第5話
「ふぅ………今日は疲れた……」
七時半時に学校に登校。九時下校。十時頃には家についていると思ったんだが、家に入って時間を確認すると、もう十一時半を過ぎていた。
制服から家着にしている青ジャージに着替え、用意してあった昼食を食べ終え、気づけば俺は二階の自室のベットの上でダウンする。
慣れない五時起き。
初めての長距離登校。
その他色々の驚き。主に
それらが疲れとなって一気に押しかかってきたようだ。
ベットの上で読みかけだった文庫本を開き、続きを読み始める。
本を読もうと思ってからどのくらい時間が経っただろう。
気づけばまだ明るかった筈の外は、太陽が沈んでいて、電気の付けてないこの部屋は薄暗くなっていた。
どうやら本を読んでいるうちに寝落ちしてしまってしまったらしい。
ベットの上には
栞を挟み損ねると何時も一瞬、「やらかした……」という気持ちになる。
どの辺りまで読んだのか大体はすぐに見つけられるが、面倒臭い。
最後に読んだ文を見つけて栞を挟み直す。
部屋の明かりをつけて、部屋の壁に掛けられている丸い時計の針の差す数字を読む。
「もう7時半か……結構寝てたんだな。」
ふと自分の勉強机の上を見ると、小さい写真立てに入れられたあのインスタントカメラの写真があった。
あまり意識して見てなかったが、確かに今日神原さんが見せてきたものと同じ写真だ。
喉が渇いてきたので何か飲み物を飲みに、一階に降りる。
下では一番下の妹の桃花がリビングのローテーブルで小学校の宿題をしていて、母さんは台所で夕食の準備をしていた。
コップを取りに台所に行くと、料理に集中していた母さんは「うわっ! いつの間に起きたの!?」と、突然台所に現れた俺に驚いていたいた。
正直そんなにビックリすることか? と思いながらも一瞬驚いていた母親を尻目に棚からコップを取り出し、水を一杯汲み、飲み干す。
「母さん、何か手伝える事ってある?」
「じゃ、陽はモモの宿題見てやって、分からない所があるらしいから。」
「了解。そう言えば弥生は?」
「二階に居なかった?」
「あ、自分の部屋にいるんだ。何時もリビングでゴロゴロしてるのに珍しい。」
「確かにね。」
このちょっとした会話が終わると問題が分からなくて唸っている妹の近くによる。
「さて、桃花。どこの問題がわからないんだぃ?」
「ここがわかんない」
「そこはこう計算すれば――――」
妹に宿題のわからない所の解き方を夕飯まで教えること数十分、夕飯の準備が整い、テーブルに料理を運び始めた。
そして夕飯を食べ終えると風呂に入り、そうして高校に入学した一日は終わった。
ああ。そう言えば風呂に入ったあとに、何となく夜風を浴びようかと風通りの良い、家と家の間にある窓を開けて何となく外を見ていると、突然斜め向かいの窓が開いて神原さんが顔を出して来たのには驚いたな。
どうやら偶然同じような考えで夜風を浴びようとしてたらしい。そう言えばあそこが神原さんの部屋の窓だったな。
小三の時も、こうやって窓越しに話してた事があったっけ?
あの時は身長の関係で踏み台を窓のそばにおいて、ギリギリ肩が窓枠に付く辺りにして話してたりしたな。
今思えば結構周りから見ると危なそう………
神原さんも窓から顔を出してからこちらに気付き、明日について色々な話をして、その日はお互い眠りについた。
………………………………………………………………………………
次の日の朝。
一回目のアラームで一旦起きるが、何時も通り二度寝をしてしまい、そのための二回目のアラームで完全に起きて、下に降りる。
そして昨日と同じ朝の準備をこなし、時間通りに家を出た。
自転車を置き場に預け、改札を通り、駅のホームのベンチで何時もの様に本を読みながら乗る予定の急行電車を待つ。
「よっうっすっけっ! おはよー!」
ベンチで座って本を読んでいると、聞き覚えのある声に挨拶をされた。
本から顔を上げ、挨拶を返す。
「おはよう、神原さん。朝からテンション高いね。」
挨拶を返したら、
「そりゃーやっとクラスの子達とマトモに話ができそうな2日目がやっと来たんだよ! ワクワクするでしょ!」
「いや、別に俺はワクワクはしないな。基本的に必要最低限人と接せられればいいと思ってるから。」
「えー、寂しいなぁ〜」
「安心しろ、元々だ。話し掛けられたら返すぐらいが俺には丁度良いんだから。」
数分後に急行電車が駅についた。
昨日と同じ様に乗り、昨日と同じように学校に着く。
まるでプログラミングされたように一定の日々をただ過ごす。
二日目の学校では一時間目からLHRが行われ、クラスでの役員決めが行われた。
もちろん俺は図書委員一択だ。
ただ、男女一枠ずつ。
被らないと良いな……と思っていると案の定被ってしまう。それも男子の一枠だけ。
女子での立候補者は一人。それもなんでか神原さんだった。
