第14話 変態後輩と買い物
「どうですか? この服!」
「あー、似合う似合う」
「むーっ……ちゃんと見てくださいよぉ」
「あのなぁ、自分の服だってよく分からないのに、女子の服なんかもっとよく分からないっての」
GW最終日、俺は家でごろごろして過ごす予定だったけど、奏多に服を買いに行きたいとねだられてしまい、渋々付き添うことになってしまった。
俺だって最後まで粘ったんたんだぞ?
……だってのに、こいつが一緒に行ってくれないなら、わたしが脱ぎますよ? いいんですか? と訳の分からない脅しをしてきやがった上に、本当に脱ぎ出しやがった。
それだったらまだ服を買いに行った方がいい。
連れて行かないと脱ぐと脅してくる癖にその服を買いに行く、どういうことだよ。
「あとでせんぱいの服も選びましょうよ! わたしが選んであげますから!」
「別にいい。服に金使うぐらいなら別のことに使った方がいい」
「もーっ……そう言っていつも買わないんでしょ? せんぱいの服っていつも同じのばかりだし、くたびれたものも多いじゃないですかぁ」
おい高1。頬を膨らませてむくれるな。
「女の子って男子のそういうところ見てるんですよ? まあせんぱいのカッコよさを知ってるのはわたしだけでいいんですけどぉ……でもせんぱいにはもっとカッコよくあってほしいのです!」
「……はいはい、分かったから。いつまでも試着室占領すんな」
「はーい! すぐ着替えますね! あっ、せんぱいも中に入りますか? むしろわたしに入れて欲しいぐらいですけど!」
「頼むからやめて!? 店員のお姉さんがすげえ不審な目をしてこっち見てるから!」
あと一押しで間違いなく通報される!
それは洒落にならん!
「お待たせしましたぁ! さあ、気合い入れて選びましょう!」
「自分の分は買わなくてもいいのか?」
「わたしのことよりせんぱいのこと! 腕が鳴ります……!」
……これは長くなりそうだな。
あと、一応金をおろしておいた方がよさそうだ。
◇◇◇
「ふーっ! 買いましたねぇ……! まんぞくですっ!」
奏多はむふーっと満足げに息を吐いて、カフェラテを啜る。
俺たちが座ってる席の両サイドには服が入った大量の買い物袋がある。
服を買い終えた俺たちは一息つく為に、カフェに立ち寄ったわけだ。
「……こんなに買ってしまったし、今月は節約確定だな……」
財布も随分と軽くなった。
いくら奏多が安いブランドの店をチョイスしたとはいえ、数を買えば値段もそれなりだ。
「だからわたしが出すって言ったじゃないですか」
「それこそバカ言え。自分の物を選んでもらった上に金まで出させられるか」
「せんぱいのそういうとこ、大好きですっ」
「ただ、やっぱバイトぐらいはした方がいいかもしれないな」
親父から送られてくる生活費にも限りがあるし、俺も自分の欲しい物ぐらいは買いたい。
……ちゃんと探してみるか。
「それならいいあるばいとがありますよ?」
「へえ、どんなのだ?」
「わたしと一夜の過ちを犯すだけの簡単なお仕事ですっ!」
「却下だ! 人生かけなきゃいけなくなるじゃねえか!」
それもうアルバイトじゃなくてほぼ就職だろ!
「でもせんぱいがあるばいとしちゃったらわたしとの時間が減るじゃないですか!」
「俺にも生活があるんだっての。あとその時間が減っても俺には大して痛手じゃない」
「むーっ! せんぱいのばか! 未使用品!」
「お前なんてこと言いやがる!?」
童貞は女子が思ってる数倍デリケートな生き物なんだぞ!?
「まあわたしも未使用品なんですけどね」
「そんな報告はいらん! ってか人前で下ネタかますな!」
「はーい。2人きりの時に、ですねっ!」
「そういう意味じゃねえよ!」
2人きりの時にもぜひやめてほしい。
俺も律儀にツッコミ入れずにスルーすればいいのにな……。
「……明日から学校か。なんかやたらと濃いGWだったような気がする」
「楽しかったですね!」
「大変だったの間違いだろ……また朝早くに起きて登校とか面倒くせえなあ」
「わたしはせんぱいとまた登下校出来ると思うと楽しみですよ?」
「お前のポジティブさがたまに羨ましく思える時がある……」
奏多司は変態だけど、超ポジティブ精神の持ち主だ。
こいつを凹ませられたら大したもんだと思う、いやマジで。
「……せんぱい、あれろりこん先輩たちじゃないですか?」
「へ? ……そうだな。デートの最中っぽいな」
奏多が指を差す先には仲睦まじく歩く、翔也と咲良先輩の姿があった。
そうか、昨日立てたプラン通りにしてるんだな。
「楽しそうですねえ……水族館の帰りでしょうか?」
「あるいは、カフェに行ったあとかもな」
デートって言うか、他人から見たら兄妹っぽいけど。
「……せんぱいせんぱい! ちょっと尾行してみませんか?」
「あまりいい趣味とは言えないけど、正直俺もちょっと気になるな……」
あの2人上手くやってるのか? 引き合わせたのは俺だし。
……まあ、あの様子じゃ心配ないと思うけど。
尾行するにしても……この荷物、邪魔だな。
◇◇◇
一通り見てたけど、いい感じとしか言いようがなかった。
翔也が何か言ったら咲良先輩が笑って、その姿を見て、翔也も笑う。
どこをどう見てもお似合いのカップルだ。
……あれなら、翔也もきっと脈無しじゃない。
あいつはロリコンだが、あれは……好きなことをしてる時の翔也の顔だ。
小さい時から見てきたから、よく知ってる。
2人を尾行し始めて数時間、辺りもすっかり夕焼けに染まった。
「……いい感じですね」
「そうだな。日も暮れて来たし、そろそろ帰るか?」
「ですね、ついでに夕飯の買い物をして帰りましょう!」
「ああ。……ん? 奏多、ちょっと待て」
「なんですか?」
翔也と咲良先輩の様子がおかしい。
2人を包む雰囲気が緊迫したような気がする。
咲良先輩が俯いて、やがて顔を上げて、何かを翔也に言った。
その何かを聞いた翔也は驚きに目を丸くして……今度は翔也が俯いて、何かを先輩に告げたように見えた。
――そして、咲良先輩は……大粒の涙を流しながら走って行った。
「……あれって、もしかして? って……せんぱい?」
「……悪い、奏多。先に帰っててくれ」
あれを見れば2人に何が起きたのか、誰だって分かるだろう。
――咲良先輩が翔也に告白し、翔也がそれを断ったんだ。
そんなのは、恋愛事に付きものだ。
合う合わないはもちろんあるし、それで振ったんなら文句はない。
でも、もし……!
――もし、俺が思ってる通りの理由で翔也が先輩を振ったというなら……俺は、あいつをぶん殴らないといけなくなる……!
俯いたまま立っている翔也の元に、俺は拳を握りしめながら近づいた。
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