第9話

 あの後、少しスカイツリーの売店に寄って、趣味で集めている記念メダルを購入し、設置されている機械で裏面に訪れた日付を裏に刻印する。

 結構前は刻印するときの音が大きく重い感じだったのに、最近の刻印機は結構音が小さくて驚いた。

 個人的には音が重いくて大きい旧式の方が好だ。何か刻印してる感じがしないし。


 刻印している時にふと、スマホをいじり、ついでに時計を確認すると、時間はニ時を過ぎていた。

 

 刻印が終わった後、神原さんと少し売店の中をプラプラと見て、お互い好きな品を買い、とうきょうスカイツリー駅に向かい、写真部の皆はその場で解散してそれぞれの帰路について行った。


 何度も言うが、やっぱりあの辺の駅はダンジョンだ。


 勿論迷った。神原さんが。

 今回は一度完全に見失って、その後すぐに近くの駅員さんと居るところを俺が運良く見つけてなんとか事なきを得たが……やっぱり神原さんからは目を離しちゃ駄目そうだ。

 何とか無事、最寄り駅まで戻って来て、家に神原さんを送り届ける。

 送り届けると言っても家が隣なだけだから、この表現であっているのか分からんのだが、まぁいいか。


 私服から家着にしている青ジャージに着替え、何やかんやしてると、気づけば俺は二階の自室のベットの上でダウンしていた。


 何だ? このデジャヴ。前にもあったような気が……まぁいいか、本の続きでも読もう。


 力なくベットの上でうつ伏せにに寝そべりながら本を読んでいると、ジャージのポケットに入っているスマホがメッセージの着信を「ポキポキッ」っという音で知らせる。

 

 ポッケからスマホを取り出し、アプリを開く。


「あ、神原さんからだ。」


 犬のアイコンの隣の【優生花】と書かれたあたりをタップし、トーク画面に進む。



『よーうすけっ! 今日はアリガト!』『あと、お疲れ様っ!』


『お疲れ様。(今、疲れすぎてベッドの上でバタンキューしてる)』


 既読をつけて、返信を送る。

 数秒後、すぐに返信が返ってきた。


『バタンキューって、なんかぷよぷよを思い出すなぁ〜』『あれ? バタンキューってぷよぷよだったよね?』


『多分あってるよ。』『そう言えば、昔よく一緒にぷよぷよやってたな。』


『懐かしいねぇ〜』


『そうそう、神原さん。初の東京の感想はどうだった?』


『すっっっっごかった! ホント、結構行ってみたいと思ってた場所だったからワクワクが止まらなかった!!』


『確かに、行きたかった場所に行くことができると、なんとも言えない感覚があるよなぁ』


『あるある。またどっか近場でもいいから行きたいよね〜』『今度どっか一緒に行く?(笑)』


 もし神原さんを一人で何処かに行かせると何処まで迷っていっちゃうことやら…… 

 一瞬そんな考えがぎり不安になった。


『時間があれば、ね。』


『分かったー!』


 『じゃ、また明日』と返信を送り、その後本を読もうとしてたら、気付けば寝落ちしてた。


 起きて時間を確認したら二十二時だったからほんと冷や汗が出た。

 すぐに風呂に入って適当に冷蔵庫に入ってたものを食べてその日は眠りについた。


……………………………………………………



 そして、その写真部の郊外活動から流れるように一日、一週間、一ヶ月と学校生活が進んでいき、今日も何時も通りの朝が訪れる。

 ここ最近少しクラスの雰囲気がウキウキしているような感じがする。

 まぁ、文化祭のシーズンになり、色々と案を出すLHRが今日あるのだから当たり前か。


 そのLHRのお陰か、高校生活に慣れてきたお陰か分からんが教室内にはもう殆どの人が集まってきている。


 この頃になると、クラスメイトのポジションも大体固定されてきた。

 今回のクラスには、一人孤独な人はどうやらいないようだ。

 殆ど特定の達と特定の人達がいつも絡んでいる。

 大きく分けて三つの集団が出来ているな。

 ただこのクラス……何だろう。一部いや、結構独特な人がいる。


「五十嵐。やっぱこのクラス個性豊かだよなぁ。」

「確かに。相川もそう思うか。」

「この前なんかバルバロイが湧いてたし。」

「あー、あったあった。」


 因みにバルバロイとは岡村先生の世界史の授業で出て来た単語だ。

 確か岡村先生の説明は、「聞きづらい言葉を話す人……つまり"訳わっかんねぇやつ"という感じの意味合いっすよ」って軽い感じだったな。

 以来何故かこのクラスではバルバロイは単によく分かんないやつ又は面白い人という意味で使われ、他にはファランクスっていう単語が飛び交っている。


 …………。どんなクラスだよ。


「そうそう五十嵐。個性的といえば島暖人しまはるひとも結構な猛者だよな。」

「シマハルヒト? 誰だそれ。」

「え? あの猛者を知らないのか? ほら、結構前に、五十嵐と図書委員の座を巡って争った。」


 図書委員の話で一人の人物を思いだす。


「あー……オドオド君か、アイツそういう名前だったんだ。」

「あの猛者を知らなかったのか?」

「別にあいつに興味ねぇし。正直アイツの行動を見てると反吐が出る。」


 オドオド君のことは、冷やかしを冷やかしとして捉えられず、自分がクラスで自分が一番人気者だと錯覚してしまっている哀れな奴と認識している程度。

 

