第4話
十〜五十円の菓子を十個ずつ手に取り、じっちゃんに会計して貰う。
これだけ買っておけば当分無くならなそうだ。
「十円の品が二、四、六、十っと。二十円の品が二、四――…………」
じっちゃんが電卓を使い、値段を打ち込んで計算する。
計算が終わり、「合計千五百円ね。と、じっちゃんが値段を提示し、俺は財布から千円札と五百円玉を取り出して渡した。
「はい。まいどありがとさん。」
駄菓子に千五百円も使ったのは初めてだ。
まぁ、ここの駄菓子屋は安いし、消費税無しみたいなもんだし。
じっちゃんはお金をレジに入れると、品物の並んだガラス扉の冷蔵庫から瓶ジュースを取り出して、カウンターに持って来てくると、俺に差し出してくれた。
「はい、これはオマケ。あと、そこにある球出しガムも一個やっていいよ。」
瓶ジュースを差し出しながら、何も持ってない方の手でレジの機械の横に置いてある、横に突起が付いているガムの箱を指差す。
「いいんですか? じゃあ、お言葉に甘えて…………」
瓶ジュースを受け取ってから、球出しガムに挑戦する。
コーラ味とぶどう味の二箱あるが、何となく気分でコーラ味のガムの方を引いてみる。
球出しガムは運が良ければ色の違うガムが出てきて、それが金券となっている駄菓子屋システムの一つだ。
ガムの箱の突起を一回押して、ガムを一つ出す。
結果は………勿論ハズレだった。
「あ、外れだ。ドンマイ陽介。」
俺と同じぐらい大量の駄菓子をじっちゃんに精算して貰っている神原さんがそう言って来た。
「まぁ、何時も通りだな。駄菓子の金券系って当たる確率ってまぁまぁ低いし。」
「確かにね。」
箱から出てきて受け皿に入ったガムを取る。
するとじっちゃんがある話をしてくれた。
「陽くん、ゆいちゃん。ハズレはアタリなんだよ。」
一瞬じっちゃんの言った事が理解出来なくて、俺と神原さんは首を傾げた。
「
「そうなの? おじちゃん?」
「そうだとも。だって金券のガムが出なかったのにその上、ガムが不味かったら嫌だろう? だから金券のガムよりも当たりなんだよ。」
そのじっちゃんの話を聞き、なるほど……と思った。
確かに
そう考えると、ハズレにも何かしら良いことが隠されているのかも知れない。
そう思うようになり、俺は出てきたある意味当たりのガムを口の中に放り込む。
「ふ〜む。じゃっ、おじちゃん。私も球出しガム一回っ!」
会計を終えた神原さんは、十円玉を財布から取り出そうとしている。
すると、じっちゃんはまた冷蔵庫から瓶ジュースを取り出してきて神原さんに差し出した。
「ゆいちゃんも久しぶりに来てくれてありがとうね。こんなに買ってくれたんだからジュースとガムもオマケ。」
「わぁっ! ありがとうっ!」
神原さんは、冷えたジュースの瓶を受け取ると、球出しガムの箱の突起を一回押して、ガムを取り出す。
「やった。ハズレだっ! おじちゃんの話を聞いてからハズレが出るとなんか嬉しくなるよね〜」
「分かる。確かにそうだよな。」
じっちゃんは何処か嬉しそうに「そうだろう。」と言った。
そして、買い物が終わり、そろそろ近くの小学生達がここに集まってくる時間が近付いている事に気づき、駄菓子屋を後にした。
「陽くん、ゆいちゃん。また来てね。」
店の中からじっちゃんは見送ってくれた。
「じゃ、近いうちにまた来ます。」
「おじちゃん、また来るねー」
神原さんは、じっちゃんに手を降ってから自転車を漕ぎ出す。
少し進んだ所にある信号で一度引っかかり、止まった。
地面に片足をつけて、「早く信号の色が変わらないかな……」と、思いながら待っていると神原さんに話しかけられた。
「ねぇ陽介。昔、よく一緒に遊んでた公園って何処だっけ?」
一瞬その公園が何処だか忘れかけていたが、直ぐに思い出す。
「………あー、あの公園か。確かそっちの方と言うか、ここからだとまぁまぁ時間がかかるぞ。」
「そっか、じゃ、私はちょっとその公園を見てから帰りたいから先に帰っちゃってもいいよ。」
「一人でも帰れるのか?」
「いや、流石に帰れ――……る筈だよっ!」
「迷ったらどうすんのさ。」
「迷ったら……マップアプリで家までの道を調べれば多分大丈夫っ!」
