第14話

 弥生が出口から出てきてから少しした後、シフトチェンジの時間になり、俺と相川は次のペアに交代した。

 相川は何かこの後すぐ、中庭に設置されたステージでダンスをやるだとか何だとかでどっか行ったな。


 さて、そろそろお昼近いし、何か外の三年生のやっている屋台で何か食ってくるか。


 そうして、教室の迷路の裏方的な荷物置き場に置いてある自分のバックから財布を取りだそうとする。

 が、問題が一つ。暗すぎて自分のバックがどれか分らん。

 自分のシフトが終わっただけなので、迷路自体には客がまだ次々に入っていた。

 まぁ、バック探しは首に掛けていたカメラの補助光で適当に床に置かれたバックを照らしたら何とかなったな。

 自分のバックを見つけて手探りで漁って、財布を見つけてから外に出ようと廊下を歩いていると、後ろから声を掛けられる。

 勿論神原さんに。


「よーうすけ。また一人なの?」

「そうだな。俺は他人と必要最低限の関わりしか持たないから」

「まぁた〜そんな事言っちゃって。」


 「じゃ、折角だし一緒に回ろうよー、昔みたいに。」と神原さんが言ってきたので「別にいいけど?」と取り敢えず適当に返した。


「そう言えば相川君はダンスのやつだっけ?」

「そうだな。何か知らんけどが意外とアイツ人気あるから、こういうのも結構呼ばれるみたいだ。確か中庭であるんだっけ?」

「見に行こうよ、中庭まで。ところで中庭ってどこだっけ?」

「…………。一号棟と二号棟の間から外に出られるところあるから、そこから出ると中庭だ。」

「そっか、じゃ早速行こー」


 そう言うと神原さんは何時も通り、全く違う方向へ―――


「おーい、神原さんそっちは四号棟。一号棟はこっち。」


 何かデジャブを感じた。

 前にもこんな事があったような気が……何時だっけ? ま、どうでもいいか。


「あははは、やっぱ偶に一号棟と四号棟ごっちゃになっちゃう時があるね。」

「取り敢えず一号棟は昇降口から入って右、左は四号棟って覚えとけばいいよ。」

「あ〜なるほど〜」


 何時もよりも人通りの多い廊下を通り抜け、屋外ステージのある中庭に辿り着く。

 もう既に会場には結構人が集まっている、少し前から始まってたみたいだな。


 ざっと数えて六十人以上居そうだ。

 一列十五人程度のが四列ぐらいあるんだし。


 そんな会場を見渡していると腕に黄色の腕章を着け、何かの紙を配っているナツを見つけた。


「おーい夏。何配ってんの?」

「あっ陽、今さぁボランティア部で色んなところ手伝っててね、ダンスのチームの順番が書かれたプログラム配り歩いてるんだ。」


 ナツは右手に持っている束をパサパサと軽く降って見せてくる。


「そうかなのか、ボランティア部もこういう時に大変なんだね。」

「だよな〜あっ、陽はプログラムの紙いる?」

「ああ、一枚くれ」


 ナツが「はい。」と、手に持っていたプログラムの紙を一枚くれる。


「おい! 松下夏! くちゃべってねぇでさっさと配り歩け!」


 夏と同じ黄色の腕章を着けた上履きの色からして三年生と思わしき男子生徒が怒声を上げ、「スマン、じゃ俺はそろそろ仕事に戻るぜ。」と夏はプログラムの紙をまた配り周りに行った。


「陽介、私にもプログラムの紙を見せて。」

「ああ、にしても相川のチームどれだ?」

「一つずつ見ていけば分かるんじゃない?」

「そうだな。」


 一つ一つ虱潰しらみつぶしにチーム名を見ていく。


 チーム海パンヤロウ、チームラリアット、チーム筋肉バカ………どんなチーム名だ。

 ロクなやつねぇな。

 まぁ、文化祭なんてそんなもんか。

 つーか、こんなチーム名から相川のチーム見つけられるかよ。

 そう思いながらも、そんなはっちゃけたチーム名を神原さんと楽しみながら見ていると、一つだけ引っかかるチーム名を見つけた。


「チームHARUHITO? 何だコレ……」


 凄く、嫌な予感がする……と思っていると、後ろから誰かに肩を叩かれた。


「よう、五十嵐。もしかして見に来てくれたのか?」

「そうなんだが……相川、もしかしてお前のチームってこの五番目のやつか?」


 そう聞くと、相川は深いため息をついてから「そうなんだよ……」と答えた。


「このチーム名ってまさかだが――」

「なんか一枠人数が足りないってなって、埋め合わせで誰かが『お前ならできるんじゃね』とか煽ったみたいでよ……猛者が入って来やがった。」

「やっぱりかよ。」

「陽介、相川君、何の話をしてるの?」

「「いや。なんでもない」」


 綺麗に相川とハモった。

 俺と相川って結構似ている所があるみたい。


「そう言えば相川君、5番目ってもう直ぐ出番なんじゃない?」


 神原さんが相川に気になることを聞いた。

 言われてみれば確かにそろそろだよな?

