ!? 恥ずかしっ!」と騒ぎ出す。

 すかさず「あっ、ごめんごめん間違えた。お気に入りはこっち、最後の決めポーズの時にヤツ。」と写真を変える。

 そうしてさり気なく何も無い所でこけた瞬間の写真を見せておいた。

 このコケたときの写真は神原さんが自分で意識してないような、自然体な感じで結構好きだからな。


「そう言えば陽介はこの後の後夜祭に行く?」 

「さて、どーしよっかな? 神原さんは行くの?」

「う~ん、行きたい……かな?」


 後夜祭は花火が上がるって話だ。

 と言う事は帰りは真っ暗になる。

 そしたら変な人が出るかも知れない、夜道を一人で帰らせて厄介事に知り合い。それも隣の家の住人が巻き込まれたんじゃ寝覚めが悪い。

 それに、見たいものは見せてあげたいと何と無く放っておけない。つまり何時もの保護者感。


「じゃあ決定だ。一緒に行くか。」

「えっ!? ほんと!?」

「後夜祭って帰り絶対に真っ暗になるだろ。それに俺も気になるし。」

「わーい! って今気づいたんだけど、陽介の方から一緒に行こうって誘って来るの今回が初めてじゃない?」

「気の所為じゃね?」


 そんな会話をしていると、アナウンスで間もなく川越駅に着くと言うのに気づいた。


「もう川越かぁ……そう言えば毎日この駅を通過しているのに一回も降りた事が無いね。陽介は降りた事ある?」

「確かにそうだな。もうじき高校に通い始めて半年になるのに俺も降りた事無いや。」

「じゃ、折角せっかくだし降りてみる?」

「それも良いかもしれないな。幸い二日目だったから二人とも荷物は必要最低限の荷物だしな。」


 神原さんは制服にも合うような黒色の小さい黒色の横掛けバック。

 俺も同じような型の横掛けバックとカメラケースと言う身軽なものだ。

 因みにカメラケースは横掛けのバックの中にしまえるのでそんなに邪魔になら無い筈。

 財布もあるし定期利用だから降りても料金は発生しないし。

 一度時の鐘とか、昔ながらの建築の並んだ風景とかも写真を撮ってみたいと思ってたところだし丁度良いか。


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27中17話目

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