第7話
俺達が到着してから数分後、先輩や、部活の顧問の先生が到着した。
因みにどうでもいい事かもしれないんだが、神原さんは多分暇つぶしも兼ねてなのか、この階にあるパンフレットなどを隅で立ち読みしている。
しかもかなり熱心に。多分家でも色々と調べたあとにパンフレット限定の情報が無いか調べてたんだろうな。
そんな神原さんを横目に、読み掛けだった小説の続きを読む。
読み始めて数分後、ある人物に声をかけられた。
「おはよう五十嵐、到着早いなー」
本に栞を挟み、顔を上げる。
「ああ、おはよう相川。迷った時ように時間をかなり余裕持って出てきてみたんだが、早く着きすぎて暇でさー」
「何時ぐらいに付いたんだ?」
「三十分ぐらい前。ところで相川、めっちゃこの辺の駅で迷わなかった?」
「めっちゃ迷った。もはやこの辺りダンジョン駅だよな。」
「奇遇だね。俺も同じこと考えてた。」
そんな他愛もない会話をして、一旦相川はトイレに行ってその場に居なくなった。
するとパンフレットを読んでいた神原さんが、まだ部の女子が居なくて暇なのか絡んできた。
「陽介も話せる友達がいたんだ! 何時の間に相川君と仲良くなったの!?」
「おい。流石にその言い草は酷くねえか?」
「いや、何か意外だなーって思って。で、いつの間に仲良くなったの?」
意外って言い方もアレだと思うんだが………
「偶々同じスマホゲームをやってただけだよ。」
「へぇ〜、何ってゲーム?」
「7人の賢者と錬金術師ってやつ。」
「あー、あの絵が可愛い。」
「ソレ。」
あれは確か、部活見学で写真部に行った次の日の昼休みだったか。
何時も通り弁当をリュックから出して、スマホを弄っていると、突然のあるゲームの聞き慣れたログイン画面で流れるBGMが聞こえた。
その音は相川君のスマホから出ていて、相川君はミュートにしていたつもりだったようだが、いきなり音が出て急いでスマホを操作していたな。
丁度俺も同じアプリを開いていたので珍しく、俺から声を掛けたんだったっけ。
そしたらすぐに意気投合して、一緒に弁当食うような仲になったな。
そんな話をしていると、段々と写真部の人が集まってきた。
時刻が集合時間の十時半頃になると全員到着し、観光文化センターから出て雷門の前に移動する。
雷門の前は多くの観光客が固まっていた。
ここから一時間、自由行動だ。腕時計のアラームをAM11:30に鳴るようにセットする。
さっきも十分近かったが、触れられるほどの距離まで行くとやっぱり、かなり大きくて思わず息を呑む。
雷門の真正面から風神、雷神、どでかく雷門と書かれた赤提灯。
この距離だと、撮り方次第で十分人を惹きつけられる写真が撮れるな。
人と人との間を抜け、門の真下よりちょっとズレたところから、見上げるように写してみた。
普通とは違う視線で取るとやっぱり真ん前から撮るよりもいい感じがする。
一通り自分が取りたいと思う風景を撮っていると、後ろの方から何処ぞの方向音痴さんの声が聞こえる。
「あっ陽介! やっと知ってる人見つけられたぁー」
振り返ると沢山の大人の人の間を縫うように神原さんがこちらに向かってくる。
「どうしたんだ? さっきまで部の女子達と一緒に居なかったか?」
「それがさぁー、
「ドジ。」
「ひどっ!」
「本当の事なんだからしょうがない。」
「む〜………あっ! そうだ、折角だから一緒に見て回ろうよ、陽介も一人なんだし、」
こういうときは大体一人で回りたい派なんだが……
この方向音痴の神原さんを一人にしといたら一体何処まで迷って行っちゃうのやら。
流石に雷門の辺りから離れたりはしないだろうけど、この後は東京スカイツリーに行くらしいし。
あの複雑な駅を神原さんが一人で攻略できるとも思わないし……
取り敢えず放っておけないな。
「ハァ…………取り敢えず奥の方まで行ってみるか?」
「うん!」
「逸れて迷子になったら取り敢えず門の前にある交番か集合場所の文化センターに行くか連絡よこせよ。」
「保護者かっ!!」
神原さんのツッコミを無視して、両脇にお土産屋などが並んで、まるで縁日のように人が
流石、日本有数の観光名所だ。
周りから聞こえてくる会話は殆ど理解できん。
中国語? っぽい感じの言葉とロシア語? 語尾にハムニダ? どこの国なんだ?
辛うじて俺の
殆ど聞き取れねぇけど。
周りは殆ど外国の人たちだ。この環境で毎日過ごしていたら日本語以外もいつの間にか、覚えていそう。
歩いていると、何処かでレンタルでもしているのか、浴衣を着ている人が結構いる。
ここだけ時間が夏祭りで固定でもされているのだろうか?