 俺が来たときにはチーム脳筋バカが終わってたぐらいだったし。


「まぁ、神原さんの言う通り、その筈だったんだが……」


 相川は言葉を濁した。


「何かあったのか?」

「実はちょっとトラブルがな、CDを放送部の誰かが行方不明にしちまったり、猛者のやつがまだダンスを覚えていなかったりしてなぁ……」


 相川はさっきよりも深いため息をついた。


「それは不味いな」

「だから後半の部の一番最後にプログラムの順番を変更してもらった。」

「相川君、後半の部って凄い時間がひらかない? どうするの?」


 俺の隣に居た神原さんがそんな質問を相川に投げかける。


「実はなぁ、神原さん。厄介なことに俺はそこら辺をプラつけずにここに縛られそうでなぁ……ダンスの復習兼猛者に教えるのに時間を溶かしそうだ……」

「ドンマイ、相川。」


 そうして会話を終えると相川はチームの人の方へ戻っていく。

 相川のチームの出番まで、時間がかなり開きそうなので、取り敢えず神原さんと外の屋台を回ることにした。


 昇降口から外に向かって歩いていると、神原さんがある事を聞いてくる。


「そう言えば陽介、相川君の言ってたって誰なの?」

「あ〜、この前突然話に割り込んできた島ってやつのあだ名らしい。」

「へぇ〜由来がちょっと気になるなぁ」

「う〜ん……由来は俺も知らん。」


 大体の理由は多分あの床に落ちたモンを食ってた話からなんだろうな。

 ま、そんな話をすると神原さんに不快な思いをさせてしまいそうなのでやっぱやめた。

 今思い出しただけでも自分で気分が悪くなったからな。


 そんな事を考えているとそろそろ空腹感が強くなってきたので何か買食いをする事にした。


 たこ焼きにじゃがバター、お好み焼きに加え、甘味としてクレープなどがある。

 焼きそばはやっぱり定番だな。

 ただでさえ空腹なのに屋台の近くは食欲をそそるような香りが漂ってくる。


「陽介、焼きそばに並ばない?」

「いいね、早速並ぶか。」


 列に並んで数分後、ふと何となく後ろを振り返ってみると、偶々弥生が少し後ろにいて、俺が振り返った瞬間、こちらに気づいたらしい。


「ヨウ兄ー丁度良い所にいたー横入りさせて―――ってゆい姉! さっきぶりだね!」

「あ、弥生ちゃん。ふふっ、さっきぶりだねぇ」


 そうして焼きそばを買うまでこの二人の会話は、俺が入れないようなガールズトークに進出して行っていた。

 俺はいつも通り、ズボンの左ポケットから文庫本を取り出し、読む。

 片手で持って読むときは親指と人差し指で両方のページを挟むようにして持って、人差し指、中指、薬指の三本は本の背を支えるようにして持つ。こうすると結構読みやすい。


 焼きそばを買うと、飲食スペースとして設置されたを、テーブルとパイプ椅子がたくさん置いてあるところがあったので、そこで食べた。

 焼きそばとか、何かを食べていると、どうものどが渇いてくる。


「神原さん、弥生、飲み物を自販機で買ってくるけど何かいる?」

「ヨウ兄ー私はカフェラテね。」

「私は緑茶をお願いね、陽介。」

「りょうかい。」


 校内の購買部前の自販機に向かう。

 自販機を見て思わず、「すげぇ」と思ってしまった。


 流石、文化祭。四台ある自販機の殆どに売り切れの赤ランプが点灯している。

 こんな光景は、滅多に見られなくてレアだ。

 緑茶とカフェラテはまだ売っていたので買ったが、俺が買った瞬間に二つとも赤ランプがいたので正直、ビビった。

 結構運が良かったみたい。  俺は取り敢えず蓋が閉められる無糖コーヒーがあったのでそれを買った。

 普通にブラックコーヒ好きだし。

 三本の飲み物を持ってさっきの席に戻る。


「おーい、買ってきたぞー」 

「あっ、ヨウ兄ありがとー」

「陽介、いくらだった?」

「140円くらい。まぁ、別に払わなくてもいいよ。たかが100円、200円ぐらいおごってやる。」

「ありがとうー」


