第13話

 着々と準備が進められていき、文化祭の前日の今日は特に授業はなく、一日中作業に使える日となっていた。


 初日よりも飾り付けがかなり終わり、部屋全体を暗くする為に窓にダンボールを貼り付けたり色々とやっているな。

 迷路として置いた机の上に乗って天井を貼っているんだが、皆天井を貼るのにみんな苦労してる様だ。

 さっきからちょいちょい下の迷路空洞に落下して天井に穴が開いてる。


 そんな事を考えていると、「うわっ! 今度は安田が落ちたぞ!」と、誰かが言い、「これで二人目だ!」という声が聞こえてくる。

 どうやら天井を貼っていた男子生徒が落ちたみたい。


 そこらじゅう黒ペンキで塗装されたダンボールが一面に広がっているんだ、足場の机の位置が分からなくて当然だよな。

 俺も一回落ちかけた。何とか持ちこたえたけど。


「五十嵐、この迷路の通路の天井が机の高さぐらいってのは新感覚だが、どこに空洞があるのか分かんないって危ないよな。」

「ある意味落とし穴っぽいね。」

「確かに五十嵐の言う通りだ……って、おーい、内野! そこら辺誰かが一回落ちて―――って、あー……手遅れだ。」


 天井を貼っていた女子生徒が迷路に落ちていった。

 落ちた本人達から聞いた話によると、なんか落ちる瞬間周りからめっちゃスローに見えるらしい。

 今思えば、足場の机が無いところには白い紙とか白く塗装したダンボールをおいときゃ良かったな。


 苦戦しながらも何とか天井をすべて貼り終わり、飾り付けまで終わった。

 にしても凄い光景だな。教室一面が黒い段ボールで覆い尽くされてる絵面えずらって。


 そうして、準備に苦戦しながらも文化祭当日がやって来た。

 あのあと天井を貼るときの落下は合計五回あった。

 ほんっっと貼り直すのに苦労した。


「九組の皆、待ちに待った文化祭が来ましたね。取り敢えず今日は思いっきり楽しじゃって下さい。」


 文化祭で、この学校の生徒しかいない朝の時間、教室が使えなくて外で行ったショートホームルームで、岡村先生が激励げきれいし、クラスの全員で円陣を組んだ。


 円陣を組んだ数分後、いろんな方面の駅から文化祭の客として人々を乗せたバスがロータリーに到着した。

 俺は受付の係として相川と教室の迷路の出口前で、椅子に座って待っていると、段々と校内に人が入ってきて、いよいよ文化祭という感じが出てくる。

 小さい子供から大人、来年この高校に入ろうか迷って下見をしに来ているであろう中学生など、様々な年代だ。

 そういや去年、俺も文化祭で下見に来ていたな。

 化学部が出し物としてテルミット反応を使った実験をやっていて、天井から三十センチぐらいの高さまで火柱が上がる実験をやっていたのを今でも覚えている。

 多分今年もやるんだろうな、テルミット。


 そうしている内にたくさんの人がやって来て来た。


「おっ、五十嵐、うちの最初の客が来たぞ。」

「そうだな。でも俺らは出口で景品を渡す係だし当分時間があるだろ。」

「それもそうだな。」


 因みに景品は入り口で神原さんが客に渡している用紙にの押されている個数で決まる。

 スタンプ一つで学校の経費で落として買った十円から三十円程度のお菓子一つってところだ。

 つまり最大で三つ貰える。

 参加するのに金を取らないで、タダで景品のお菓子を配るって結構良心的だよな。

 他のクラスでは参加費として三十円から五十円ぐらい取っている所あるし。

 参加者が出て来るまで暇だったので、カメラのレンズを拭いたりして待っている。


「あれ? 五十嵐、今日部活ないのにカメラ持ってきてんのか?」

「ああ、文化祭はいつもと違った雰囲気の校内の写真が撮れそうだし持っといて損はないと思ってな。」


 まぁ、出してないだけで普段から毎日バックの中にカメラを入れて、学校に持ってきているんだけどな。

 何時でも自分が綺麗だと思った風景を自分の好きなときに取れるように。


 拭き終えると、レンズキャップを着ける。


「にしても、結構長いな五十嵐。」

「しょうがない。謎解きと言うよりかはただのナゾナゾだからな。」

「そーいや俺、どんなナゾナゾがあるのか知らんわ、五十嵐はどんなのがあるのか知ってるのか?」

「まぁ、何問か俺がネットから拾ってきたヤツがあるからそれだけ覚えてるよ。」

「おっ、じゃあ暇潰しに俺にいくつか出してくれよ。」

「そうだなぁ、幼稚園児、保育園児レベルのやつから出してやるか。」

「そんなレベル一瞬で解いてやらぁ。」


 相川は意気揚々と、そう言っていたが、俺の出した一問目からかなり悩んでいた。


「う〜む……何だよ! 世界の真ん中にいる虫って!」

「頑張れ、相川。」


 丁度その時、一人目の子が出口から外に出てきた。

 スタンプの押された用紙を受け取り、スタンプの個数を確認すると、初っ端からも・や・しの三つ全てそろって押されていた。

 段ボールに入っていたお菓子から、好きなものを選ばせてあげると、その子は外で待っていた親に連れられて他のクラスの展示を見に去って行った。

 今の子は大体小学二年生ぐらいかな?