 この前なんか、冷やかされて教室の床に落ちたフライドポテトを食べろと言われてたし。

 流石に食わないだろうと思ってたら、そいつは俺の考えとは反対にしゃがんで床に落ちた汚ったねぇポテトを拾って食ってたし。


 ソイツが、冷やかしの通りの行動をするとすると周りから笑いが巻き起こって虫唾が走ったな。

 思わず俺が「おい、馬鹿! お前、今マジで床に落ちたポテト食わなかったか?」と言ったら「これが人気者なんだからいいんだよ!」と、鋭い眼光を俺に向けてきたな。


 本当に意味の分かんないやつだった。

 他にもソイツのした奇怪な行動と言ったらアレだ。

 クラスメイト全員が使っている無料チャットアプリのアイコンを自身の素顔にして自分で晒していたな。

 正直、かなりのナルシストだと思ったし、そのアイコンを見た瞬間、吐き気をもよおした。

 多分コレの冷やかされて自分で正常な判断が出来なくてやった哀れな行動の一つだ。

 周りに冷やかしでイケメンと言われて本当に自分の事をイケメンと思ってしまったんだろうな。

 うん。実に無様。


「つーか相川、なんでアイツが猛者なんだ?」

「床に落ちてたポテトフライ食ってた時点でもはや猛者だろ。」

「確かに……」

「あぁ、そう言えば五十嵐はこういう情報にうといんだっけか。」

「必要最低限の関わりの方が面倒事に巻き込まれづらいからな。」

「ま、そんな五十嵐に一つ教えておこう。島には気を付けたほうがいいぞ。お前はあいつに恨まれてるらしいからな。」


 そんな相川の話を聞いて「何故なぜ?」と思った。

 アイツとはまともに話した事なんかねぇし。

 そういや、この前注意したときが唯一のまともな会話だったんじゃないか?

 恨まれる理由なんて思い浮かばん。

 浮かんだとしてもかなり器がちっせぇと思う程度しかないな。


「五十嵐、神原さんをしっかり守ってやれよ。」


 サラッと相川はよく分からんことを云い、一瞬思考が停止した。


「ん?」

「ん? ってなんだよ。付き合ってんだろ? お前ら」


 更に相川はサラッと自然な表情で、とんでもない爆弾発言を投下した。


「ちょっ、ちょっと待とうか、相川君。変な誤解をしている気がするんだが。」

「まさか付き合ってねぇの? いつも一緒に帰ってんじゃねぇか」


 そう言われ、今までの自分の行動を振り返る。

 うん。確かに誤解されるかも……少なくとも相川にだけは言っておいたほうが良さそうだ。


「いつも一緒に帰っている訳では無いし、家が隣なんだからしょうが無いだろ。」

「へー、それは意外。結構仲いいのはどう説明するんだ?」

「仲いい……のは――幼馴染だからじゃね?」

「ん? 五十嵐お前、神原さんと幼馴染だったのか!? あまりの仲の良さに付き合っているって噂まで流れてるぞ。」

「…………それ、マジで流れてるのか?」

「ああ、このクラスの男子、と言っても島以外の認識はそんな感じなんじゃね?」


 相川のその言葉に何故か頭が痛くなってきた。

 ただ家が隣なだけでこんな誤解受けるのか?


「ふぅ……まぁいいか。別に何の被害もねぇし。で、守ってやれって言うのはどういう意味なんだ?」

「島暖人の好きな人が神原さんだからだよ。アイツ見るからにして危険だろ? 周りの奴らが万引して来いとか言ったら、マジで万引してきそうだったらしいしな。アイツ」


 相川からその話を聞いた瞬間、何とも言えない気持ち悪い感覚が胸を過ぎった。

 何だろう、この気持ちわっるい感覚は?


「…………。」

「つーか、五十嵐って好きな人このクラスに居るの?」

「知らんな。俺は、そもそもクラスの女子の名前どころか顔すら覚えてねぇけど。」

「そうなのか。ぶっちゃけ、神原さんとの関係は幼馴染ってだけなのか?」


 幼馴染。親友。妹的な存在……? 隣人?

 どれも何かちょっと違う気がした。

 ただこれだけは言える。何故か放っておけない。何だろう……この感じは。


 そんな時に丁度良く1時限目のLHRの始まりのチャイムが鳴り、岡村先生が号令をかける指示を日直に出す。



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27中9話目



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