第21話 変態後輩と捻挫 下
「やっぱまだ痛いか?」
昨日奏多が病院に行ってから1日が経って、今日は土曜日。
一応昨日から安静にさせているけど、捻挫の痛みって長引くからなぁ……。
「はい、痛みは引いてきてはいるんですけど……歩くのはまだ……ちょっと無理そうです」
「そうか。なら今日も安静にしてないとな。俺も今日は用事無いし、なるべく家にいるようにするから」
ちょっと過保護かもしれないけど……こいつまた無理しそうだからな。
見張っておくに越したことはないよな。
雫もケガしてるっていうのによく動き回って悪化させることが多いし。
「1日中せんぱいと一緒にいられるなんて、ケガしてみるものですね」
「わざとケガしたみたいな言い方はやめろ。味を占めてわざとケガなんてしたら次は面倒見てやらないからな」
「ちぇー……せんぱいのケチ」
「それがわざわざ休みだっていうのに面倒見てやってる人間への態度か……」
頼まれてやってるわけじゃないけども、ちょっとイラッとしたぞ?
「じょーだんですよぉ! さて、パパッとお昼作っちゃいますね!」
「バカ言え、大人しく座ってろ。俺が作るから」
「そうでした……せんぱいにわたしの手料理を食べてもらえない人生なんて……! でも、せんぱいの手料理を食べられる幸せ……わたしはどっちの感情を表に出せばっ!?」
「どっちでもいいだろ、そんなもん……」
それに大体手料理って言っても、俺が作れる物なんてたかが知れてる。
「冷蔵庫の中、何があったっけ?」
「鶏肉だったり、卵だったり……あと玉ねぎとか?」
「なんだよそのピンポイントで親子丼を作らそうとしてる材料……」
まあそれなら作れないことはないか。
奏多は料理にこだわるタイプだからこの家やたらと調理道具とか調味料は充実してるし、レシピ見れば、俺でも作れる。
……見た目はともかくとして。
「えっへへー……せんぱいの親子丼、楽しみですっ!」
「あんまり期待はするなよ? 作ったことないんだから」
「わたしはデザートとして待機してますね? あ、ちょっと勝負下着を着用してきても!?」
「さぁーて、米を炊くかぁ!」
米を炊飯器にセットして、変態に絡まれないように俺は調理に集中することにした。
◇◇◇
「ほら、出来たぞ」
うん、割とまともに出来たんじゃないか? 俺ってやれば出来る子だったんだな。
「わぁ! 美味しそうですね! さっすがせんぱいですっ!」
「褒めても親子丼とお茶しか出ないぞ……ほら、箸」
「ありがとうございます! いただきまー……あ」
お互いに席について、合掌をしたのはいいけど、奏多が箸を片方テーブルの下に落としてしまった。
「何やってんだよ……拾えるか?」
「はい、このくらいなら……あ、ありました! ……よっと」
「おいなんでこっちから顔出すんだよ!?」
何故か奏多が俺の股の間から顔を覗かせやがったので、驚いて仰け反ってしまった。
「んふふー……せんぱぁい、この体勢……なんかちょっとえっちだと思いませんかぁ?」
「なっ!? 早く戻れ! ……ったく!」
「せんぱいが想像してくれたみたいで嬉しいですっ」
もういいわ。
とっとと食うか……おっ、意外と美味いな。自分で作ったせいか倍美味く感じる。
「おー……! さすが、わたしのせんぱいは何でも出来ますね」
「わたしの、は余計だけど……口に合ったようで何よりだ」
人に料理を食べてもらうってこんな気分なのか、悪くないな。
……たまに作ってやるぐらいならいいか。
「……なあ」
「ふぁい? ふぁんへすか?」
「飲み込んでから喋れ」
「……なんですかぁ?」
奏多が口の中の物を飲み込むのを待ってから、俺は切り出した。
「……たまにでいいからさ、料理教えてくれよ」
「ふぇっ?」
うぐっ、なんだよ……その鳩が豆鉄砲くらったような顔は!
「い、いいだろ別に! たまには自分で作ってみるのもいいかと思っただけだ! 将来1人暮らしをする時の備えにもなるし!」
なおもきょとんとする奏多に言い訳染みたことを早口で捲し立ててしまった。
「もちろんいいですけど……ちょっとびっくりしました」
「……まあ、料理は上手い奴から学ぶのが1番だろ」
「でも、せんぱいが1人暮らしですかぁ……一生そんな時はこないと思いますよ?」
「なんでだよ?」
すると、奏多はウィンクをしながら、俺に向かってビシッと突きつけるようなポーズをして、言い放った。
「――だって、せんぱいはわたしとずぅっと一緒ですからっ!」
「はぁ?」
「だから、せんぱいが1人暮らしをする機会なんて未来永劫訪れませんよっ! 残念でしたね!」
「……俺の未来を勝手に決めるなっていつも言ってるだろうが……ごちそうさま」
「あ、私もごちそうさまでしたっ!」
「お粗末様でした。ほら食器よこせ」
何を言い出すのかと思ったら……やっぱ奏多は奏多だな。
変態でどうしようもなく強引だ。
俺はソファに腰掛けて機嫌良く足をぶらぶらさせて、鼻歌を口ずさむ奏多を見て、食器を洗い始めた。
◇◇◇
時間は経って、夜になった。
今は奏多がシャワーを浴びている。
「お風呂上がりましたぁ」
「おう、じゃあそこに座れ。湿布と包帯付けるから」
タオルを首にかけた奏多が壁に手を当てながら出てきたので、俺はソファに座るように指示をする。
湿布はともかくとして、包帯は自分で巻くの難しいからな。
こいつは器用だし、出来るかもしれないけど……俺がやった方が確実だし。
「はぁい……お願いします」
ぽすっと音を立てて、奏多はソファに座って足を俺に差し出す。
風呂上がりのせいで若干体温の高い肌に触れると、奏多はぴくっとした。
「やんっ……せんぱい、くすぐったいですよぉ♪」
「変な声を上げるな! ……ほらっ、巻き終わったぞ」
「ありがとうございます。なんだか、王子様がお姫様に傅いているみたいですねぇ」
確かに、見ようによっちゃそう見えるかもしれないな。
俺が膝をついているせいで忠誠を誓っている感じが出てる。
……普段のこいつの言動のせいで、全く意識とかしてなかったけど、こいつ綺麗な足してんな。脛から太ももまでのラインが整ってるというか、これがカモシカ足ってやつか?
「せんぱい?」
「悪い、ちょっとぼうっとしてた。俺も風呂入ってくるわ」
「……もしかして、今わたしの足にみとれてくれてましたか? 嬉しいですっ!」
「バ、バッカ! そんなわけねえし!? 風呂っ!」
背後から響くやったーっ! という声から逃げるように俺は風呂場に駆け込んだ。
くそっ……俺としたことが! あんな変態の足にっ……!
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