第11話 変態VS妹

 GW2日目、家にいてもやることがなかったので、外をぶらぶら歩いて時間を潰すことにした俺は当ても無く放浪していた。


「お兄ちゃんを知りませんか~? お兄ちゃんを知りませんか~?」

「……なんだあれ? というかあいつ……雫?」


 変な声が聞こえたと思ったら、『お兄ちゃんを探してます!』と大きな文字で書かれた紙を持ったアホが涙を流しながらよろよろと歩いていた。


「……よく分からんけど、関わらないのが吉だな」

「ふぅ……ふぅ……君、お兄ちゃんを探してるのぉ?」

「え、はい! この人なんですけど……」


 雫は懐から1枚の写真を取り出して、声をかけた小太りの男に見せた。

 そうか、あいつスマホ無いんだもんな……。


「あぁ! この人なら僕の友達だよぉ……? 良かったら連れて行ってあげようか? うひひっ」

「本当ですか!? ありがとうございます!」

「はーいどーも。お兄ちゃんでーす」


 雫の手を掴もうとした小太りの男と雫の間に体を滑り込ませる。

 全く……関わらなくても面倒起こしやがって……!


「あっ! お兄ちゃーん! ようやく会えたよぉー」

「というわけなんで……良かったな、あのまま何かしようとしてたらお前の行き先は警察になってたところだぞ?」

「は、はいぃ! す、すみませんでしたぁ!」


 小太り野郎は悲鳴を上げながら逃げていった。

 デブにしては足早えなおい。


「あれ? いいの? あの人お兄ちゃんの友達じゃないの?」

「いいんだよ。前世でも今世でも来世でもあんな奴は顔も知らん」


 危うく事案が発生してしまうところだった……そんなことより。


「何でお前がここにいる? 大阪にいるはずだろ?」

「GWだしお兄ちゃんに会いに来たの!」

「……それで迷ってちゃ世話無いだろ! スマホも無いのに!」

「会いに来たのは良かったんだけど……考えてみたら雫、お兄ちゃんの住んでる場所知らなくて迷っちゃった!」


 たははー、と頭を掻いて笑う雫の顔見て、俺はスマホを取り出した。


「へい、Siri。アホな妹に対しての対処法」

『――すみません、よく分かりません』


 チッ、ダメか! 機械でもさじを投げるレベルらしい。


「ねえねえお兄ちゃん! せっかくだから雫とデートしようよぉ!」

「悪いな妹よ。お兄ちゃん超忙しい」

「そんな!? お兄ちゃんには雫を甘やかすという大事な使命があるっていうのに!?」

「ねえよ! ってか親父がよくこっちに来ることを許したな?」


 親父は雫がいないと俺が寂しいと気持ち悪いことをのたまい、俺を置いて母さんと雫を連れて大阪に転勤したほど俺以外を溺愛してる。

 その溺愛っぷりは悪影響を受けたらいけないとスマホを持たせないぐらい。

 そんな親父が俺の所に来ようとする快く送り出すか?


「お母さんにしか話してない!」

「だろうな……ちょうど親父から電話かかってきたわ」


 出たくねえなぁ……。


『――もしもし?』

『娘を攫った目的は何だ? 仕送り減らすぞ』

『何で俺が人質取った犯人みたいになってんだよ!? 脅されてるの俺だし!』


 それは死活問題すぎる!


『……とりあえず、今からそっちに雫を返すと夜遅くになるだろうし、今日はこっちで預かるぞ?』

『待て、俺は雫が家にいないと寝付けないんだ。それは困る』

『相変わらず奇跡的にキモいことを平然と言うな! 母さんがいるだろ!』

『何? 母さんを抱いて寝ろだと? 親に向かって下ネタを振るなんてどういう神経をしているんだ』

『あんたこそ今のをそういう解釈するとかどういう神経してんだ!?』


 もーやだこの親父! 話がどんどん脱線していく!


『……雫を危ない目に遭わせるわけにはいかない。仕方ないから今日はそっちで預からせてやる』

『上から目線でどうも! 切るぞ!』


 さて、親父はこれでいいとして……問題は、あいつだよなぁ……。


◇◇◇


「だめです! ここはわたしとせんぱいの愛の巣なんです!」

「違うな!」

「だったらここをお兄ちゃんと雫の愛の巣に変えてやるまでです!」

「お前まで何言ってんの!?」


 案の定こうなったか……どうするかなぁ。

 奏多を説得するのも手間がかかりそうだし、かと言って雫を追い出すってのはもっとあれだしな……。

 こいつ中3だし、ホテルも取れないし……。


「せんぱぁい! わたしという者がありながらどういうことですか!」

「お兄ちゃん! 雫という者がありながらどういうことなの!?」

「ええいめんどくさい修羅場に! お前ら少しは仲良くしろよ!」

「はい、せんぱい!」

「はい、お兄ちゃん!」

「何で急に素直になるんだよ……」


 さっきまで睨み合ってたよな?


「「せんぱいの(お兄ちゃんの)言うことだから!」」

「さてはお前ら本当は仲いいんだな!? そうなんだな!?」


 もうそれでいいわめんどくせえ……。


「よく考えたらわたしとせんぱいが結婚すれば雫ちゃんはわたしの義妹になるわけですし、仲良くしておいて損はありません!」

「すげえ打算的な考え!? それを本人の前で口に出さない方がいいと思うけどな! いくら雫でもそんな感じで仲良くされるのは……」

「え!? この人雫のお義姉さんになるの!? お兄ちゃんが盗られるのは悲しいけど、お姉ちゃんも欲しかったし万歳だよ!」

「あ、大丈夫だ。こいつアホだったわ」


 ……まあ解決したならそれでいいか。


「ってやっぱりお兄ちゃんは渡せないよ! お兄ちゃんは雫と一緒にお風呂に入ったことあるもん!」

「わたしもありますよ?」

「え!? だったら……一緒に寝たこともあります!」

「わたしもありますね。しかも全裸で」

「がーん!?」

「誤解を招く言い方すんな! お前が勝手にベッドに潜り込んでくるんだろうが!」


 大体雫の言ったことだってこいつがまだ小さい時の話だし!


「ふふん。とにかくせんぱいとわたしは許嫁を前提に同棲しているので、雫ちゃんの出る枠はありませんよ!」

「年下相手にマウント取ろうとするな……」

「やだなぁ、せんぱい。わたしがマウントを取りたいのはせんぱいだけですよ? 物理的に!」

「へい、Siri。変態、対処法」

『――すみません、よく分かりません』


 チッ、これもダメか。


「まあそういうわけだから泊めてやってくれ」

「仕方ないですねー。わたしがせんぱいの頼みを断れるわけないじゃないですかー」

「じゃあ変態をやめ――」

「すみませんそれは無理です」

「おい」


 言うだけ無駄か……。


「でも! せんぱいと一緒のベッドで寝るのはわたしですからね!」

「むっ! お兄ちゃんは雫と一緒に寝るんです!」


 へー。いちごの赤い部分って実じゃなくて茎なのかー。種に見える部分が実なのかー。なるほどー、勉強になったなぁ。

 俺は変態とアホを放置し、ツッコまないことに決めた。

 今日はもう疲れた。

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