第12話
「ね、陽介、昨日百円ショップに居た?」
昨日と同じように作業の準備をしていると、手伝ってくれていた神原さんが唐突がそんな事を聞いてきた。
「行ってたけど? もしかして昨日神原さんも百均に居た?」
「ま~ボールペン買いに行ってたりしてたね。」
そう言えば店の中で神原さんっぽい人を見かけた気がしてた事を思い出す。
やっぱり神原さんあの時、店内に居たのか。
そんな事を思い浮かべていると神原さんが「き、昨日さ……」と、言いずらそうに何かを言おうとしていた。
「ん? 昨日?」
「………やっぱ何でもない~」
「何か余計何を言おうとしてたのか気になるな。」
「そ、そんな事より、陽介って何か得意なスポーツってある?」
「話しの方向性が変わるのが急だな。俺の得意なスポーツか……
幼稚園で年少の頃だったか年中ぐらいからだったか忘れたが、大体その位の頃から始めているってスポーツはスキーぐらいだ。
今でも毎年冬休みにスキーをしたり温泉に入りに行ったりするために草津に行ってるし。
「スキーかぁ、昔何度か陽介と一緒に行ったねぇ。」
「そういやそうだったな。母親同士が幼馴染って言う良く分からんご
「何年前に初めて引っ越してきて引っ越しの挨拶に行って、陽介のお母さんが出て来た時はかなり驚いてたって私のお母さんも言ってたね。」
「その話を始めて来たときは俺もこんな偶然もあるんだと驚いたな。」
「スキーかぁ~……なんかスキーがしたくなってきたー」
「おいおいまだ真夏だぞ。少なくともあと三カ月は先だ――――」
そんな話をしていると、いきなり何処から話を聞いていたのやら良く分からん奴が会話に割り込んで来る。
「かっ、神原さんは、すっ、スキーとか得意なんだ。」
いきなり話に割り込んで来たヤツ、それは床に落ちた物を食べる猛者、島暖人。
何なんだ? こいつ………と思っていると後ろのロッカーの方のいつもコイツを冷やかして遊んでいる集団から笑い声が聞こえる。
「ブッ! マジで暖人のやつ会話に凸りに行ったぞ! アッハッハッハッ!」
その瞬間、なんとなく状況を察した。
えーっと島って名前だったか? こいつ
心の底から哀れだと思い、同情した。
ふと思ってんだが、周りの雰囲気に流されて、誰かが言った行動の指示に従う奴ってある意味受けている本人が気付けないイジメだよな。
一つの集団のある人が誰かをターゲットに決める。
そのある人が自分じゃ絶対にやりたくないような事などをターゲットに指示して、ターゲットが指示に従ってしまい、
集団視点からするとそのターゲットの惨めな姿は実に滑稽だろう。そう思う奴らがターゲットを笑う。
そしてターゲットは自分のした行為によって笑いが起き、楽しい雰囲気になったと勘違いをし、その結果自分が人気者となったと錯覚してしまう。
段々と指示がエスカレートしていっても周りの雰囲気によって気付くことも出来ず、どんどん哀れで惨めな黒歴史を残していく。
正直、反吐が出る。
大体初めは自分だってやりたくてやる訳ではないだろうに。
いきなり仲良くも無いクラスメイトの尻を叩いて来い、なんて指示をされたら「それは流石に~」とか笑って誤魔化すのが正しい対応だろう。
そんな事を拒否した位で嫌われると思うなんて愚の骨頂。
たったそれだけで嫌われるならそんな奴とは関わるなよ……
大体、そう言う集団の奴ははなっからターゲットの事なんか友達とすら思ってないんだから。
実にこのオドオド君は哀れだ。
「じっ、実は、おっ、おれ、スキー検定一級持ってんだ。」
「だからどうした」と心の中で毒を吐く。
このオドオド君は話し方からして人と話すのは慣れていないと見た。
あの集団の人とはあまり話してないのだろうか。
そしてやっぱり話時もオドオドしている。
「へ、へぇ~島君スキー検定一級持ってんだ、凄いね!」
神原さんも若干引き気味だぞ。
しかも神原さん、こういうタイプの人間に一番やっちゃダメな行為、褒めることをしちゃったな。
ただでさえ話に割り込まれてイラァっとしてるのにスキー検定の話かよ……
「おっ、おれは小四から、すっ、スキーを毎年してるからね。」
「ふぅ……小四からスキーをしている? だからどうした? スキー検定一級なんか自慢することか?」
「なっ、お、お前には関係ないだろ!」
コイツの
「知るか。話に割り込まれて単にイラっとしているだけだ。」
「お、お前はスキー検定の級を持っているのか!?」
「突然怒鳴るなよ。俺も一級のバッジを持っているが? それがどうしたんだ? ついでに言うと神原さんも持ってるぞ。」
「お、お前はいつからスキーをやってるんだ! お、おれの方が絶対先だろ?」
「あ゛? 自惚れもいい加減にしろ。こちとら二人とも四、五歳の頃からスキーやってるんだが?」
オドオド君は「なっ……!」と、そう一言言うと、逃げるように何処かに行った。
何だったんだ? アイツ。
「島君って何か、すごーく不思議な人なんだね………」
「そうだな神原さん。つーか昨日あの人たち居なかったよな。」
「あっ確かに。」
「まぁ、どうせサボ――……色々事情があったと言う事だとしておこう。それはさておき、さっさと昨日の作業の続き終わらせちゃうか。」
「そうだね!」
昨日と同じように段ボールを線の通りに切って、同じ物を何枚か作ると言う工程をしている。
どうやら何枚か重ねてオブジェクトのように使うらしい。
この絵は虫眼鏡を持っている探偵か?