男子の立候補者は、俺とオドオド君だ、因みに俺はこの人の名前は覚えてない。
黒板に書かれた出席番号の順から察するに大体名字がサ行って所だろう。
お互いやりたい役員なのだから譲り合う気は更々無い。
こういうときの決め方は殆どジャンケンで行われる。
正直、じゃんけんは苦手だ。まぁ、勿論偶々勝てた。
俺が勝った瞬間、何故かオドオド君からは恨みがましい目で見られたな。
それだけやりたかったのだろう。まぁ、哀れんで譲る気は全くねぇが。
そんな感じで他の役員決めも終わり、LHRも終わって行き、休み時間になり、次の授業の教科を準備し終えてから何時も通り本を読み始める。
「陽介っ、次の時間ってなんの授業だっけ?」
本を読んでいると唐突に神原さんがそう聞いてきた。
一瞬何故、
すると彼女は、「いや〜だってまだあまり良く知らない男の人と仕事するよりも、知っている人と仕事した方がいいじゃん。陽介ならきっと来ると思ってたから。」と笑みを浮かべてそう言った。
そんな理由で一瞬呆れもしたけれど、もう一人が神原さんで良かった、と安心もしている。
多分理由は神原さんと同じだろう。
そんな事を考えていると二時限目の
そして一時限、また一時限と気づけばもう全ての授業が終わっていき、お疲れムードのクラスメイトたちが教室から段々と出ていく。
いつもなら俺もあの流れに乗って帰路につくんだが、今日は違った。
リュックに入っている一眼レフ、D40xの入った横がけのカメラケースを取り出し、昨日の校内放送で聞いた、三階のある教室に向かおうと教室を出ようとした。
「よーうーすーけっ! もしかしてそれってカメラ?」
足早に教室から出ようとすると神原さんの声で止められた。
「そうだけど。」
「じゃ、この後行くところは私は同じみたいだね。」
神原さんはカメラケースを右手に持って持ち上げて強調している。
「もしかして写真部に?」
「そ、正解。写真部って何処の教室で活動してるんだっけ?」
「三階の一号棟の三年二組の教室って確か昨日の放送で流れてたな。」
「じゃ、早速いこー」
教室から出て神原さんは、またいつかのデジャブを思い出しそうな感じで、一号棟とは真反対の方向の棟に向かって歩き始めた。
「…………。神原さん。一号棟はこっち。そっちは五号棟。」
そう声をかけると、俺よりも数歩先を進んでいたが足を止めて、振り返ってくる。
「えっ? そっちだったっけ?」
「ああ、階段の横のプレートにちゃんと何号棟か書いてあるでしょ。」
「あ。ホントだ。」
彼女は階段の壁煮詰め込められているプレートを確認し、こちらに早足で戻ってくる。
「取り敢えず陽介に着いていくことにするね。うん。」
「そんなに迷うほどの大きさか? そんなんで入学初日でよく教室に辿り着くことができたね。」
「まぁ、偶々たどり着けた感じだからねー」
「そうなんだ。」
そしてそのまま一号棟三階の教室に足を運ぶ。
えーっと………三年四組、三年三組……あ、あった三年二組。
本当にここで合っているのか少し不安に思いつつも教室の中を廊下から控えめに覗き込む。
すると中にいた写真部の男子生徒がこちらに気づき、声をかけてくれる。
その男子生徒の上履きを見るとつま先が緑色のゴムだったので自分よりも一つ上の学年。つまり先輩だということに気づく。
「もしかして入部希望の方ですか?」
「あっ、はい! 入部希望です!」
「俺も同じく入部希望です。」
「そうですか! では部活動が始まるまであと少し時間がありますので、中に入って待っていてください。」
教室の中に招かれ、適当に隅の机に荷物を置かせてもらい、椅子に座る。
今回はカメラのレンズをメガネ拭きで吹いたりして時間を潰す。
そうしているうちに同じクラスの……確か相川君が入ってきた。
他には見知らぬ男子生徒三人、あとから遅れて女子生徒が数名入ってきたな。
相川君が写真部の体験に来るのは意外だったな。
人数が集まると活動内容などを知らされ、ちょっとした撮影会として校内の写真をを小一時間ほど撮った後解散となった。
次の活動は来週。
体験入部に行った次の日には二人して入部届けを提出し、大手チャットアプリの写真部連絡用グループに入れてもらい、来週の活動場所を確認できるようになった。
入部届を提出し、写真部に入部してから大体一週間。
一度だけ通常の部活動として、学校周辺の風景を取るって活動があった。
学校周辺はわざわざ探索として歩く気すら無かったのでそれはそれで新鮮だったな。
元々緑に囲まれた山の近くに建てられた学校だ、電波の入りが少し悪いのを除けばあまり悪くはない。
次の部活のある来週は
何でも浅草に行ってから東京スカイツリーに行くのだとか。
それを聞いた時、神原さんのテンションはいつも以上に高かったな。
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