第8話


 写真部の全員が揃い、次の目的地、東京スカイツリーに向かう為向かうために浅草駅へ向かう。

 やっぱりここ辺は何かと初めて来たところなので新鮮味がある。俺は結構旅が好きみたいだ。


「うわぁ! 陽介見てっ! 東京スカイツリー!! さっきは後ろの方まで見てなかったけどこんなに近くにあったんだね! とゆうかあの金色のやつ何!?」


 さっきから神原さんは、かなりハイテンションだ。

 まだ、とうきょうスカイツリー駅どころか、浅草駅まで着いてないのにな。

 それだけ憧れがあったってことなのか?


「そんなに興奮するなよ。これからアレの中に入るんだから。」

「いや、でもっ! やっぱり凄いね!」

「あ、そう言えば。あの金色のやつはアサヒのビール会社らしいよ。」

「えっ! あれビール作ってる会社の建物だったの?」


 どうやら神原さんは驚きの連続だったらしい。

 多分調べてたのは雷門とかスカイツリーの内部ぐらいだったんだろうな。それ以外は流石に知らないか。

 

 浅草駅、一番線ホームに来る東武スカイツリーラインに乗り、一駅乗車。

 駅から徒歩で数分。


「うわっ! でっか!」


 神原さんと、顔も名前も俺はまだ覚えてすらいない写真部の女子達の楽しげな声が聞こえる。


「五十嵐、もはや近すぎてよく分かんない、って領域まで来てるよな。」

「確かにな、丁度俺もそう思ってたところだ。」


 今、俺はこの辺り一体が一望できるスカイツリーの真下にある広場からスカイツリーを見上げている。


 ほんとにデカイ。

 よくこんな物を人が建てられたな。と思う。

 そんな事を思いながらも、取り敢えず建物の中に入り、事前に調べておいたフードコートの店で昼食を終える。

 そばが美味かった。相川は―――たこ焼きを二皿買って食ってたな。

 他の人が何を食ってたのかは知らん。

 多分ラーメンとか、うどんでも食ってたんだろうな。


 ふと、そんな事を思い浮かべながらチケットカウンターで事前にコンビニで買っておいた前売り券を入場券に交換し、列に並ぶ。

 