謎解きなんだし、そりゃそうか。
「あ、そうだ、昨日百均で滑り止め付の軍手買っといたから念の為使う?」
「う~んどうしよっかな?」
「怪我を少しは減らせると思うよ。」
「じゃ、借りるね、怪我したくないし。」
「はいよ。」
昨日の百均の袋から軍手を出して神原さんに渡す。
袋の中に、なんとなく衝動買いしちゃった手品用のカッターも入ってたな。
神原さんは軍手を付けて、昨日と同じように段ボールに刃を入れて―――
「神原さん、ストップ。カッターを使うときは、は刃の進む方向に手を置いちゃダメって昨日言ったよね?」
「あっ、ごめん。ちょっとぼーっとしてた。」
「刃物を使うときは気を付けないとこうなるよ。」
何と無く手品用のカッターを段ボールに入れて切るふりをして、ワザと進行方向に置いた指に刃の窪みを自然に食い込ませる。
「――っ!? よっ、陽介っ!? 指に刺さっ! 保健室っ!?」
「ぷっ、安心しろ。コレ手品用のカッター。実際に切れてる訳じゃないからっ」
「えっ? えっ?」
どうやら神原さんはホントに引っかかったみたい。
「気を抜くとホントにこうなるかも知れないから気を付けてね。」
「もうっ! ……でもほんとにこうなら無いように気を付けるね。」
作業をコツコツと進め、オブジェクトとして使えるくらいの重ねて強度が増すように強化が終わった後、不意に神原さんが話しかけて来た。
「そう言えばなんだけど、さっき聞きかけた奴でどうしても気になる事があって。」
「ん? ナニナニ? どんな事を俺に聞きたいんだ?」
「昨日陽介と一緒に居た女の子って誰かな~って気になってて……」
何故か聞きずらそうに神原さんはそう聞いてきた。
昨日俺と一緒に百均に居た女?
う~ん………心当たりが―――あっ、多分弥生の事だな。
「あー、中学生の頃から付き合ってる俺の彼女。」
「えっ…………?」
「安心しろ、冗談だ。冗談だからね? 俺の事を好きになる女なんかいるかよ、あれは妹の弥生だ。」
「そ、そうだよね! 陽介に彼女がいるわけないよねっ! ――――って昨日一緒に居た子、弥生ちゃんだったの!?」
「始めの方は俺に対して物凄く失礼な物言いだった気がするが……まぁいいか。」
「うっそぉ!? あの子がほんとに弥生ちゃんだったの!?」
何か神原さんはかなり衝撃を受けているらしい。
「最後に神原さんが弥生の事を見たのって多分小三の時以来でしょ?」
「そ、そう言えば……六年もあればその分大きくなるよね、うんうん。そう言えばあの時弥生ちゃんは小学一年だったっけ?」
「そうだな、今アイツ中一だから。」
「あんなに大きくなって…………」
「大きくなって――って神原さん、君は親戚のおばちゃんかい?」
「ハハハっそう来たか~、確かに今のは親戚のおばちゃんっぽい台詞だったね~所でこの看板……ってこれで完成かな?」
「多分そうじゃない? 次は別の手伝いが無いか探すか。」
完成したオブジェクトを取り敢えずロッカーの上に置いて保管し、迷路の作成方法などの案を出したり、色々とやって居るとまたもや校内放送で下校の指示が流れる。
別に人は足りていたからどうでもよかったんだが、何時の間にかあの集団は居なくなってたな。
あの自惚れた奴もアイツらと一緒に帰ったんだろう。
何の為にさっきまで居たんだよ……アイツら。
後で相川から聞いた話なんだが、アイツらが帰ったのはどうやら会話に割り込んできて、それから逃げたって
マジでなんだったんだよ。手伝いすらしないならマジで何の為にさっき居たんだよ。
「ふぅ……そろそろ帰るか? 神原さん。」
「そうだね、にしても今日も頑張ったぁー! いい仕事をした気がするよ。」
「まだ文化祭準備の前準備って所で来週からある大がかりな作業もあるけど、結構カッターの使い方もうまくなってたし役に立てると思うよ。」
「やっぱ私って器用?」
「知らんな。」
この日の帰りに珍しく部活帰りの弥生に偶々会った。
どうやら弥生は神原さんに初めてあったような感じらしい。
お互い隣に住んでいるのに今日まで遭遇してなかったっておいおい。
引っ越してきてから何ヶ月経ったんだよ。
弥生のやつ、神原さんと俺の事を交互に見てから、何か知らんけどニヤニヤしてたって言うのはまぁ、どうでもいいか。
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