 この後、近くの屋台などもしっかりと入れた写真を数枚撮った。

 写真部の部長さんがじゃがバターの店の売り子をやっていたのには少し驚いたな。

 勿論一つ買っといた。


「ねぇ、ヨウ兄。いろんな部活が展示を出してるみたいだけど写真部って何か出してたりするの?」

「ん? 一応あるけど、一つの教室で写真部の撮った写真を飾るだけの写真展みたいなのをやってるぐらいだな。」


 この前、文化祭一週間前の部活動で、A4サイズの光沢紙に二枚写真をプリントしたものを持っていった。

 昨日は確か、その写真を展示するボードを教室まで運ぶ手伝いをしたな。


「弥生ちゃん、よかったら見に来る?」

「うん。ゆい姉の撮った写真が気になる。」

「じゃあ行こっか、弥生ちゃん、陽介。」


 校内に入り、神原さんが先頭に立って進み、三階の『写心館』と言う看板の出された写真部の教室に着いた。

 珍しく迷わずに行けてたな。神原さん。

 まぁ、校内に入ってすぐ隣の階段を登ればいいってだけだったし流石に見縊みくびり過ぎだったか。

 写真部のただ、写真を飾ってあるだけのこの教室にはあまり人が居ない。


 偶に如何いかにも写真の味が分かる――って感じのおじちゃんがじっくりと写真を眺めてくれているくらいだ。

 一応、飲食スペースとして開放しているらしいんだが、その用途で使われて無いように思える。

 確かに使いずらい感じは出ちゃってるな。

 まぁ、別にどうでもいいか。


「ヨウ兄の写真ってどれ?」

「さぁね、どれだと思う?」

「じゃ、ヨウ兄の写真は後で探すとして、ゆい姉のは?」

「えーっと、私のは――」


 飾るのは昨日先輩たちがやったらしく、何処にあるのか少し探すのに時間を食っていたが、やがて「あったあった。この写真。」と言って神原さんは自分の写真を指さす。


「うわ~かわいい~この犬ってチワワ?」

「そうだよ~因みにその隣の写真も私が撮ったんだ。」

「こっちはまた雰囲気が違う感じだね!」

「弥生ちゃんも中々見る目がありますな~」


 「そうかな? ゆい姉?」と照れ臭そうに弥生が言うと「いや~絶対に見る目あると思うよ!」と神原さんがうれしそうに返す。

 結構神原さんは自分の写真に自信があるみたい。

 確かに神原さんの写真には何処か引き寄せられる。

 何とも言葉で表しずらい感じがするんだよな。


「なんか眠くなりそうな午後っぽい感じだよね、コレってもしかして雷門?」

「そう、この前写真部の校外活動で行って来たの。」

「何時だかヨウ兄が人形焼をお土産として買ってきてた時があったっけ? あれ? この手前の本を読んでいるっぽい人はまさかヨウ兄?」

「流石弥生ちゃん、大正解!」

「ヨウ兄、カッコ良く撮って貰えて良かったじゃん。背中で語ってるね」

「そうだな。今自分でこの写真を見てもなんか背中で語ってるって感じがするよ。」


 確かこの写真って俺がうっかり神原さんを無断で撮っちゃった時のバツ的な感じで撮られた奴だよな。

 この大きさにプリントすると、カメラの画面の時よりも細かいところまで見やすいからあの時と変わった感じがした。

 そして数分後、弥生は飾ってある写真を眺めてようやく俺の撮った写真を見つけたようだ。


「ヨウ兄の写真ってコレ?」

「正解だ。」

「一枚目のこれって喜多方の祭りの風景で、二枚目は手持ち花火だね。」

「陽介も中々良い写真を撮りますなぁ~」

「神原さん、君は評論家か何かなのかな?」

「ふっふっふ、陽介の写真を辛口で批評してあげようじゃないか。」


 そう言うと俺の写真について評価っぽい事をしてくれた。

 全然辛口じゃなくて最早もはや甘口だったな。ただ褒められただけ。

 辛口を意識しているんだろうけどツンデレっぽくなっただけで少し吹いた。

 神原さんは辛口をツンデレとでも思っているのだろうか――って少し笑っちゃった。



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