 まず、エレベーターに乗って驚いたことは内装がきれい。

 黒光りした壁、上の方に視線を向けると、春をモチーフに江戸切子があしらわれている。

 そう言えば、四基あるエレベーターの壁の上部にある、江戸切子のデザインは一基ずつ春夏秋冬をモチーフにしているんだっけな。

 浅草駅に着くまで神原さんがその話をしてたっけ。

 他にも良く調べてたらしいな。


 そしてもう一つ驚いたことは、かなり早い。

 約五十秒で350メートルの高さまで行く―――って想像しづらいいけど、聞いた話によると普通のエレベーターの五倍から十三倍速いそうだ。

 あっという間に展望デッキの階に着き、扉が開かれる。


 ここ高さ350メートルの、多くの人が展望デッキの窓の外を眺めていた。

 窓の外の、ここ墨田区の景色が一望できるパノラマに思わず息を呑む。


 普段、見ている景色よりも遥かに高い場所にいるのだから当たり前なのかも知れない。

 今いる場所が高すぎて、今まで大きいと思っていたものが小さくみえる。

 ここから見える景色は、まるで、今までいた世界がミニチュアの中の世界だったかのように思わせられた。


 多くの観光客がこの展望階からの眺めをスマホのカメラで写真に収めている。


 窓の近くの手すりに両手をかけて、普段見られない景色を眺めていると、後から肩を「トントン」と軽く叩かれた。

 誰だろう? と思いながら後ろを見ようとすると、細い綺麗な指が俺の頬に当たり、後ろを見る前に動きが止まる。


「ぷっふふっ、陽介って意外とほっぺた柔らかいんだね〜」


 俺の事を『陽介』と読んで来て、こんな事をする人は、少なくとも今ここには一人しかいない。

 顔が見えなくともなんとなく分かる。


「神原さん、早く指どけてくれないかな? 折るよ。」

「怖っ!」


 俺の頬に触れていた指が素早く引っ込められる。

 そしてようやく俺の視界に神原さんの姿が入って来た。

 視界に入っている神原さんは何故か右手の人差し指を左手で大事そうに握り、わざとらしく俺から遠ざけている。


「一応言っておくけど、勿論冗談だったからね。」

「…………。まぁ、分かってたけどね。」

「おいおい。何だよ、今の謎の間は。」

「あははは、少し不安になった?」


 神原さんは大げさに笑ったあと、そう言って来た。

 何故かまだわざとらしく指を抱えている。


「イラッと来た。」

「まぁまぁ、陽介が一人ぼっちで居たからとつりに来てやったぞー」 

「俺は敢えてそうしているんだが………必要最低限人と関われればいいと思ってるし。」

「寂しいなぁ〜」

「安心しろ。元々だ。」

「あっ陽介! あっち見て! 富士山っ!」 


 さっきまで大事そうに抱えていた右の人差し指で窓の外を指差す。

 その指さされた方向になんとなく目を向ける。


「あ、ホントだ。気づかなかった。」

「あれ? あの金のヤツってさっきのじゃない?」


 神原さんはまた、別の方向を指さす。

 その指差す方向をよく見ると、小さく金色のアレが見える。

 確か、あの金色のアレは聖火台の炎をイメージしてアサヒの100周年記念に建てられたものだとかネットで見たな。


「おぉっ、よく見つけたな。」

「私、昔っからウォーリーを探せとか得意だったからねー」

「これは――確かにそういう感覚なのか………?」


 それから少しして、展望デッキから隅田川や東京タワー、東京ドームなどのランドマークをどちらが多く見つけられるか、勝負を神原さんに挑まれたのでその勝負を受けて立ち、しばらく探し合っていた。


 まぁ、結果的には負けたけど。


 俺は、あの建物は大体この辺りか? という大雑把な情報を持っていたものの、昔っからもの探しが苦手で、俺は次々に探していたランドマークを先を越された。

 勝負自体のルールは、「カメラで先に収める」と言うものだったので、俺は望遠レンズを持ってなかったから負けた――……という言い訳をしておこう。 


 気づけば、この上の階の展望回廊へのエレベーターの前に着いていた。

 そう言えば買ったチケットはこの上の展望回廊付きだったっけ?

 つーか、他の写真部の人見つかんねぇ。

 いや、もしかしたらすれ違っていて、俺が気づいていないだけか?

 一部の人しか顔自体覚えてねぇし、と言うか相川と神原さんと一部の男子しか分からん。

 全員私服だから一般の観光客との区別がつかん…………


 適当にエレベーターの周辺を歩いていると、俺は相川を見つけ、神原さんは部の女子達を見つけた。


「おっ! 五十嵐! やっと見つけた。」

「俺もやっと写真部の人を見つけられたよ。」

「私服ってだけで何でこんなに探すのが難しくなるのかねぇ……」


 相川の思考回路は結構俺と似ているらしい。同じことを考えていた。


「相川、学校の先生なんて私服着てれば何処にでも居そうな人だよな。」

「おっ! 確かにそうだ! そこらにいるおっさんだな。」

「そこら辺に居る人にも、もしかしたら職業が教師って人が居るかもな。」


 そんな話をしているとこの上の展望回廊に行くエレベーターがこの階につき、上に向かうために乗り込む。

 中に入って気づいたんだが、上がガラスになっていて内部が少し見える。

 そしてやっぱり早い。すぐに着いた450メートルの高さにある展望回廊。

 さっきよりも100メートル高いみたいだ。

 この階は螺旋状になっている構造らしく少し坂道になっている。

 スカイツリーで人が立ち入れる展望回廊の中で一番高いらしい、ソラカラポイントから外を眺めた。


 やっぱり景色は最高だが、きっと夜になるとまた違った雰囲気があるんだろうな。


「陽介、なーに黄昏たそがれてんのっ?」

「夜は夜で景色がまた違って綺麗だろーなーって思って。」

「なるほどぉ〜確かに綺麗かもねぇ。」


 景色を眺めたり、写真に収めたりしていると、あっという間にそろそろ降りないといけない時間が近づいてきた。

 下に降り、フロア340には下が見えるガラスの床のやつがあった。


 まぁ、俺は普通にその床の真上から下を覗いてスゲェって感想を漏らしたぐらいなんだが、問題は神原さんだ。

 神原さんは今、下を覗いたまま真っ青な表情で硬直している。


「よ……陽介。私、高所恐怖症かも……」

「……………。は? さっきまで遠くの景色を見てても大丈夫だったじゃねぇか。」

「あ、アレはミニチュアを見ている感覚だったの!」


 ガラス床の上で硬直状態の神原さんは少し焦った様子でそう言う。

 なんか、周りから視線を感じるんだが……

 つーか、他の写真部の人達、気づかずに先に降りちゃってるし。


「よし。取り敢えず知らない人のフリしてこの場を離れ―――」

「ちょっ! ようすけぇぇーー」

「安心しろ、冗談だ。」


 ガラスの上で固まっている神原さんを救出する。

 救出って言っても、怖い景色が見えなければなんとかなるだろ――って思い付きでただ目を瞑らせて、手を引いただけだが。


 …………よく考えれば普通そっちのほうが怖くないか?

 まぁ、どうでもいいか。結果オーライ。


 先に行っていた人たちも、景色を眺めてたり、何かしら売店で買っていたりしてて、思ってたよりも移動が遅くてすぐに追い付いた。


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27中8話目


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