第9話 変態後輩と1日の終わり
「ごちそうさまでした」
「おそまつさまでした! せんぱい、このあとどうします? お風呂にしますか? それともぉ――」
「風呂」
「ああんせんぱいつれないですっ! でもそんなとこも素敵です!」
こいつ段々俺の言ったこと全肯定botに成り下がってないか? 大丈夫? 頭の病院行った方がいいんじゃない?
「とりあえずは洗い物済ませてからだな……おい、そのマグカップもう使わないなら一緒に洗うから渡せ」
「え? わたしのカップですか? Cです!」
「知らねえよ! いや知ってるけど!」
「やんっ♪ せんぱいのえっち♪」
「知りたくもないのにお前がわざわざ自分で伝えてきたんだろうが! 嫌でも言われたことが衝撃的過ぎて記憶に焼き付いてるんだっての!」
同棲初日から自己紹介でいきなり何を伝えられたのかと思ったわ!
「……もういいから早く食器貸せ」
「わたしの使用した食器で何をする気なんですかぁ?」
「洗い物ってさっき言ったよね!? というか女子が使った食器で興奮出来るほど高度な性癖は持ち合わせてねえんだよ!」
「わたしはせんぱいのなら興奮出来ますけどね!」
「1週回ってマジで流石だなお前!?」
こいつには絶対洗い物と洗濯は任せないようにしよう。
「……とりあえず風呂沸かしといてくれ、俺はこっちを終わらせるから」
「あいあいさー♪」
びしっとあざとい敬礼をして、奏多は風呂場にたたっと駆け込んでいった。
……やれやれ、ようやく一息つける。
「きゃあっ!?」
風呂場から奏多の悲鳴が!?
俺は急いで風呂場に向かう。
「どうした!? 何があった!?」
「う、うぅ……せんぱぁい……蛇口捻ろうとしたらまちがえてシャワーの方捻っちゃいましたぁ……わたしこんなに濡れちゃいましたぁ……」
「それあるあるだけど言い方ァ!」
風呂場には頭からシャワーの水を被り、ずぶ濡れになった奏多がいた。
……服が肌に張り付いて透けて見えるせいで全裸よりエロい気がしてならない。
「……なるほどぉ、こういうのがせんぱいの好みなんですかー」
「いいから早く着替えろ! それで風邪引いても面倒見てやらんからな!」
「はぁい。とりあえずわたしシャワー浴びたいので……あ、一緒にどうですか?」
「アホか! ……俺も洗い物に戻るぞ」
俺が洗い物をする為にリビングに戻って間もなく、シャワーの音が聞こえてきた。
……あぁ、洗い物をしてると落ち着く……何も考えずに出来る作業って最高だな。
◇◇◇
「よし、一通り終わったな」
洗い物を全部洗い終わり、俺はソファに体を沈めた。
「せぇんぱいっ! お待たせしましたぁ」
「別に待ってねえ……ってだからなんで服着てねえんだよ!?」
風呂場から出てきた奏多はバスタオルを体に巻いただけの姿だった。
俺は咄嗟に顔を逸らして、奏多を視界から外す。
「着替え忘れちゃいまして!」
「……あぁ、そうか。すぐにシャワー浴びたんだもんな……いいから早く着替えてこい」
「はーいっ」
ったく、落ち着いて座ってもいられない……。
再びソファに体を沈めると、すぐに睡魔がやってきた。
やべっ……気を抜いたせいで……ねむ……。
――俺の意識はすぐに闇の中に沈んでいった。
――何時間そうしていたのかは分からないけど、瞼に眩しさを感じた俺は自分が眠りから覚めたってことに気が付いた。
それに、なんか肩が暖かくて重い……?
「くぅ……くぅ……ん、せんぱい……」
重みを感じた右の肩を見ると、奏多が寄りかかって幸せそうに寝息を立てていた。
ご丁寧に俺のことを寝言で呼ぶおまけ付きだ。
「……はぁ。ちゃんと髪乾かしてないなこいつ」
髪の乾き具合から見て、俺が眠ってからそこまで時間は経ってない。
だから余計にシャンプーとボディソープの匂いが強いのか……。
「さて……とりあえず動きたいんだけど……起こすのもなんか悪いしなぁ……」
こいつと暮らし始めてから1ヶ月近く経つけど……日に日にこいつに対して甘くなってきてるような気がしてならない。
……許嫁、ねえ。
こいつが変態じゃなかったら真面目に考えてたかもなぁ。
俺の歳で許嫁だとか考えられないし、普通の恋愛がしたい俺にとっては重すぎる話だけど。 言動はともかく、こいつの気持ちは真剣そのもの。
……というか、そもそもなんで奏多は俺のことが好きなんだ? それこそ俺が考えても仕方がない、か。
「んっ……せんぱい……! あっ、そこは……!」
「……おい、お前起きてるだろ」
「寝てますぅ……すやすやですぅ」
「起きてんじゃねえか」
「やんっ、せんぱいってばらんぼぉ♪」
押しのけるように奏多を遠ざけ、俺は立ち上がった。
さて、俺も風呂入るか。
「お供します!」
「せんでいい」
「お背中を!」
「流さんでいい」
「ぶーっ。せんぱいのけちっ!」
むくれてもダメなものはダメ!
あー、やっぱこいつと許嫁とかないない。
毎日ツッコミ疲れるとか勘弁して欲しいしな。
「くちゅん!」
「……あーもう! ちゃんと髪乾かさないからだぞ! ほら乾かしてやるからこっち来い!」
ドライヤーを持ってきて、奏多を鏡の前に座らせた。
その奏多は何故かぽかんとした顔をしていて、鏡越しに俺と目が合った。
「……なんだよ?」
「いえ、まさかせんぱいから髪を乾かしてくれるって言ってくれるとは思ってなくて……」
「……どうせこれで風邪引いたら俺が看病することになるんだろうしな。手間は早めに潰しておくに越したことはない。それだけだ」
「……えへへ、そういうことにしておいてあげますっ!」
なんで上から目線なんだよ、というのは言わないでおいた。
これ以上のツッコミは喉への負担がやばそうだしな……のど飴ぐらい常備しておくか。
「せんぱい手慣れてますね? はっ!? まさかわたしの為に練習を!?」
「するか! 妹によく頼まれてたからだ!」
喉への気遣いなんて無かった。
……まあ、こいつといると面倒だけど退屈はしないわ。
その後、風呂に入っていると奏多が乱入してきて、やっぱり面倒なだけだと思ったのは、また別の話。
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