 多分この高校の生徒の誰かの弟かなんかなんだろう。


「やっぱり分からん。五十嵐。ヒントくれ。」

「まだ悩んでたのか。今の子、スタンプ全て揃ってたから多分その問題も自力でクリアしてたぞ。」

「え? マジで? でもやっぱ分からんからヒント。」

「もろ問題の中に答えが出てるのにな……いいか? せいの真ん中にいる虫だぞ。」


 を強めに言う。まぁ、コレで分かるだろうな。


「せかい、せかい……あっ! 蚊か!?」

「正解。蚊だ。」

「うわぁ、マジかよ……英語にしたり画数数えたり深く考えすぎた。」

「まぁ、こういうナゾナゾの答えって意外と単純だからな。」


 そうして一人、また一人と参加者がクリアしていった。

 どの人も楽しんでくれた様な表情で、なんか嬉しい気持ちになる。

 小学生とかが多いかと思ったんだが、中学生が多いのは意外だったな。

 まぁ、文化祭に来るのなんか殆ど中学生か。

 そうして俺と相川のペアのシフトが別のペアに替わる少し前、相川がトイレに行って俺が一人で担当していた時、九組のクラス展示に弥生がやって来た。


「ヨウ兄ー遊びにやって来てやったぞー」

「何かありがとな、因みにこっちは出口。入り口は神原さんの担当している方な」

「そうなんだ。ヨウ兄のクラス、列が出来てて結構人気じゃん。」

「そうなんだよな、思ってたよりも中学生の参加者が多くてさー」


 そんな話を弥生としていると、相川がトイレから戻って来た。


「五十嵐ぃー、帰ってきたぞ―――って、な゛っ! なん……だと!?」

「ん? 相川、どうかしたのか?」

「五十嵐、まさか二股っ!?」

「おい。何となくだが相川、お前の思考が読めて来た気がするぞ。」


 相川が席に座ると弥生は「私はそろそろ列に並んでようかな〜」と列に並んでいった。


「五十嵐、今の可愛い子とはどんな関係なんだ? 神原さんより親しい感じに見えたぞ。」

「…………。相川、お前……。まぁ、確かに親しそうに見えるかもな。同居しているんだし。」


 こうとでも言えば流石に家族だって思うだろう。

 そう思っている俺とは裏腹に、相川は変な方向に話を捻じ曲げ始めた。


「え゛っ!? 何だとっ! 恋愛のABCのうちのABCのどこまで行ったんだ!!」

「…………。君さ、絶対変な誤解してるよね? 今の俺の妹だから。」

「「………………」」


 二人の間に謎の沈黙があった。

 相川よ、何故黙る。

 つーか、恋愛ABCってなんだよ。

 少しして思考回路が整頓できたのか相川が話し始める。


「なっ、なぁ〜んだ、今の妹だったの―――って!? 五十嵐の妹めっちゃ可愛いじゃねぇか!」

「そうなのか? 幼い頃から見てるから何とも思わんな。つーか、絶対変な誤解してたよね? 相川君。」

「スマン、俺の心汚れきっているみたいだ。」

「まぁ、知ってたけどな。」


 主に確実に変な方向に思考を捻じ曲げることから。


「相川、取り敢えずみそぎとして滝行たきぎょうしてこいよ。」

「何処でしてくりゃいいんだ?」

「なら手頃に熱湯に手を突っ込んで来いよ。」

「いや、おい! それは盟神探湯くかたちだろ! いつの時代の人だよお前は!」


 盟神探湯って、嘘か本当か調べるのに使われたやつだったっけ?

 主にかなり昔、古代日本時代頃のやつだったか。


「そういや、妹ちゃんって何って名前なの?」

「弥生だけど? あと、もう一人、一番下に桃花ってのがいる。」

「弥生に桃に陽ねぇ……共通点って全て三月なんだな。」

「そうなのか? 相川。」

 

 そう聞くと相川は今度こそ意気揚々と語りだす。

 さっきは意気揚々としていた割にはアレだったからな。


「三月と言えば日の光、つまり陽。そして、弥生は旧暦の三月を表すって知ってるよな?」

「弥生は俺も知ってたけど?」

「桃の花の開花は三月らしいぞ。」

「そうなんだ、それは初めて知ったな。つーか相川ってそう言うの詳しいの?」

「いや、うちのクラスに草木に詳しくて、植物と話せる――って感じの女子が居るんよ。」

「へぇーそんな人いたんだ」




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27中13話目


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