冬はどんな感じなのだろう。
雷門に雪。仲見世通りに舞う雪に、浴衣を着て和傘を指している人。浅草寺の屋根を白くする雪。
きっとキレイだろう。そんな景色を見たら思わず写真を取るだろう。
何となく後ろを振り返ってみると、正面からは"雷門"と書かれていた提灯の後ろには"風雷神門"と書かれていることに気づいた。
今思い出したんだが、雷門の正式名称は風神雷神門だったな。
おおっと、神原さんから目をあまり離さないほうが良さそうだ。
目を少し離した隙にまた何処かに行って迷子になってそうだから―――って何処行った!?
ほんの一瞬後ろを見ただけだぞ!
いや、待て。まだ近くに居るはずだし、よく周りを見よ―――………あ。
普通に店の前で道から、雷おこしやらおみくじ煎餅やらのお土産のお菓子などを見てた。
焦りすぎたな。うん。
取り敢えず当分神原さんは品物を眺めてるだろうし、今のうちに向かいの店で人形焼でも買っておくか。
単純に人形焼を食いてぇ。二袋五百円、と結構安くて
お土産用に一袋と自分用で一袋……う〜ん、弥生と桃花の分を考えるとお土産用二つにしといた方が良さそうだな。
にしても店ではしつこいぐらい黄色い上に赤字で『二袋"で"500円』って書かれてる。
あ、よく見ると『一袋だと300円』って書いてあるな。
折角なので千円で四袋素早く買って、一応背負ってきたリュックサックに入れる。
お土産を入れる用のに出かける用のリュック持って来といてよかった。
早速、たった今買った人形焼の袋を一つ開け、人形焼を一つ食べる。
うん。出来たてだからまだ温かくて上手い。
因みに神原さんは、何かお土産を選んで会計を済ませてきたようだ。
「あっ、陽介。何食べてるの?」
「人形焼。一ついる?」
「いる。お土産のお菓子選んでたら丁度甘いものが食べたくなって来たところだったから。」
人形焼を食べながら浅草寺の方に足を進める。
お土産屋が多いな……と言うかお土産屋しかないのが正解か?
和服の生地風のタペストリーに、ストラップに、扇子、ハンカチなどの他、芋羊羹とか饅頭和、団子などの菓子屋。
見てるだけでも楽しい。
たまに神原さんとお土産屋の中に入って見たりして進んでいると何時の間にか伝法院通と書かれた門赤いもんのところまで来ていた。
前の方には仁王門、浅草寺が見えてきている。
雷門に掛かっていたような巨大な赤提灯が掛かっていて、『小舟町』と書いてあるな。
「うわあ〜宝蔵門も大きくて凄いねー」
「確かに雷門とは違った良さがあるな。」
「宝蔵門の別名って陽介は知ってる?」
「仁王門だろ。そのぐらいは知ってるさ。」
「ちっ、知ってたのかー」
「残念だったな。」
門の前で一枚仁王門を撮り、門の下を
真下の方から見上げるように撮るのも面白い写真が撮れそうだ。
写真は普段見ないような視点で取るからこそ、普通の面白みの全く無い写真とは違う物が撮れるのだと、俺は思う。
門の先には浅草寺本殿、そこまでに、お守りなどを売っている赤を基調とする建物が並び、道の真ん中には煙を被るアレ(?)が置いてある。
「陽介っ! おみくじがあるよ!」
神原さんは真っ先におみくじに食いついた様だ。
「あ、ホントだ、折角だし引いてみるか。」
お金を払い、試しに一回引いてみる。
先におみくじを引いていた神原さんは、開いて中を見るなり、何やら嬉しそうにしている。
「やったー! 大吉っ!」
神原さんが中身を見たあとに俺も何吉か、確認をする。
「おみくじって大体、大吉しか入ってないんじゃないかな……さて、俺のは何吉―――………凶っ!?」
「えっ? 凶ぅぅっ!?」
あまりにも初めての事で、文字を見た瞬間思考が固まった。
「いくらクジ運の悪い俺でも初めてだぞ、凶を引くのは……」
「どんまい陽介、初めて凶っておみくじ見たよ。」
「まさか本当に凶が存在するとは………」
内容が凄く気になる。
それは神原さんもどうやら同じようだ。
「何って書いてあるの?」
「えーっと………病事、いずれ大病に襲われる。備えよ。恋愛、邪魔が入るが、悪くはない。悦び事、近々悲しみもあるが、乗り越えなければならない。六年先にも壁は現れる。……他を読むのは取り敢えずあとにしよう……」
「何か暗い感じだね。」と、神原さんに言われて、「確かにそうだな」と返す。
「いずれ大病に襲われる。備えよ。ってどう備えるんだよ。」
「さぁ? でも陽介は身体に気をつけたほうがいいんじゃない?」
「やっぱり。要するにそういうことだよな……」
おみくじを引いたあと、浅草神社の方も写真を撮ったり、見て回ったりしてから時間に余裕を持たせて集合場所に戻る。
そう言えば、全然同じ部の人を見かけなかったな。
皆何処行ったんだろう?
ここも見つかんないとなると、何処かに固まっててもおかしくないのに………
そういや、教師なんてスーツ着て学校に居るからこそ判別できるけど、普段着でその辺歩いてたら普通の何処にでも居そうな人じゃん。
そう思いながら集合場所で本の続きを読みながら待っていると、時間になり、チラホラ散っていた部の人が戻ってきている。
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