第15話


 そうしている内に気付けばもうぐ相川のチームがステージに上がる五分前になっている。

 中庭までそんなに距離は無い。

 歩いて大体二分って所だ。


 再び中庭に戻ってからほんの数分後、相川とその他俺が名前すら憶えてない男子三人と猛者がステージの上に上がって来た。

 相川がステージに上がると結構テンポの速い激しめの曲がステージに響き始める。


 まぁ、この後どうなったかと言うと何だろ。

 かく相川に引きつけられた。

 普段のアイツからは想像できないような表情。

 素人には絶対にマネ出来ないようなパフォーマンス。

 会場の空気が一瞬で書き換えられた。


 相川よ……お前らのチーム一人を除いてガチな奴じゃねぇか!

 どんだけうちのクラスにダンスガチ勢が固まってたんだよ!


 興奮しながらもカメラのモードを最適なモノに切り替え、ファインダーを覗きながらシャッターチャンスを逃さないようにする。

 たまに思わず見とれてしまい、シャッターを切り損ねそうになった。


 ただ……一人だけ明らかに周りよりもレベルが圧倒的に低く、劣っているのが居る。

 本当に何なんだろう。アイツ以外レベルが同じなのに。

 ただの埋め合わせだからと言っても、もうちょっとマシな奴が居ただろうに。


 相川達ががダンフェスのシメを飾るのに相応ふさわしいパフォーマンスを五人のうち四人が行い会場をおおいに沸かせた。


「相川、かなり凄かったな!」

「相川君! 本っっ当にカッコ良かったよ!」

「おうっ! 見に来てくれてありがとうな! 五十嵐、神原さん。」

「相川、チーム名フザけている割にガチ過ぎなかったか?」

「チーム名だけじゃ内容まで分からんからなっ!」


 そう言うと、相川は「ハッハッハッ」っと上機嫌じょうきげんそうに笑った。

 どうやら相川は小さいころからダンスをやって居たらしい。

 兎に角、語彙力が下がるくらい凄かった。


 最後の決めポーズの瞬間に取った写真の相川は良い表情をしている。

 この相川の表情は取り損ねなくて本当によかった。


 綺麗な山や川、建物などの変わりずらい風景などを上手く写したモノも良いが、本当に一度しかない瞬間。

 とても変わりやすく、一瞬を逃すと巡り合えないであろう一瞬をカメラに収められてとても満足した。

 何か凄いホクホクした感じがする。


 良い写真を撮れた。

 何とも例えが浮かばないほど良い写真が撮れた。

 得も言われぬ写真。良い写真だ。


 しばらく相川と話を交わした後、近くのゴミ箱に飲み終わったコーヒーの缶を捨てに一旦その場を離席した。

 何時の間にか弥生も会話に入り込んでたな。

 相川、アイツは人と仲良くする事が好きって確かクラスの自己紹介の時に言ってたし、話上手みたいだ。


 何と無く最後の決めポーズの時の写真を見ると、しっかり四人写って――ん? 四人? あ。一人後ろの方に隠れちゃっているみたいだな。

 まぁ、どうでもいいか。写ってないの埋め合わせの奴だけみたいだし。


 校内に進もうとする人の流れに乗りながら放送テントの近くに設置されたゴミ箱に行くと、さっきダンスが明らかに低レベルだった猛者が何時も通り冷やかされて惨めに遊ばれていた。

