11_光の午後@6

 三、二、一、終了。

「百七十と少し」の再生が終わる。米仲は腕を組み、天井を見上げている。


 五秒経った。

 十秒が過ぎた。

 十五秒で確信に変わった。


 ボイスメモを閉じ、アカペラの再生を終了する。この三十分弱で数曲、米仲にアカペラを聞かせた。

 だが、一曲ごとの感想は特に述べられず、曲が終わると米仲は歌詞をこちらに向け

「次はこれを再生しろ」と、タイトルを指さすばかり。


 僕はそれに対し、工場産よりもちょっと賢いジュークボックスになり、要望の曲を再生するに徹した。本当はすぐにでも感想を聞きたかったが、聴く側のペースを乱したくなかったので我慢した。


 しかし、それもとうとう終わった。

「百七十と少し」が終わっても、米仲は次の曲をリクエストしてこなかった。これはつまり「満腹」のサインだ。


 食うだけ食った。聞くだけ聞いた。

 なら次にやることは一つ。

 食った分だけ吐くことだ。


 始まりは楽器が主役のステージだったが、今、ステージの中央に立っているのは僕の歌詞だ。早く感想が聞きたい。称賛なのか絶賛なのか狂乱なのか特にないのか。


 僕の歌詞は自分以外の人にどんな感情を抱かせるのか。


 気持ちが体を追い越しそうになる。でも、自分から口を開いてはいけない。それは何だかとても失礼なルール違反に思えたからだ。第一声はあくまで米仲から。


 隣室からのくぐもった歌声が、室内に迷い込んでいる。米仲がやっとイヤホンを耳から外す。


「アカペラ、聴いたぞ」


 現状報告の言葉と共にイヤホンが手渡される。


「うん」


「やっぱ、歌があると無いとじゃ、天地の差だな。より歌詞の雰囲気や世界観が補強されたわ」


 ここまで米仲の声は平坦だ。嫌な予感が背中を撫でる。


「よかった。でも歌は上手くはなかっただろ?」


 ゲーム終盤のジェンガからパーツを抜き取るように、恐る恐る質問をぶつける。倒れるのか? そびえるのか?


「悟。お前まだロックじゃねぇこと言ってんのか」


 米仲は入室時に注いできた野菜ジュースをストローで吸う。その行動も大概ロックじゃないと思うが、黙って次の言葉を待つ

 。ジェンガはまだ抜けきれてない。


「いいか。ロックに上手い下手は無いんだ。魂が震えるか、震えないか。それだけがある」


「俺はお前の歌で、震えたよ」


 照れ笑いを浮かべることもなく、米仲は真っすぐに思いを伝えてきた。そしてその空気の振動は、僕の心も震わせた。両腕でジェンガタワーを台無しにし、心の中で思い切り叫ぶ。

 涙が出そうだった。


「お前のオリジナル、絶対完成させような」


 米仲が右手でこぶしを作り、突き出してくる。


「勿論。完成させよう。僕たちのオリジナル」


 米仲は少し驚いた顔をしたが、その表情はすぐ優しい笑顔に変わった。波打ち際に描いたウサギを、波が砂へ塗り返すのと似ていた。


 コツン、と右の拳を米仲の拳に当てる。

 なんかロックっぽかった。


 

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