そう言って、スマホの地図を開いて見せてくる。
だが、その行為が更に俺の心配を煽った。
チラッと表示された地図を覗き込むと、何故か航空写真で地図が表示されている。
「おいおい。スマホに写っている地図がこの辺の地形じゃないぞ。その
彼女は「えっ?」と一言漏らしてからスマホの画面を確認する。
「あっコレ、熊本で住んでた時の家の住所だ。」
「何故に航空写真のモード?」
「えーっと、これってどうやって普通の地図に戻すんだっけ……?」
「…………。」
この様子からするとこの地図アプリは使い慣れてないようだ。
ふと、他にも気になったことが一つある。
「流石に、今の家の住所は覚えてるよな?」
疑問に思ったことを聞いてみると神原さんは、一瞬目をそらしてから後ろ髪の方にに手を伸ばして頭を掻いた。
「あはははは……そう言えば覚えるのうっかり忘れてた。」
「…………。心配だから俺も一緒に付いてくっていうか、俺が連れて行ってやるよ。どうせ一人だと迷うだろ?」
「う゛っ、最後の鋭い言葉が刺さった。」
「何処にだよ。さ、信号変わったし行くぞ」
「分かったーじゃ、案内ヨロシクっ!」
「はいよ。」
そうして思い出の駄菓子屋を訪れたあと、今度は思い出の公園に向けて自転車を進め始めた。
大通りに抜け、入り組んだ住宅街を抜けると、今でもあの頃によく遊んだ懐かしい遊具の設置された公園が見える。
今でもあの頃の俺と同じくらいの歳の子供達で賑わっていた。
ふと公園にある時計を見ると、いつもならもう既に家に付いていてもおかしくない時間になっていた。
少し思い出の公園を眺めたあと、帰路に着き少し遠回りしつつも十数分後、やっと家に着いた。
家の前に着くと丁度、この近所の母親たちが道の片隅に集まって井戸端会議をしているのが見えてくる。
なんでそんなに集まっての長話をしているのか話題が気になるな。
家まであと数メートルほどだったので自転車から降りて手で押して進むと、神原さんも自転車から降りて手で押して歩き始めた。
道端に集まっている主婦達を横目に、家の前に自転車を止めて鍵を抜こうとする。
「ガチャン」という自転車のスタンドの音が鳴り、その音で話に夢中になっていた母さんがこちらに気づいた。
「あら、陽介お帰り。朝言ってたニュースなんだけど―――それは言う必要がないみたいね〜」
母さんは俺の横にいた神原さんに気づいたらしい。
そしてその後、母さんと話をしていた近所の母親たちが「おかえりー」や「少し見ないうちに大きくなったねー」などど声をかけてくる。
そんな挨拶を軽く会釈で返す。
「こんにちはー」とかなら普通に返せるが、正直。「おかえり」と家族や親しい友人以外から言われても何って返せばいいのか俺には分からない。
自転車に鍵をかけ、キーを抜き、ポケットにしまう。
「母さん、やっぱり朝のニュースって………」
「そう。昨日ね、優生花ちゃんがこっちに戻ってきたのよ〜」
何故か少しウキウキした様子で母さんはそう言ってきた。
すると何かを思い出したように神原さんはあることを聞いてくる。
「そう言えば陽介、昨日引っ越しの挨拶に行ったのに家にいなかったよね? 何処行ってたの?」
「あっ、昨日挨拶に来てたんだ。」
「そりゃあ、挨拶ぐらい行くよー。で、どこ行ってたの?」
そう聞かれて、俺は昨日の行動を振り返った。
「う〜ん……昨日唯一出かけたのは――本屋だな。」
「本屋に行ってたのかぁ〜、昔とは違って結構休みの日にも出歩くようになったの!?」
何故か驚いた様子で下さい上原さんはそう言って来た。
そう言えば俺は昔っから休みの日は家から出ない習性なのに、よく上原さんに連れ回されてたな。主に栃木屋とかだったけど。
「いや、単純に読む本が無くなったから買いに行っただけ。まぁ、滅多に休みの日に出歩か無いからタイミングが悪かったね。」
「ま、遅かれ早かれ、どうせ私達会ってたんだしいっか!」
「そうだな。さて、そろそろ時間もアレだしお互い家の中に入るか。」
「確かにね。じゃっ、陽介また明日〜」
俺は「ああ、また明日。」と一言言ってから家の中に入った。
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