第10話 ロリコンDKとストーカーJKと時々変態

「というわけで、先輩。ファイトです」

「どういうわけですか!? 何で急に私と翔也君が会う事になってるんですか!? 私の意思は!?」


 翔也に先輩を紹介する約束をしたと咲良先輩に話したら目をぐるぐると渦巻き状にした先輩にぽかぽかと殴られた。全く痛くない。

 

「でも先輩いつも作戦決めてもへたれるじゃないですか」

「はいそうですね私がへたれなんですねごめんなさい」

「だから土下座はやめてくださいって……」


 誰かに見られたら完全に幼女に土下座をさせてる男の図に見えるから。

 まあ今は誰も見てないし、ここには人も来ないだろうけど……。

 先輩が所属してる写真部の部員は先輩1人だし、ここは実質咲良先輩のプライベートルームだ。


「だからこうやって強引にでも事を進めた方がいいんですって。1回会って話してしまえば次から楽になるでしょ?」

「でも……やっぱり突然過ぎますよ!」

「いいですか? 先輩。先輩はあと1年で卒業です。そうなったら翔也と会える機会も少なくなるんですよ? 学校を卒業してもずっとストーカーをするつもりですか?

「え? はい、もちろん」

「やべえこの人目がマジだ!? そんな曇りが無い純粋な目をしながらストーカーとして生きていく覚悟決めないでください!」


 まるで将来の夢を語る幼稚園児みたいな純粋な目をして中身は不純極まりなさすぎるだろ!


「そ、それに……い、1年もあれば!」

「それ去年も聞きましたし、去年それで何も出来なかったのは先輩ですよね?」

「………………………………はい」


 先輩は小さな体を引きずって隅に移動し、そのまま体育座りをしてしまった。

 しまった、言い過ぎた。


「それに早い内から知り合っておけば、この1年はイベントだらけですよ? お花見はもう過ぎてるとしても、夏休み、花火大会、海やプール、クリスマス、年越し」

「た、確かに……」

「早くしないとデートを出来るイベントがどんどん無くなってきて……もしかしたら翔也好みの他のポッと出ロリに翔也が取られるかもしれませんよ?」


 自分で言っておいてなんだけど……他のポッと出ロリなんてパワーワード絶対2度と使わない自信がある。というか使ってたまるか。


「それは嫌です! ……けど……」

「このまま何もしなかったら、待ってるのは確実にその未来です」

「……もしかして、雨宮くん疲れてますか? やけに言葉の節々に棘を感じますけど……」

「いえ、昨日家で穴空きのゴムを見つけてしまいまして……俺もそろそろ本当にやばいかなって思ったら……」

「た、大変なんですね……それなのに相談に持ってもらった上に作戦の提案までしてもらってごめんなさい」


 ははは、と口から乾いた笑いが思わず漏れてしまった。

 もちろんそのゴムは見つけた瞬間ゴミ箱にたたき込んでおいたけど。

 奏多のことは先輩にも話していて、たまにこうやって愚痴を聞いてもらってるから持ちつ持たれつだ。


「……私、翔也君に会います」

「いいんですか?」

「はい。私、覚悟を決めました! 翔也君と会って……それで、それで……! あうぅっ……」 


 翔也と会うことを想像しただけでこんなに顔を真っ赤にするなんて……実際に会ったら心肺停止しちゃわない? 大丈夫かこれ。


 ……やっぱり強引に早まり過ぎたか?


◇◇◇


「翔也、こちら咲良真穂ちゃん」

「は、初めまして! 佐倉真穂と言います!」

「…………………………………だ、大地」


 GW初日、俺は翔也と咲良先輩を引き合わせた。

 翔也には先輩のことを1学年下の後輩として伝えてある。

 流石に12歳とは言えないからな……。


「どうした、翔也?」


 先輩を見るなり、翔也は俺の名前を呟いて完全に動きを停止させていた。

 ……やっぱ1学年下ってだけじゃ無理だったか? ワンチャン小学生で通せる可能性を信じた方が良かったかも。


「どうやってこんな可愛い子と知り合ったんだい!? もっと早くに紹介してくれればよかったのに!」

「あー……たまたま学校で困ってたところを助けて、それで知り合った。ずっとお前に憧れてたんだとよ」


 あ、OKなんすね。そうなんすね。


「でも紹介も何も……お前恋愛対象12歳以下じゃん」

「確かにそうだけど……それは置いておいて、友達としてならこんな可愛い子だったら是非僕から仲良くして欲しいぐらいだよ!」

「だってよ、せんぱ……咲良。良かったな」

「はい! あ、あの……高塚先輩」

「ん、何かな?」

「翔也君って呼んでも……いいですか?」

「ぐはぁっ!?」


 偽装後輩こと、咲良先輩の一言で翔也は膝から地面に崩れ落ちた。

 幸せそうだなこのロリコン。


「厚かましいお願いかもしれないんですけど――」

「もちろん構わないよ! 僕も真穂ちゃんって呼んでいいかい?」

「はい!」

「大地! 天国はここにあったんだね!? あぁ、僕は一体どうすれば!?」

「手を出す前に警察に自首しとけばいいんじゃね? とりあえずは連絡先でも交換したらどうだ?」


 俺の一言に先輩と翔也がスマホを取り出して、連絡先を交換し始める。

 片やロリコン、片やストーカーの連絡先交換ってすげえ現場だな、おい。

 ……ひとまず、俺の出番はここまでかな?


「じゃ、あとは若いお2人で」

「雨宮く……先輩、ありがとうございます! この恩はいずれ返します! 必ず!」

「そこまでのことじゃないから。じゃ、俺は帰るな」

「はい! 帰りましょう! そして、残り時間はわたしとでーとしましょう! そしてGWのお休みをホテルで過ごしましょう!」

「するか! ……ってなんでお前がここにいるんだよ!? というかどこから湧いた!?」


 こいつさっきまでいなかったよな!? 怖っ!? 


「せんぱいのいるところわたしあり! ですから!」

「そういうのいいから……なんで俺がここにいるって?」

「それはもちろんとうさ……とうちょ……愛の力です!」

「おい今聞き捨てならない単語が2つほど聞こえたぞ!? 本当に仕掛けてないだろうな!?」

「……じゃあ、僕たちは行こうか。真穂ちゃん」

「そうですね、翔也君。あとは若いお2人で、ですね」


 待て待て待て待て!? 

 余計な空気を読んでんじゃねえよ! このロリーカーコンビが!


「待ってくれ! 待ってください! この変態ストーカーと2人きりにされたらやばい!」

「それって2人でいると理性が飛んじゃうってことですか!? うぇるかむです!」

「お願いだからちょっと静かにしてようね! くっつくな! 離れろ!」


 だあっ!? 腕を組まれると右肘に幸せな弾力が!? おい右肘そこ代われ! ……じゃなくて落ち着け俺!


「2人は本当に仲良しだね。やっぱりちょっと羨ましいな」

「しょ、翔也君さえよければ……その……」

「真穂ちゃん……」


 どうしてロリコンとストーカーと変態がこの場に集結しちゃったかなぁ!? 俺1人じゃツッコミ切れねえよ!

 幸せそうに笑う翔也と咲良先輩、いつも通り変態な奏多を見て、俺は額に手を当てて天を仰ぎ見た。

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