 周りの奴らもくだらない、幼稚な事をまだしているんだな。

 そんな奴らの話し声が聞こえてくる。


「好きな人に見て貰えてよかったじゃん、島ぁー」

「いやっ、アレは絶対に脈があるよ暖人ー」

「そっ、そうかな。そっ、そうだよな!! き、きっとあの子もおっ俺の事が好きなんだよな!」


 …………。今の話を聞いている限りで予想すると、あの会場の観客にこの猛者の好きな女子が居たらしい。

 正直哀れに思う。

 あんだけ無様な姿を晒しただけで、それも偶々会場に居ただけで相手も自分の事が好きだなんて思っているって、最早もはや呆れ……の領域だ。


 小学生かよ。考えが浅ましすぎる。そして実に滑稽こっけいだ。


 呆れながらも関わると面倒臭そうなので缶を捨ててすぐぐにその場を離れた。

 良くいじめを見ている人もいじめている側だと言う声がある。

 ソレはいじめられている奴が助けを求めている時のみだろう。

 もし俺がアイツに何か言っても、前みたいに『これが人気者なんだからいいんだよ!』とか良く分からん返答をしてくるんだろう。

 それに、正直コイツがどうなろうが興味ない。


 少し不快な思いをした後、人の波をうまくかわしながら弥生達のもとに戻った。

 そうして彼是かれこれ何かしらしていると、再びもう一回、今日最後のシフトの時間が近づきいてくる。


「相川、神原さん、そろそろ仕事の時間が近づいてきたぞ。」

「おっもうそんな時間か。」

「弥生ちゃん、また今度話の続きしようね~」

「ゆい姉もヨウ兄もあと、まさ兄もがんばってね~」


 そうして弥生とは別れた。

 今思いだしたんだが、そう言えは相川の下の名前って将志まさしだったな。忘れてた。


 教室に戻り、一時間ほど仕事をすると、一日目の文化祭終了の放送が流れる。

 その放送の誘導によって学校の関係者以外の人は学校の敷地から段々とバスで駅まで送られていった。

 どの人も楽しんでくれていたらしい。


 生徒と教師しかいない学校で帰りのショートホームルームを終え、文化祭一日目はあっという間に終わって行った。



********************


 昨日と同じ午前十時開催の文化祭二日目。

 さっき、仕事をしているとついに景品のお菓子が無くなりそうになってきている。

 思ったよりも発想が面白いと言う事で天井の低い迷路は昨日よりも人が集まってきていた。

 何でよりによって俺のシフトで景品がこんなに少なくなってきてるんだよ。

 クリアしたのに景品が無いって何か申し訳ない気分になる。


「五十嵐、そろそろ景品ヤバくね?」

「そうなんだよな。」


 そう思っていると、丁度委員長の男子がそのことに気づいたらしく「やっばっもう景品ねぇじゃんどうすんだよ」と行って来た。


「どうするもこうするも買い足しに行くしかねぇじゃん。」

「五十嵐君、買いに行くの手伝ってくれる?」

「面倒だが、ついて行くよ。委員長一人じゃ買ったあと運ぶのが大変だろうから」

「おお~やさしい~」


 そうして相川一人に仕事を任せて仕方なく買い足しを手伝う事になった。

 一般人の行き交う学校の敷地を出て、この近くのスーパーまで歩いて行く。

 何時もバスでこの辺の景色は見慣れているが歩きはまた違った角度で見えて、いくつか良い感じの写真が取れそうなところを見つけた。


 そうして歩いてスーパーまで着くと真っ先にお菓子売り場へ行き、委員長は馬鹿みたいにお菓子を大人買いしていた。

 確かに十円のお菓子は結構買えるよ、だからと言って何でそんなに買う必要あったのか……?


「委員長、いくら学校の経費で落とせるかもしれないから、ってこれは流石に買いすぎじゃね?」

「ああ、最悪落とせなくてもいいんだよぉ、目的さえ果たせればなぁ」

「目的? ただでお菓子を配り歩いて居る人って事か?」

「そんなところだなぁ」


 少し不審に思いながらも、会計を済ませ、外に出た。

 外に出ると委員長が何処かに電話をする。


「五十嵐君、すまんが道が混んでいて来るまで時間が掛かるらしい」

「来るって何が?」

「タクシーこんな荷物を歩いて運ぶのは面倒だろぅ?」

「…………。委員長なら知っていると思うが、タクシーってめっちゃ高いからな。」


 少し待っていると本当にタクシーが店の前に来た。

 成り行きでしょうがなくそのタクシーに乗る。

 何故か分からんけどさっきから謎の胸騒ぎがして一刻も早く戻りたい。


 タクシーは学校近くのコンビニで止めて貰った。

 流石に学校の前まで入ったら見張りの教師に見つかって厄介な事になるだろうしな。

 やっぱタクシーって高ぇ。委員長、馬鹿なんじゃないの? それともただ金持ちなだけか?



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27中15話目





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